私に近づく男性にだけ凶暴化して追い払う猫の正体は冷徹侯爵でした
国王が貴族達の社交の場として開放している広大で美しい庭園がある。
そこで友人が素敵な伯爵と出会い婚約したと聞いて。
私も、素晴らしい出会いがしたい。
そんな期待を胸に馬車に乗り行ってみた昼下がり。
青空の下に広がる庭園は想像以上に美しく、花壇に花々が咲き誇り、蝶や小鳥が戯れている。
猫もいる。可愛いと笑顔になれた。
緊張している気持ちをもう少し解くためにも、まずは猫や花壇を見ながら庭園を歩こう。
人々はみんな同じように庭園をゆっくり散歩している。夫婦か恋人の二人連れ、友人同士、一人で歩いている令嬢に殿方……自分と同じような年頃の。
まだはっきりとは顔を確認できない、ドキドキして。
一旦、落ち着くためにベンチに座りましょう。
木陰の木製のベンチには猫の先客がいた。
国王陛下は猫好きだから、この庭園は猫のためでもあるという。貴族達も猫に敬意を払い大事にしていて。
猫達は誰にも気兼ねなく、気持ち良さそうにのんびりしている。
「お隣、よろしいかしら?」
「にゃーん」
鳴き声のトーンからしていいみたい。
そっと隣に座ると興味深そうに私を見てきた。
私も子供の頃にどこからか庭に来ていた猫を愛でて仲良くなったのを思い出した。
「可愛いですわね。な、撫でていいかしら?」
思わず伸ばした手を猫は拒まなかった。
指先で背中をさわさわ、なでなで、猫は気持ち良さそうにしてくれた。
「しばらく庭園に来ることになりそうですわ。よろしくね」
結局その日は猫と過ごしたことに満足して帰った。
しばらくはこうして、庭園に慣れていこう。
通う楽しみが猫になってしまいそうではあるけれど。
男性との出会いも、挨拶をしてすれ違うくらいなら。
私と同じ年頃や少し年上の伯爵様、公爵様までいらっしゃるのには驚いて緊張してしまった。
でも、一番緊張した相手はルカ・バネット侯爵様。
お噂に聞いたり遠目で見た通り、近くで見ても美しく冷徹な印象で……
「ごきげんよう」
少し低い落ち着いた声に挨拶されて。
緊張が高まってしまい、挨拶を返すので精一杯で。
ここから始まる出会いとは到底思えなかった……
何事もないように微笑みを交わして、すれ違う。
それだけ、胸の高鳴りと釣り合わない。
落ち込むのと緊張を解くためにベンチに座る。
ため息をつく私を猫達が癒やしてくれた。
この猫達がいれば――庭園に来る理由はそれだけになってしまっても良い。
本気でそう思うくらい、仲良しな猫は増えていった。
庭園に行くのは猫達が日向ぼっこする昼下がり、ベンチに座ると猫達が挨拶に来てくれるようになっていた。
そんななかで今日は美しい猫が現れた。
グレーの猫。
短毛でスラリとしていて長いしっぽを優雅に振り。
エメラルドのような瞳の猫目をフッと細める顔が何かカッコイイ。
佇まいは静かで出会いは音もなく、いつの間にか目の前に座っていて、ベンチに座る私を見ていた。
「こんにちは」
笑顔で挨拶すると、
「にゃーん」
綺麗な鳴き声で挨拶を返してくれた。
「お隣、どうぞ」
私から誘ってみる。
猫と座ったら殿方と座れなくなるけど……
そう一瞬よぎったけれど、一瞬だけだった。
「にゃあ」
猫の可愛い返事が聞こえたから。
グレー猫はスマートな身のこなしで立ち上がり、ひらりとベンチに乗ると隣に座ってくれた。
そのまま、私をじっと見つめて――見つめあっていると。
ゴロゴロ、ゴロゴロと喉を鳴らしはじめてくれた。
喜んでくれているみたい。
「撫でてもいいかしら?」
私の差し出した手を見て。
グレー猫は驚いたように猫目を開いた。ダメかしらと手を引っ込めようとしたら、フッと目を細めて受け身の様子を見せてくれた。
そっと、なでなで背中を撫でるとゴロゴロを続けてくれた。
「可愛いですわね〜」
幸せな気持ちが溢れてくる。
その日から美しいグレー猫とも庭園で過ごすようになった。礼儀正しいような猫でこちらが誘うまでは距離を取っていて、スリスリとか甘えたりもしてこない。
ただ隣に穏やかに座って、ゴロゴロ喉を鳴らしてる。
「お膝にどうぞ」
思い立って誘ってみた。
グレー猫は、ぽんぽんと手で叩いて誘う膝をじっと見つめて、遠慮するような瞳で見上げてきた。
「ご遠慮なく」
笑顔で誘うと。
そろそろと乗ってきてくれた。
ゆっくりと前足と後ろ足を慎重に動かして、膝を踏むのをためらいがちに気をつけてくれているみたい。
やっと前足を折りたたんで座りこんだけれど、緊張しているように固まっている。
ほぐすように背中をいつも通り撫でるとゴロゴロ喉を鳴らしてくれた。
「気持ちのいい日差しね」
幸せな気分を分かちあえているのがわかる。
「猫しか見えなくなってしまっているみたい、私……」
人間の男性よりも猫を興味津々に眺めている。
膝に座る大人しい態度に手入れのされた毛並み、このグレー猫様は飼い猫かしら?
私も猫を家に迎えたい、猫と暮らすのを歓迎してくれる人と出会えたら――
忘れかけていた人間の男性との出会い。
思い出したところに、一人の若い男性が近づいてきた。
彼は確か、庭園で何度か挨拶した、ギルバート伯爵子息。
「ごきげんよう、ルーシー嬢」
彼は礼儀正しくも親しげに挨拶してくれた。
「ごきげんよう、ギルバート様」
笑顔を交わせた。これが出会いかしら?
期待と不安にドキドキしていると。
ギルバート様の目線は私から膝の猫にいった。
「猫が好きなのかい?」
笑顔とともに聞いてきた。
ギルバート様も猫好きかしら?
期待が膨らんだ時、
「ゔーー」
唸り声が膝から聞こえてきた。
グレー猫がギルバート様を威嚇してる!
「や、やぁ、猫君」
驚きと焦りのなかでも。
ギルバート様は困った顔に笑顔を浮かべて、少し前屈みになった。
「シャー!」
グレー猫は本格的な威嚇をした。
ギルバート様は咄嗟に身を引き、恐れたように狼狽えて私を見た。
「ははは、君の膝での眠りを邪魔したから機嫌が悪いみたいだね」
私はなんとも返せなかったけれど。
グレー猫はその通りだと言わんばかりにフンと一息ついて座り直した。
今日は失礼するよとギルバート様は行ってしまった。
その後も――
グレー猫は近づく男性を威嚇して時には前足で攻撃までしようとした。
退散していく男性達を私は座ったまま見送るしかなく。
膝に座るグレー猫に聞いてみることにした。
「男性が嫌いなの?」
グレー猫は黙って私を見上げた。
「人は嫌いじゃないですわね?」
お年を召した男性や若くても女性や子供には大人しいし。
私の膝に座っているし。
背中を撫でてみるとゴロゴロいってくれているし。
「私のことは好きかしら?」
気がかりでつい聞いてみると。
グレー猫は私を見つめて、
「にゃ!」
力強く鳴いてくれた。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
一生懸命訴えるみたいに必死に鳴いてくれてる。
「ありがとう、私も好きですわ」
心から感動して泣き笑いしそうになりながら。
分かりあえた喜びのままに背中をなでなで。
周りの猫も感化されたのか、鳴いたりスリスリしてくれた。
そんな幸せの次の日。
庭園に向かうとベンチにつく前に男性に出会った。
グレー猫に威嚇されて退散した一人、マティアス伯爵様だわ。
「ベンチにいる君に近づくと猫に邪魔されるからね」
彼は策士のような笑みをみせた。
私は少し身構えてしまい。
グレー猫に嫌われている彼と親しくなるのを、無意識に考え躊躇してしまった。
そんな内心が顔に出たのか、マティアス様は聞いてきた。
「別に、猫に反対されたら君に言い寄ってはいけないという法もないだろう?」
笑って気にしない彼に。
確かにと、うなずいてしまいそうになった時。
傍らの木の上から何かが飛んできた――!
それはグレー猫で私の肩にドンと着地するや、
「シャー! シャー!!」
ギルバート様を猛烈に威嚇しはじめて、
「うわっ」
驚きのあまり後ずさる彼の前に立ちはだかると、威嚇しながらジリジリと詰め寄り。
ついには逃げ出すマティアス様の後を追いかけていってしまった。
遊歩道を疾走して木々の向こうに消えてしまった伯爵と猫。
肩を押さえながら見ているしかなかった私は、どちらが戻ってくるのかとハラハラしていた。
けれど――どちらも戻って来ず。
伯爵様と猫が消えた道から現れたのは侯爵様だった。
「ルカ・バネット侯爵様……?」
彼は少し速い足取りで私のほうに近づいてきた。
美しい銀髪はなびき、研ぎ澄まされたような緑の瞳はまっすぐ私を見ていて、スラリとした体を包むスーツは風にひるがえり。普段の彼からは想像もできない乱れが見えた。
このまま伯爵家の娘の前に立つとは思えない、彼なら失礼と断って一息つき身だしなみを整えそうな状況で、
「大丈夫だったか!?」
一番にした行動が私への問いかけだった。
「えっ?」
何のことかしら?
予期せぬ質問に一瞬頭が真っ白になり、戸惑う私の姿をバネット侯爵様は確かめて。
両手で触れそうで触れないようにしながら。
その目を私の肩に向けた。
「肩だ。ドンっと音がするほど強く乗ってしまっただろう!?」
「あぁ……」
猫のことですねと私も肩に目を向けた。
触れてみても痛みはなく、何でもないと思えた。
そう伝えようとしたけれど、
「すまないっ、痛かったろう? もっとトンと軽く着地できると思ったのに! 一生の失態だった!」
バネット侯爵様は必死に謝り続けた。
まるで肩に飛び乗った猫目線で……?
「あの男を追い払うことに夢中で、肝心の君を傷つけてしまうような真似してしまった。許してほしい……!」
訴えるようなじっと見つめる瞳は猫みたい。
「バネット侯爵様? 貴方がグレー猫様だったのですか?」
私の動揺とは反対に。
侯爵様はギクリとしたものの瞬時に腹をくくったように真剣な表情に戻った。
「そうだ。だから、教えてくれ。怪我はないか?」
「あ、ありませんわ」
「本当か? 見せてくれ」
私をさらに動揺させるように。
侯爵様は肩に手を置いた。
「肉球で踏んだつもりだが、爪を立ててしまったかもしれない。怪我がないか確認させてくれ」
「えっ、いえっ、平気ですわ! 肉球の感触しかありませんでしたし痛くもありませんし」
「こんな道端で見せろとは言わない、木陰か馬車の中で」
「そ、そんな問題ではっ」
どこであろうと男性に肌を見せるのは!
私の恥ずかしがる気持ちに気づいたのか、侯爵様は一瞬動きを止めた。
「わかった、男の私のままでは抵抗があるなら猫の姿ならいいだろう?」
言いながら少し後ずさると。
瞬く間に人間から猫の姿になってみせた。
私がよく知っているグレー猫に、間違いなく侯爵様が……!
「さぁ、見せてくれ」
と言うように前足を上げて催促する姿は可愛い。
けれど、だからって――
「猫になればいいというものではありませんわっ。中身はバネット侯爵様なのですから、恥ずかしいことに変わりありません」
私の訴えに侯爵様は目を見開き。
しゅんとしたように耳をさげて前足を地面につき大人しくなった。
そのまま――人間の姿に戻ってしまい。
彼とは思えない弱々しい姿が私の目に映った。
「そうだな、貴女の言う通りだ」
侯爵様は同意してくださると。
貴族男性らしく、片膝をついて頭をさげた。
「猫の姿で貴女に与えた非礼、許していただきたい」
本来の姿を完全に取り戻した振る舞い。
私の心も一緒に落ちついてきた――
「もちろんですわ。もう気になさらないでください」
「ありがとうございます……」
侯爵様は顔を上げてまた見つめてきた。
今度は猫よりも弱々しい瞳で。
「無礼な振る舞いはもう致さないと誓います。だからどうか、いつものベンチまでエスコートさせていただけないだろうか? 人間の姿で」
「お願いいたしますわ」
喜んで差し出した私の手を侯爵様は優しく取ってくださった。
人間の姿で二人で並んで歩き、いつものベンチへ。
まさか、ルカ・バネット侯爵様とこんな風になるなんて。
思いもしなかった、ドキドキと胸が高鳴ってきて――
ベンチに座って落ち着かなければ、そう思ったのに。
「お隣、どうぞ」
つい誘ってしまっていた。
「ありがとう」
侯爵様は微笑んで腰掛けてくれて。
猫の時とはもちろん存在感も距離感も全然違う。
ドキドキが落ち着くどころか速まっていってしまう!
静かに座ったまま。
お互いに慣れない様子で、ぎこちなくなっていると。
男女の二人連れが近づいてきた。伯爵夫妻だわ。
にこやかに挨拶を交わすと、
「バネット侯爵、先ほど……猫になっていませんでしたか?」
「見間違いではありませんわよね?」
どうやら二人は目撃者みたい。
「ええ、猫になっていましたよ」
侯爵様は潔く認められた。
「まさか、貴方が猫に?」
「やっぱり! でも、信じられませんわ」
「何か理由がおありでしょう? 国王からの命令とか、お役目の姿であり、まさか個人的に猫になったなんてないでしょうね?」
二人ともそうだとうなずいている。
冷徹な侯爵様が猫になるなんて余程の事だと。
「王命や役目ではありません」
侯爵様は穏やかにだけどキッパリと否定した。
「私でも、どうしても重要なことならば個人的に猫になりますよ」
重要なこと――
その言葉に私だけでなく二人も引っかかったようだけれど。個人的と聞いて踏み込んで聞けないみたい。
「私も、猫は好きですしね」
侯爵様は微笑んだ。
「お好きでしたのね、猫」
「それは良いことですね」
お二人は微笑みを返した。
去っていく後ろ姿を見送って、しばし沈黙がまた訪れた。
「お好きなのですね、猫」
勇気を出して私から聞いてみると。
「ええ、最近、特に好きになりました」
侯爵様は微笑んでくださった。
けれど、すぐに表情は真面目なものになって。
「しかし、貴女の言う通り、猫になっても中身は私です」
悲痛にも聞こえる声がいった。
「私が猫になったところで……貴女を傷つけ迷惑をかけるならもう、会いに来るのはやめにいたします」
「えっ」
グレー猫になって会いに来てくださらなくなる?
「今まで、ありがとうございました」
別れのようなセリフ……
「とても素晴らしい……大切な一時でした」
それなら、なぜ?
急に現れて急に去っていくなんて猫みたいなこと――
猫ならどうにもできず、受け入れるしかないけど。
ルカ・バネット侯爵様という一人の男性なら。
ルーシーという一人の女性である私が引き止めることができる。
「待ってくださいませっ」
思いきって言ってから。
「どうして、私に会いに来てくださっていたのですか?」
疑問を口にしていた。
教えてほしいと猫のつもりで訴える目を見た侯爵様は、立ち上がりかけていた腰をおろした。
「貴女に会いに来ていた理由は、お近づきになりたかったからです」
侯爵様ははっきりとそう断言して。
私を見据えていた目線を下にすると、みるみる顔を赤くしていく。
「猫と戯れる貴女を見て、猫はいいなと、猫になれば同じように貴女と……」
照れが極まったような顔は。
今度はみるみる悲しげになっていった。
「男のままの私は仕事しかしてこず、社交の場では不器用で女性とは社交辞令を交わすだけ。猫で上手く貴女と仲良くなれようとも中身はそんな男のまま。先ほどのような失態までやらかしてしまい……」
侯爵様の視線は私の肩に注がれた。
「すまなかった。髪は踏まなかったろうか?」
「大丈夫ですわ」
「よかった……美しい髪を、貴女を傷つけたとあっては猫なら許されるかもしれないが私では許されない」
自分への怒りのこもったような声音で言うと。
侯爵様は私の瞳を見つめてきた。
「ただ、傷つけたかったわけではないんだ。貴女に近づく男を追い払うために……嫉妬心からした行動なんだ。それでこんな失態をするなど恥ずかしいな」
恥ずかしそうに笑う侯爵様が信じられない。
私に近づくために? 私に近づく男を追い払うために?
「正々堂々、男の姿で追い払うべきだった。今度はそうしたいものだが……っ」
男性の姿でも?
それはまるで侯爵様が私に……
「侯爵様、あの、それは」
なんと聞けばいいかわからない。
戸惑ってうつむく私の手を侯爵様の手が握った。
「私は猫ではなく一人の男性として、ルーシー、貴女を想っているということだ」
まっすぐ見つめてくる瞳は真剣だと言っている。
「このまま人間として、お付き合いできないだろうか? やはり無様な猫の姿を晒した私では無理か?」
「無様なんて、可愛かったですわ」
「ありがとう……っ」
私達はやっと笑顔を交わせた。
ドキドキした鼓動の速さと熱めの体温も、二人とも猫になったような少しの間の静かな一時。
次第に想いあえていることが実感ができてきた。
冷徹で近寄りがたいと感じていた侯爵様が、猫になって私と戯れていたのも現実なのね。
思い返すと確かに、猫でも侯爵様らしさあった。
冷徹な猫、可愛さに笑ってしまいそう。
「膝に座らせてもらえて、光栄だったよ」
侯爵様は微笑んだ。
私の膝に……気恥ずかくなってしまうけれど。
でも、男女になっての会話も楽しいし聞きたいことはいっぱい。
遠慮せず次の質問をしてみよう。
「す、座り心地はいかがでしたか?」
「す、素晴らしく心地よかった。猫でよかったと思ったよ」
笑ってから侯爵様はハッとしたように私を見た。
「今度は、君が私の膝に座ってくれ」
「えっ!?」
ぽんぽんと叩かれた膝は。
私の膝よりがっしりしていて、座り心地良さそうだけれど。
「このまま!?」
人間の私ではさすがに重いし。
恥ずかしさが勝ってしまうから遠慮すると。
「そのままでも歓迎するが」
侯爵様は猫のように目を細めて不敵な感じで微笑んだ。
「お望みなら、猫になる魔法をお教えしよう」
「はいっ、ぜひ!」
猫になって侯爵様の膝に座った時。
私と彼の距離はなくなり、深く分かりあえた。
好きな人の膝、撫でてもらい、ゴロゴロ。
気持ち良さに心も体が溶けてしまうということを、知ってしまったからには――
それと鳴き声の意味も知ってしまったから。
「にゃにゃにゃ!」
侯爵様が伝えてくれたように私も。
沢山好き! と鳴いてみる。
「ルーシー! その鳴き方はっ……!」
気づいてくれた後、
「 わ、私も好きだ!!」
侯爵様は顔を真赤にしつつ言ってくれた。
私達の交際が始まって。
ルカ様の屋敷にも招いていただくと。
「猫が沢山いますね」
屋敷の中にも庭にも。
気品のある猫から歴戦の勇士のような猫まで自由に過ごしている。
ベンチに腰掛ける私達に近づいてきた白猫をルカ様は優しく抱き上げた。
「あぁ、最初の目的は猫の生態を観察するためだったが、今では仲の良い友となっているよ」
ルカ様の言葉に応えてるように。
白猫は膝に座りゴロゴロ喉を鳴らしはじめた。
「ルーシーのおかげで猫の良さに気づけたし、今では仕事の癒やしにもなって助かっているし、それだけではい」
「他にも何か?」
「国王陛下に喜ばれた。私はどうやら猫をあまり好きではないと誤解されていたらしい。以前、猫になっていたかと聞いてきた伯爵夫妻から話が伝わったようで陛下にこう言われたよ "お前は猫のことを心の中では興味がない、もしくは嫌っているだろうと思っていた。冷徹で規則正しいルカ・バネット侯爵と可愛く自由奔放な猫では正反対だからな。それが、猫になるほど好きだったとは嬉しいぞ。それでこそ、私の腹心だと」
「よかったですわ」
「君のおかげだよ。陛下に仕事だけでなく人柄も真実の姿を見てもらえて気に入られた」
ルカ様は喜んだ後で少し困ったように笑った。
「猫になってほしそうにされるのには参ったが。私が猫になるのはやはり君のためだからね」
いたずらっぽく微笑んだルカ様は。
私に優しいキスをしてくれた。
それから私達は婚約を経て夫婦となり。
「今日は、庭園に散歩に行こうか」
「ええ、行きましょう」
「猫と人、どちらがいい?」
「猫で!」
私とルカ様は秘密めいた笑みを交わした。
猫達だけが秘密を知っていて馬車を見送ってくれる。
貴族達の間では猫公爵と猫婦人と少し可愛いあだ名で呼ばれはじめている。
本当に猫になって戯れていることが知られるのは先の話。
ロマンチックな出会いとして可愛らしい内容に改変されて人々に語られることになる――
グレー猫の嫉妬心や必死な振る舞いは、私だけの秘密。




