馬鹿につける薬は無い ~ポイントが貯まりましたので婚約破棄いたします~
読んでいただきありがとうございます。
「お父様ついに5ポイント貯まりましたわ」
私は父に最後のサインを迫る。
「しかしどうしてあんなに真面目なモリス伯爵家の子息が、同じことを繰り返してしまうのか……。」
お父様はぶつぶつ言いながら、この3年かけて集めた不貞の証拠と内容が明記された契約書に最後のサインをした。
「仕方がありませんね、学習能力がないのでしょう」
父から受け取った契約書を天井に向け高く掲げ、私は宣言した。
「これで私は自由を手に入れましたわ!」
「あー。すっきりしました。お父様!婚約破棄の手続きと慰謝料請求、モリス家とお相手の5家にもすべて請求してくださいね、そのお金で私は傷ついた心を癒すため、ゆっくりしてまいりますので」
ひらひらと手を振る私を父が呼び止める。
「ステラ、お前はもう18歳だ、ゆっくりしていられないぞ、我が伯爵家の跡取りはお前しかいないんだから次の相手を見つけなければ」
「あらいやだお父様、後継者教育でしたらずいぶん前にお墨付きをいただきましたし。始めた事業も順調ですわ、お父様だってまだバリバリ働けますでしょ?ご縁を急ぐことありません」
「18歳ともなれば婿に来れる貴族子息は少なんだぞ」
「何十年もゆっくりするなんて言ってませんのに!大体お父様があんな屑を私のお婿さんにしようとするからいけないのです!」
思わず 怒りで手に持つ扇子を折りそうになりました。
「少し浮気されてもステラのしりに惹かれるくらいがちょうどいいんだよ」
「少し浮気ですって!!!! お父様は浮気される妻の気持ちがわかりますか!」
命拾いしたはずの扇子は真っ二つに折れ、お父様の後ろにある花瓶に命中。花瓶は大きな音を立てて割れた。
お父様の顔が青い。
「もしお父様も浮気を少しくらい……。なんて気軽に浮気をしているのでしたら、お母様と一緒に眼にもの見せて差し上げますからね。」
お母様は伯爵夫人にして、グラン公爵夫人と共に社交界の双璧と言われる人だ、敵に回して勝てるはずがない。
「……。」
「でわ、迎えの馬車も待たせていますからそろそろ行きますね」
「どこに行くんだステラ!」
父がフルフルと震える手を伸ばす。
「ろくなことを言わないお父様には内緒ですわ~」
私はひらひらと手を振り、父の執務室をでてそのまま母方の祖父母が暮らす領地へと向かった。
✿ ✿ ✿
今回私が婚約を破棄する事に成功したモリス伯爵家令息のルーク様とは、3年前に父同士も仲が良く同じ伯爵位であったこともありルーク様がクラーク伯爵家に婿に入る形で結ばれた。
ただ、ルーク様は15歳という年齢ですでに移り気であきっぽく浮気性と有名だった。そんな人と絶対に婚約したくなかった15歳の私は、伯爵二人を相手に舌戦したのだけれど……。
最後はモリス伯爵に泣かれてしまい……。
条件を付けて婚約を結ぶことになりました。
婚約以降、不貞を働いた場合は即時に婚約破棄!と条件を提案しましたのに。モリス伯爵に必ず改心させるし一度の過ちは許してくれ!とまたもやめそめそ泣くものですから5ポイントたまったら破棄するルールとしました。
今思えば5ポイントも許して差し上げる必要はなかったですわ。私もまだまだ子供でした。
親の心配をよそにルーク様はさすがでした。婚約後半年で、ナターシャ様とリリー様との不貞が同時に発覚。
これにはモリス伯爵もすさまじい勢いで怒り、ルーク様は監視をつけられ1年くらいは浮気せず頑張っておいででした。
しかし学院に入学してモリス伯爵の監視の目が届かなくなると、直ぐにセレナ様とマチルダ様と校内で逢瀬を重ね始めて一カ月ほどで一線を越えました!
伯爵の監視がなくとも、私の協力者は学院内に沢山いますのよ。
そのあとは学院内でもモリス伯爵家と繋がりがある子息子女が、ルーク様を見張続けて、頑張りました一年半!しかし卒業を迎える頃になると監視役のみんな様も、おのおのの仕事や結婚準備などに忙しくなり、ルーク様がしばらくおとなしくしていたこともあり監視体制の隙ができる様になりました。
ルーク様はその隙を見逃さず、ついに5人目オリビア様をゲットしました~!
危なかったですわ、卒業すれはどんなに私が粘っても婚姻の話は進んでしまうでしょうから。モリス伯爵家一族の頑張りで、私の結婚もクラーク伯爵家の血筋も大変なことになるところでした。
だいたい不貞を繰り返し、自分が婿に入れるとなんで思うのかしら?
婿に入るはずの男性と関係を結んで自分に徳があると思うかしら?
お相手の令嬢達で婿を取らなければならない方は、最初のナターシャ様だけ。そのナターシャ様はルーク様との関係をもみ消して当家にも頭を下げ、今は優秀な子爵令息と婚約を結んでいるからいいものの。
他の4ポイントの方々は、この国の社交界で生きていくのは難しいでしょうね。
母の恐ろしさを知らないのかしら?
でもまあ、その5ポイントのおかげで私は自由になれました~。
ポイントにご協力いただいたみなさんには、ただただ感謝です。
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馬車で3日、おじい様とおばあ様の領地にたどり着きました~。
「まあ。ステラいらっしゃい」
「長旅ご苦労だったね。今回は長めにこちらにいることが出来るんだろう?」
「はい。おじい様 おばあ様。お世話になります」
しかし母の実家の辺境伯家は何度見てもお城にしか見えない構えでいつも圧倒される。
大きな玄関ホールでおじい様とおばあ様が出迎えてくれた。
「気苦労の多い3年間だったわね。ゆっくりしていきなさい」
「レオ叔父様にはいつご挨拶できるでしょう?」
「ああ午後になれば執務室に戻るだろうから尋ねるといい」
レオ叔父様は母の一番上の兄で、現サルファ辺境伯家の当主だ。
「でわ、裏のお庭を少し散策してもいいですか?」
「まあ。長旅だったのに疲れてないの?」
「裏庭から続く川と森が好きなんです。久しぶりにビスにも会いたいし」
「そうね。ビスも喜ぶわ」
ビスは裏の森に放し飼いになっているワーグウルフで、私が5歳の時に森で赤ちゃんのビスを拾った。
それ以来レオ叔父様が飼ってくれている。
私は軽く荷を解き、ワンピースに着替えると裏庭を抜けて木漏れ日の差す川岸にたどり着いた。
いつもの大きな樹の下に腰を下ろす。
「はあ~。久しぶりの美味しい空気ね」
両腕を空に向けて伸ばす。
「さて。ビスはどのあたりにいるかな~」
周囲を見渡すと川の上流からビスの鳴き声がする。
私は鳴き声がする方に目を向ける。
ビスも私に気がつきものすごい勢いで駆けてくる。
「わあ。ビス元気にしてた?私の事忘れてない?」
尻尾を振り振りするビスの首をワシワシと撫でる。
「ビス。おやつ持ってきたんだよ~」
私はワンピースのポケットから干し肉を出してビスに渡す。
あっという間に食べ終えたビスは私について来いと言う様に首を振り川の上流を目指す。
「ビス? なにかいいもでもあるの?」
少し進むと川に足が浸かった状態で、大きなマントにくるまれた白髪の人がうつ伏せに倒れている。
「ご老人かしら?大変だわ」
私は倒れた人に駆け寄った。
辺境伯出身の母に育てられた私は、母と同じく心も体も鍛えている。
ご老人の一人や二人軽く担げますわよ!
「大丈夫ですか?」そばにしゃがみ込み肩を揺らして声をかける。
ゆさゆさ肩をゆらすとうめき声が聞こえた。
慌てて体を仰向けにすると白髪は光が差し銀色に輝き、うっすらと開いた見える瞳は金色の青年だった。
「あれ!お年寄りでなくて青年だったわ ビス。
どうしてこんなところに倒れているの?」
「うぅ~。お腹が……。」
「ん?お腹が痛いの?」
「空いて……。動けない……。」
青年は泥だらけだけれど、着ている物は高級な仕立てで顔は絶世の美男子。
お菓子の袋があったはず。
干し肉とは逆のポケットを探り、キャンディーとビスケットを取り出した。
ビスケットを口に当ててみる。
青年はパクットビスケットを加えてもぐもぐと食べた。
かわいい。ウサギみたい。
もう一枚。もう一枚と次々口に入れて10枚あったビスケットを食べきった。
最後に一粒だけあったキャンディーを口に入れる。
ガリガリ ガリガリとキャンディーもかみ砕いて食べてしまった。
「ふふふ。面白い」
さて……。とにかく辺境伯家に運ばないとだけど。
さすがに成人男性を背負えるかしら。
青年は口に入ってくるものがなくなると、眠ったのか意識をなくしたのか呼吸をしてはいるが……。ピクリとも動かなくなった。
とにかく片腕を背負う様に持ち上げようとするが、びくともしない。
「ビス。どうしよう誰か呼んでくるまで彼をみていてくれる?」
彼を運ぼうと試みたことで、私もかなり泥だらけだ。
ビスは「ガウ」と短く吠えると頭で青年をひっくり返し、うつ伏せにしてマントごと首の付け根をがぶりと噛んでずるずる引きずる様に運んでいく。
「すごいビス!でもこの人大丈夫?首は閉まってない?」
私の疑問に青年は引きずられながら手を上げる。
「生きてるみたい……。」
ビスはずんずん進み裏庭まで来たところで、庭師に声をかけて人を集めてもらった。
✿ ✿ ✿
屋敷に運ばれた青年はお風呂に入り、もりもりご飯を食べて今はすやすやとふかふかのベッドで寝ている。
レオ叔父様とおばあ様と青年を見下ろす。
「この色味はキング侯爵家だね。あそこは確か3人息子がいたはずね」
「しかしなんでうちの裏山に倒れているんだ?
まあ。マントにもキング侯爵家の紋章が刺繍されていたから侯爵家の人間で間違いないだろうが」
「それにしてもステラは凄いものを拾って来たわね」
おばあ様がクスクス笑う。
「私も驚きましたわ、最初はご老人が倒れているのかと思って駆け寄ると美丈夫な青年で、ビスケットを食べる姿はウサギみたいでしたわ」
「ハハハ。ウサギとはかわいいな」
叔父様の笑い声で、青年が勢いよく体を起こした。
「ご迷惑おかけしております、私はキング侯爵家三男、セオと申します」
「まあ。驚いた、大きな声ね。少しは元気になったかしら?」
おばあ様がニコニコしながら声をかける。
「はい。助けていただきありがとうございます」
「しかしどうして辺境伯領に?」
「侯爵家が手掛ける商会の仕事を隣国で済ませ、帰国するためホスホマの峠を越えようとしました。4日ほど前のことです。従者や護衛も数名連れていたのですが商馬車に積んでいた荷物を山賊に狙われ、散り散に逃げました。
逃げた先で俺は崖を転がり落ちてしまい皆とはぐれてしまって、一人で森をさ迷っているうちに、空腹で意識が朦朧とし川の水を口にしたところで倒れてしまいました」
「またあの山賊どもか!直ぐに騎士団を出す。4日前だと助けられる者がいるかもしれない」
そう叫んでレオ叔父様は出て行った。
「おばあ様、山賊が出るんですか?」
「そうね、ホスホマの峠は危ないのよ、どうしてホスホマの峠を選んだの?」
「お恥ずかしい話なのですが、兄に跡継ぎが産まれる予定で……。隣国で見つけたプレゼントを早く届けたくて」
おばあ様のグーパンチがセオ様の顔に命中した。
「セオ!お前は家臣たちの命をなんだと思っているんだい!
ホスホマの峠が危険な事は知っていただろ!
自分の軽率な行いが何を招いたか、反省しなさい」
おばあ様はプリプリ怒って出て行ってしまった。
セオ様は両手の拳を血がにじむほど強く握り。ボロボロと泣いている。
私は少しの間、泣き続けるセオ様を見ていた。
窓から夕焼けが差し込んできたことに気がつき、ふとテーブルに視線を移すとセオ様の瞳の色と同じはちみつ色のキャンディーの包みがポツリと置かれていた。
キャンディーを手に取ると私はセオ様の固く握られた手を握り、キャンディーを包みから取り出すとグイっとセオ様の口に押し込んだ。
驚いてセオ様の涙がとあり、私と眼があった。
「セオ様、誰にも失敗はあります。自分の判断が大きな出来事につながってしまう事も……。でも失敗からどうするかが大切なのです。
私なんてつい先日、貴族令嬢なのに18歳で婚約破棄をしましたのよ」
セオ様の瞳が驚いて大きく開く。
「君は……。」
「私はセオ様を川から助けた、クラーク伯爵が娘、ステラと申します。
今回、私もセオ様も大きな失敗をしましたが落ち込んでいても前に進めません。
家臣の皆様はきっとレオ叔父様が助けてくれます。
叔父様はもの凄く強いんですから。
だから自分ができる事から始めましょ」
セオ様はガリガリとキャンディーを噛んで飲み込み、部屋を飛び出していった。
部屋を飛び出したセオ様が、おばあ様達に捜索に加わりたいと懇願していると、そこにレオ叔父様が戻ってきた。
なんと叔父様の騎士団は、半日で山賊を制圧し囚われていたキング侯爵家の皆さんを救出、さらに奪われた荷物も取り戻してきた!さすがレオ叔父様かっこいい。
それからセオ様は家臣の皆さんに自分の判断の甘さを謝罪したが、経験豊富な自分達が止めなかったことを逆に謝罪されていた。
素敵な関係だ。
✿ ✿ ✿
キング侯爵家とは今回のご縁で、レオ叔父様の騎士団と護衛騎士の合同訓練を、定期的に行うことになったみたいで喜ばしい。
家臣の皆さんは数日休養をとり体調が回復したところで、キング侯爵家へ戻ることとなった。
そしてなぜかセオ様は辺境伯家に並び、侯爵家の皆さんを共に送り出している。
「セオ様はどうしてこちらに?」
「ふふ。ちょっと鍛えなおしてほしいとキング侯爵からお願いされているのよ」
おばあ様がにやりと笑いながら話すと、おじい様とレオ叔父様がセオ様の背中をバンバン叩いている。
「鍛えてやるからな~」
「そうとう頑張らないと我妻の血を引く星は手ごわいぞ」
なんだか楽しそうね。
皆で屋敷に戻ろうとすると遠くで私の名前を呼ぶ声がする。
声に方に振り向くと、ぼろぼろの服のルーク様がこちらを目掛けて突進してくる。
「ステラ!婚約破棄は考え直してくれ、もう二度と浮気なんかしないから」
馬鹿ですの?モリス伯爵家の皆さんの監視の中で5ポイントも貯まりましたのに。
「馬鹿につける薬も情もないと父に家を追い出されたんだ、ステラ! 助けてくれ。ステラ」
モリス伯爵うまいこと言いますわね。決別を宣言しようと私が一歩前に出ると、さらに大きな一歩でセオ様が私の前に出た。
「ステラは私の婚約者だ!」
な なにをセオ様! 驚く私を振り替えりセオ様が私の肩を抱く。
見上げると破顔一笑のセオ様と眼があった。
んー。叔父様のパンチに匹敵する破壊力!
確かにこの数日セオ様と過ごす時間は穏やかで、商会の仕事の話など共通点も多く楽しかった。
セオ様と婚約……。意識したらドキドキが止まらない。
頬が熱い。
「嘘だ、ステラは僕が浮気を繰り返してもしても許してくれていたじゃないか?僕の事が好きだろ?ステラ」
「ゆるしてないんていませんわ!」
甘やかな空気を打ち破り私に近づこうとするルーク様にレオ叔父様のパンチがお見舞いされる。
「うちのステラを散々傷つけて置きながらよく顔が出せたな!」
凄い。人が飛ぶのを始めてみましたわ。
ルーク様はお腹にめり込んだパンチで5メートルくらい飛んでいきました。
「お~い。みんな、こちらのお方がホスホマの峠に行きたいそうだ、送ってやってくれ。頂上を少し過ぎたあたりなら隣国の奴らが見つけてくれるだろ」
叔父様が声をかけると騎士団の皆さんが、鳴き叫ぶルーク様を担いで去って行った。
「…………。」
騒ぎが治まり肩を抱いたままのセオ様と再び眼が合う。
「あの。さっきは勝手に宣言してすまなかった」
セオ様のまなざしが熱い。
「いえ。助けていただきありがとうございます」
「いや!あれはそうなりたいと思う俺の本心なんだ」
みるみるセオ様の顔が赤くなる。
「あ……。セオ様は私の事が好きなんですか?」
私ったらなんてことを聞くの!
顔が熱くて爆発しそうです。
「はい。大好きです!
俺は兄を補佐しずっと独り身でいるつもりだった自分が、ステラに会って一瞬で考えが変わった。
ずっと一緒に居たいと強く願った。
ステラの側に、ずっと一緒にいさせてください」
セオ様が片膝をつき私に手を差し出す。
私はこくりと頷きセオ様の手を取った。
「いたたたた……。痛いですクレア様」
おばあさまがセオ様の耳をぐいぐい引っ張っている。
「勝手に告白するんじゃありません。でもまあ、孫の幸せな顔が見れたからこの婚約は私が許可します!ただし私が鍛え直してからですよ」
セオ様は耳を引っ張っられたままおばあ様に屋敷の中に連れて行かれた……。
おじい様とレオ叔父様が左右から私の肩に優しく手をかける。
「クレアが認めたんだ。あいつなら大丈夫だろ」
「ステラ。幸せになりなさい」
私は肩に置かれた二人の手を握り答える。
「はい。幸せになりますわ」
「しかし母上の指導は厳しいぞ~」
「クレアには誰も敵わないからな~」
三人で綿いながら屋敷に戻った。
✿ ✿ ✿
それから半年後、正式に二人の婚約が結ばれセオ様はクラーク伯爵家の仕事を学ぶために、週の半分を伯爵家で過ごしている。
「セオ様、そろそろ休憩しませんか?」
「ああ。そうしよう」
セオ様の手を取りサロンに向かう。
暖かな日差しが二人を包んだ。
私達の婚約はまだ始まったばかりですが、今回はポイントは貯まりそうにありません。
~ 終わり ~
誤字脱字などいつもありがとうございます。




