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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第三章:『再起動する世界、新しき王の誕生』

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39/39

第39話:『再起動の終わり――さらば、不適格者の昨日』

1

 パンドラの心臓部、極彩色の魔力が脈動する「世界の心臓」の前に、俺は立っていた。  背後では、俺の重圧に押し潰された五人の皇帝たちが、地を這いながら呪詛の言葉を吐き捨てている。


「……ハ、ハルト……。ただで済むと思うな……。我らが消えれば、この要塞の全エネルギーが暴走し……世界は、塵一つ残らず焼き尽くされる……!」


 金帝が血を吐きながら、最期の操作コマンドを入力した。  瞬間、要塞全体を貫くアラートが鳴り響く。心臓部の魔力密度が臨界点を超え、白く膨れ上がり始めた。


「――自爆術式、起動! 不適格者よ、貴様の望んだ『自由』と共に、無に帰るがいい!!」


 ルカの声が通信で飛び込んでくる。 「ハルト! まずい、エネルギーが多層次元に干渉を始めた。今すぐそこを離れろ! 爆発まであと十秒もない!」


「……逃げても無駄だろ、ルカ。これだけのエネルギーが解き放たれたら、地球そのものが砕ける」


 俺は静かに、震える右手を心臓部へと伸ばした。  隣では、ハクが九つの尾を一本に束ね、俺の魂と完全に同化した「覚醒状態」に入っていた。


2

「ハルト、待って! 一人でやらせないって言ったでしょ!!」


 通信の向こうで結衣が叫ぶ。彼女はルカの転移魔術を強引に使い、この崩壊しつつある審判の間へと転移してきた。  傷だらけの彼女が、俺の震える左手を両手でしっかりと握る。


「……結衣。来るなと言ったのに」


「言ったはずだよ。あなたが壊れちゃうくらいなら、私が守るって。……この爆発、私が凍らせる。あなたの重力で、その時間を一瞬だけ作って」


 結衣の瞳に宿る決意。  俺は笑った。そうか、俺はもう一人で世界の重みを背負う必要なんてなかったんだ。


「……ああ。ハク、最後だ。全演算リソースを俺と結衣の『境界』に回せ」


「キュォォォォォォォォォォォォン!!」


 俺と結衣、そしてハク。三つの魂が、世界のOSがかつて書いたどんなコードよりも美しく、力強い「数式」を空中に描き出す。


「――法則、最終再定義! 『新世界への序曲ゼロ・ジェネシス』!!」


3

 爆発が起きた。  だが、それは破壊の光ではなかった。  俺の重力が爆発の全エネルギーを一点に凝縮し、結衣の氷結がその極大エネルギーを「安定した創造の力」へと冷却、変換していく。


 パンドラの壁が、皇帝たちの玉座が、そして不気味な空中要塞そのものが、真っ白な粒子となって解けていく。  粒子は雨のように地上へと降り注ぎ、傷ついた大地を癒し、沈みかけた列島を再び浮上させていった。


「……終わったんだな」


 気づけば、俺と結衣は、千代田の開けた草原に立っていた。  空中要塞も、五帝も、そして俺を縛っていた「不適格者」という名のシステムエラーも、すべては朝焼けの光の中に消えていた。


「ハルト……見て」


 結衣が指差す先。地平線から、本物の太陽が昇ってくる。  ハクは元の小さな子狐に戻り、俺の肩で満足そうに欠伸をしていた。三本の尾が、朝日に照らされて銀色に輝いている。


「……これからは、誰も未来を計算してくれない。自分たちで歩かなきゃいけない世界だ」


「うん。……でも、怖くないよ。隣にハルトがいてくれるなら」


 俺は結衣の手を握り返し、新しく始まった世界の空気を深く吸い込んだ。    重力はもう、俺を地面に縛り付ける鎖じゃない。  未来へ向かって、高く跳び上がるための翼だ。


 『重力加速の不適格者』――完。

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