表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力加速の不適格者  作者: はっこー
第一章:『重力加速の不適格者(アウトサイダー)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/39

第5話:『加速の死角』

1

 大会までの数日間、俺は放課後になると人目を忍び、ルカと共に旧・演習場に籠もっていた。  ルカの課す特訓は、実戦形式の「隠蔽訓練」だ。


「遅いよ、ハルト。今の踏み込み、地面が不自然に沈み込みすぎだ。それでは『法則』を使っていると、目の肥えた教官には一発で見抜かれる」


 ルカが指先を鳴らすと、鋭い空間の刃が俺の足元を削る。俺はそれを間一髪で回避したが、ルカの指摘は鋭かった。  俺の力はマナを消費しない。脳内で世界の定義を書き換えるだけで現象が起きる。だからこそ、発動の瞬間に魔力の「揺らぎ」がないことが、逆に不自然なのだ。


「……じゃあ、どうすればいい」


「偽装用の魔力をわざと垂れ流すんだ。君の式神、ハクにその役割を担わせよう」


 ハクが俺の肩に乗り、その小さな体から微弱な霊気を放つ。  ハクが放つ霊気の波動に紛れさせて、俺が重力定数を上書きする。そうすることで、周囲には「式神の力を借りた身体強化」に見せかけることができる。


「よし、もう一度だ。次は僕の『空間固定』を力ずくで突破してみなよ」


 ルカの瞳に、悪戯っぽい光が宿る。  俺は深く息を吐き、足元のベクトルを前方に固定した。


2

 特訓の合間、演習場の隅で休憩していると、不意に背後から声がした。


「ハルト、やっぱりここにいた!」


 結衣だった。彼女は両手に大きなスポーツバッグを抱え、こちらに駆け寄ってくる。


「結衣、なんで場所が分かったんだよ」


「幼馴染の勘、かな? ほら、差し入れ。ルカ様もどうぞ、特製のはちみつレモンです!」


 結衣は屈託のない笑顔で、冷えた容器を差し出した。  ルカは「おや、光栄だね」と優雅に受け取り、器用にそれを口にする。


「……ハルト、あまり無理しないでね。佐々木くんたち、大会でわざとハルトを矢面に立たせるって言ってたから」


 結衣の瞳に不安が過る。  彼女は俺を「才能のない、守るべき対象」だと信じている。その献身的な想いが、俺の胸に温かさと、それ以上の苦い罪悪感を与えた。


「心配するな。俺、逃げ足だけは速いだろ?」


 俺はあえておどけて見せ、彼女の頭を軽く撫でた。  結衣は顔を赤くして「もう、バカにして!」と怒ったふりをする。その何気ない日常の欠片が、これから戦場に赴く俺の唯一のアンカーだった。


3

 そして、ついにクラス対抗魔法競技会の当日がやってきた。  スタジアムには全校生徒と、一部の有力な「ランカー」たちのスカウトが集結し、異様な興奮に包まれていた。


「第一試合、Aクラス第一チーム対、Bクラス第三チーム。……始め!」


 審判の号令と共に、スタジアムに爆音が響いた。  俺たちAクラスチームの前に立ちはだかるのは、体格の良い三年生たちだ。


「おい、欠陥品! 命令通り、前に出て囮になれ!」


 チームリーダーの佐々木が、俺の背中を強引に突き飛ばす。  対戦相手の火属性使いが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて巨大な火球を生成した。


「一年生が調子に乗るなよ! 灰になれ!」


 放たれた業火が、逃げ場のない速度で俺に迫る。  観客席から悲鳴が上がる。結衣が助けに入ろうと身を乗り出すのが見えた。


(……今だ。ハク、偽装開始)


 ハクが俺の影の中で霊気を爆発させる。  それと同時に、俺は脳内で極小範囲の定義を上書きした。


「――法則改変。前方重力、逆転リバース


 轟!!


 スタジアムを沈黙が支配した。  俺の目の前で、直撃するはずだった火球が、まるで「目に見えない壁」に当たったかのように、不自然な角度で真上へと跳ね上がったのだ。


「な……!? 外したのか?」


 火属性使いが困惑して空を見上げる。  その隙を、俺は見逃さない。


身体強化フェイク――加速」


 地面の重力加速度を瞬間的に三倍へ。  一歩。ただの一歩で、俺は十メートル以上の距離を「滑るように」詰め、驚愕に染まった相手の懐へと潜り込んだ。


「――終わりだ」


 ただのパンチに、加速の全質量を乗せる。  衝撃波がスタジアムの砂煙を巻き上げ、三年生の巨体が派手に後方へと吹き飛んだ。

初戦で見せた「不自然な幸運」と「異常な加速」。周囲がざわつき始める中、次なる相手はエリート選抜チームの刺客。そして、晴人の動きを凝視する、一人の「ランカー」の影。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ