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11.アレイシア

「あ、アレイシア・キャターサ……? そうか、うん。えーと、初めまして」


 僕は、何とか返事は出来たが、それまでであった。


『アレイシア』と名乗っただけの少女を前に、僕は圧倒されていた。


 その淡い光沢を帯びた柔らかく美しい薔薇色の髪に、

 その凛々しく整った顔立ちに、

 その威風堂々たる立ち姿に、


 そして何より、その淡い金色の瞳に宿る、焦がれるような情熱と、奥底に潜む重く冷たい、見定めるような視線に ──


 僕は圧倒されつくしていた。


 息を飲むことさえ忘れて立ち尽くす。

 最初に口を開いたのは、魔道具屋の店主だった。


「お、お嬢ちゃ、いや様? そのなま、お名前を気安く名乗るもんじゃ──」


 こちらを向いていた少女は、一瞥を店主に向け黙らせる。

 あの一瞥にどれ程の重さと意味が込められていたのかは知る由もない。


「……っはぁー! はい! ここまで! さて、君の番だよ、不思議な君。名前くらい教えてもらえるかな?」


 この重い空気は、作った本人によってやっと壊された。

 張り詰めた空気は解れ、彼女の瞳の奥底にあった、重く冷たい見定めるような視線はなりをひそめ、焦がれるような情熱がその瞳を覆う。


「ああ、えと、クスノキ・ハオリだ」

「うんうん、よろしくハオリ! ところで──()()()()()()()()()()()って知ってる?」

「いやっ、君の名前だってこと以外は、知らないな」


 そう、正直に答える。

 横で店主が「こいつマジか」みたいな顔をしている。

 もしかして、やらかしたか……? 


「ふふっ、ふふふ! いいね! まずは完璧! じゃあ次! ねぇ、君はさっきどうやって魔道具を見定めたの?」

「えっどうやってて──」

「君は、魔道具を一目見ただけで、ちゃんとしたのを持ってこいと言った。これはとてもおかしい。本来魔道具の見極めってのは、刻まれた魔法陣を読み解き、少量の魔力を流してその構築の様見るのが普通──」


 そう言って少女──アレイシアは、一歩僕に近づく。

 揺れた薔薇色の髪が、淡く輝いているように見える。


「だから、教えてもらえるかな!? どうやって見極めたのかを! そしたら代わりに、君の求める魔道具をこの店から見繕ってあげよう! ここの品も悪くないし、自信はあるよ」

「……勘、と言うよりは経験かな。その店主、魔道具を持ってきてくれと頼んだ時、僕の方を一瞬見たんだ。そこには侮りが見えた、だから魔道具なんて正直さっぱり分からないけど、カマをかけて見たのさ」

「ははぁ……なるほどね。悪くない悪くないけど……」

「お褒めに預かり光栄ですよ」

「最後の剣をチラつかせるの。あれは駄目だね。らしくない。むしろあれは三下の悪役のすること」


 そう言って、アレイシアは僕を指さす。


 アレイシアの一挙手一投足はいちいち大袈裟で芝居がかっていて、しかしそのわざとらしさも彼女の美しさと気品の前に、見事なものだと感じさせられてしまいそうになるほどだった。


「まぁ、あれはちょっとやりすぎだと思ってるよ」

「ならばよし! 迷宮探索者たるもの常に正しく高潔であれ!! ってね」


 何となく、アレイシアが何に憧れているか分かった気がした。


「じゃ、アレイシア・キャターサさん。こちらのお願いを聞いて貰っても?」

「んー、うん、もちろんいいけど。その前にさ、もう一回だけ名乗り合わない?」


 アレイシアは「お願い」とわざとらしく方をすくませ、よく分からない不思議な要求をしてくる。


「分かったそれくらいお安い御用さ。じゃ僕から」

「やったぁ! ありがと!」


 僕は改めて名乗る──ついでに彼女の芝居にも乗ってやろう。


「初めまして、僕の名前はクスノキ・ハオリ。しがない探索者だ」

「初めましてハオリ。私の名前は、アレイシア・ハーヴィンジャー! 迷宮を踏破せし英雄を目指す者!!」


 その揺るぎない瞳は、僕には少し眩しすぎた。


 故に──ちょっとばかし水を差す。


「あれ? さっきはキャターサって──」

「はいはーい! 今初対面で名乗り合いました! 良くって!?」


 かなりの圧だった。

 仮に名乗っていたどちらかが偽名だったとしても、それを暴く意味は特にないので大人しく従うことにする。


「さて、必要なのは護身用の魔道具だっけ?」

「そうだ、あと、使うのは僕じゃない。非戦闘要員用だ」

 そう付け加えると、アレイシアは魔道具を一個一個丁寧に手に取り、時に光らせ、見定めて行く。

「ふむふむ…………うん、これだね」


 アレイシアが手に取ったのは深青のシンプルなペンダントだった。


「これは、どういった品なんだ?」

「これはね、使用者の周りに外敵から身を守る盾を生成しつつ、更に怪我の回復までできちゃう優れものだね」


 そう言ってアレイシアが「ほんと、かなりの優れもの……さっき聞いたみたいなちょっと狡いところがなきゃ完璧なのになー」と独り言をボヤき始めたのを他所に、僕は店主に支払いを済ませる。


 そして、支払いのついでにとあることを店主に告げる。


「さっきのやり取りは、互いに無かったことにしません?」


 店主は、静かに首を縦に振った。


「じゃ、魔道具ありがとうございました。アレイシアも、選んでくれてどうもありがとう!」


 そう言って僕は、魔道具屋を出る。

 財布はかなり軽くなったが、悪くない気分だった。

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