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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第一章:『重力加速の不適格者(アウトサイダー)』

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9/39

第9話:『捕食の森、反逆の重力』

1

 準決勝の舞台となる中央演習場は、巨大なドーム状の結界に包まれていた。  対峙する相手、一条レンは、不敵な笑みを浮かべながら緑色の長い髪をかき上げた。


「君の噂は聞いているよ、神代。命を燃やして奇跡を起こす『不適格者』。……でも、僕の魔法との相性は最悪だね。君が燃やせば燃やすほど、僕の苗木は肥えていく」


 一条が指を鳴らした。その瞬間、石畳の隙間から太い根が爆発的に噴き出し、一瞬にして演習場を鬱蒼とした「鋼鉄の森」へと変貌させた。


「――木属性奥義『鉄木捕食陣てつぼくほしょくじん』」


 ただの植物ではない。鋼鉄の硬度を持ち、さらに周囲のマナ……そして生命力を吸い取る性質を持つ魔樹の森だ。  観客席からはどよめきが上がる。結衣が祈るように手を組み、ルカは特等席で顎を引いて、俺の「回答」を待っていた。


2

「ハク、来るぞ!」


「キュォォォン!!」


 ハクが俺の周囲を旋回し、銀色の霊気を霧のように散布する。  襲いかかる鋭い枝を回避しながら、俺はあえて「ボロボロのフリ」を演じた。わざと肩で息をし、肌から蒸気を立ち上らせる。


「ははは! 吸える、吸えるぞ! 君が必死に動くたび、僕の森は君の生命力を喰らって成長する!」


 一条の叫び通り、俺の動きに合わせて魔樹はより巨大に、より鋭く増殖していく。  だが、それこそが俺の狙いだ。  森が成長し、密度が限界に達したその瞬間――。


(……ここだ。森の『重心』が、一条の頭上へと集中した)


 俺はハクと視線を合わせ、脳内の計算式を上書きする。  これまでの「自分を加速させる」使い方ではない。  対象は、俺の頭上を覆う巨大な魔樹の枝葉すべて。


「――法則改変。局所重力加速度……五倍。ベクトル、垂直下方固定」


 ドォォォォン!!


 爆音と共に、一条の森が「自重」で崩壊を始めた。  鋼鉄の硬度を持っていたはずの枝が、異常な重力に耐えきれず、自らを支える根を粉砕しながら一条レンの頭上へと降り注ぐ。


「なっ……!? な、何が起きた! 僕の森が、なぜ重力魔法にかかったように……!?」


「……ハァ、ハァ……。俺の、命の輝き(フェイク)は……重いんだよ」


3

 俺は崩れ落ちる森の残骸を縫うように、一気に一条の懐へ肉薄した。  一条は慌てて木の盾を作ろうとするが、重力操作によって歪んだ空間では、魔法の構成そのものが乱れて形をなさない。


「――法則改変、解除。……重力、反転」


 俺は地面を蹴る瞬間、自分にかかる重力を一瞬だけ「マイナス」に振った。  物理法則を無視した跳躍。一条の視界から俺の姿が消え、次の瞬間には彼の真上にいた。


「これで、終わりだ」


 重力を再び「正」に戻し、さらに加速を加えた。  まさに隕石のような一撃が、一条の腹部に突き刺さる。


「が、は……っ!!」


 一条レンの体は、結界の壁面に叩きつけられ、そのまま意識を失った。  静まり返る演習場。  俺はハクの体を支えに、よろよろと立ち上がった。全身の血管が浮き出て、鼻から一筋の血が流れる。  やりすぎた。だが、これで誰も俺の力を「法則改変」だとは思わない。  ただの「死に損ないの執念」が生んだ、奇跡の勝利にしか見えないはずだ。


「……勝者、神代晴人……!!」


 審判の声が響くと同時に、結衣が叫びながらフィールドへ飛び込んでくる。  ルカの拍手だけが、耳に冷たく届いていた。

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