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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第三章:『再起動する世界、新しき王の誕生』

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36/39

第36話:『紅蓮の独裁者――ハク、真の「捕食」』

1

 溶け落ちる氷晶宮。水帝が築いた静寂の城は、今や炎帝レオンハルトが放つ熱量によって、阿鼻叫喚の焦熱地獄へと変貌していた。


「どうした、不適格者! 先ほどまでの威勢はどうした! 私の前では、重力すらも熱に焼かれ、霧散するのみか!」


 炎帝が腕を振るうたび、太陽の黒点を思わせる超高温の炎が渦を巻き、空間そのものを歪めていく。  俺は麻痺した右腕を庇いながら、結衣を背後に隠した。だが、防護のために展開した重力障壁すらも、炎帝の「概念燃焼」によって内側から発火し始めている。


「(……クソッ、出力が違いすぎる。ハクがいない今の俺じゃ、こいつの熱力学ルールを上書きしきれない……!)」


 意識が遠のく。熱に焼かれ、酸素が奪われていく。  その時だった。俺の胸元で、ずっと眠っていた小さな塊が、ドクン、と力強く脈打った。


2

「――キュォォォォォォォォォン!!」


 俺のコートを突き破り、飛び出したのは銀色の閃光。  ハクだ。  だが、その姿は以前のどの形態とも違っていた。九つの尾は影のようにたなびき、その全身は周囲の炎を吸い込むように、どす黒い「虚無」を纏っている。


「ほう、目覚めたか。だがその程度の式神、私の『獅子王の焔』で灰にして――」


 炎帝が放った極大の火炎弾。  しかし、ハクは逃げなかった。それどころか、顎を大きく開き、迫りくる炎を**「物理的に喰らい」**始めたのだ。


「……なっ!? 私の炎を、食べたというのか!?」


「キュォォォン!!」


 ハクが炎を飲み込むたび、俺の中に冷徹なまでの「定義」が流れ込んでくる。  ハクはただ炎を消しているんじゃない。炎帝が世界に刻んだ『熱』という法則を、エネルギーとして捕食し、俺の演算リソースへと変換しているんだ。


3

「……ハク、よくやった。……これなら、いける」


 俺の右腕の麻痺が、ハクから供給される莫大な魔力によって強引に修復される。  俺は立ち上がり、炎帝の頭上に右手をかざした。


「レオンハルト。あんたの炎は確かに熱い。……けど、光さえ逃げ出せない場所なら、火種一つ残らないはずだ」


 法則最終改変:『事象の地平イベント・ホライゾン


 俺とハクの意識が完全にシンクロし、炎帝の周囲一帯の重力が「無限」へと加速した。    ドォォォォォォォォォ……ッ!!!


 爆音さえも重力に囚われ、周囲は不気味なほどの無音に支配される。  炎帝の背後にいた巨大な炎の獅子が、俺の作った「極小の特異点ブラックホール」へと吸い込まれ、一瞬で圧殺された。


「ぐ……が……はあぁっ!? 私の、私の炎が……消される……!?」


「……これでチェックメイトだ。あんたの負けだ、炎帝」


 俺の放った重力の波動が、炎帝の防御を粉砕し、彼を崩壊する城の底へと叩きつけた。  赤く染まっていた空から炎が消え、再び本物の星空が顔を出す。    だが、俺たちはまだ知らなかった。  水と炎、二人の皇帝が倒れたことで、残された五帝たちが「真の恐怖」を感じ、なりふり構わぬ最終手段に出ようとしていることを。

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