第31話:『光帝vs不適格者――重力が光を追い越す時』
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「――光あれ(フィアット・ルクス)」
光帝ソロモンが静かに告げた瞬間、真っ白な空間が「死の光」で塗りつぶされた。 それは魔法という概念を超えた、OSによる**『描画の抹殺』**。光に触れた箇所から、俺の存在データがノイズとなって削り取られていく。
「ハルト、避けて! ……氷結定義・極致『絶対零度の防壁』!!」
結衣が魔力のすべてを絞り出し、光を凍らせようとする。だが、光帝の放つ光は「速度」そのものだ。氷が形成されるよりも早く、光の槍が結衣の肩を貫いた。
「結衣!!」
「……無駄だ。光の速度は、この世界の定数そのもの。定数に従う魔法使いに、定数を操る私を打つ術はない」
ソロモンが右手を振り下ろす。数千、数万の光の雨が、俺と結衣を逃げ場のない絶望へと追い詰める。 だが、その刹那――。
「……定数がルールなら、その『空間』ごと歪めればいい」
ルカが黒い杖を地面に突き立てた。 管理権限発動:『事象地平』。 俺たちの周囲の空間が真っ黒に反転し、光帝の放った光が、吸い込まれるように湾曲して俺たちを避けていった。
2
「ハルト、今だ! 僕が空間を固定している間に、君の重力で光を追い越せ!」
「……ああ、わかってる。ハク、最後だ……力を貸せ!!」
俺の胸元で、ハクが静かに目を開けた。 その瞳は黄金でも銀でもない、あらゆる色を飲み込む「無」の色。九つの尾が、真っ白な空間のコードを直接掴み、俺の脳へと「世界の真実」を流し込む。
ハク・最終形態:『終焉と創生の神狼』。
俺の視界から「壁」が消えた。 光帝の動き、光の粒子、OSの鼓動。すべてがスローモーション、いや、静止したデータに見える。
「――法則、最終改変。定義上書き……『事象の特異点』」
俺の右拳に、世界すべての質量を凝縮させる。 重力があまりに強すぎて、光帝の「光」さえも俺の拳に吸い寄せられ、螺旋を描いて加速の餌食となった。
「なっ……光が、私の光が……一介のウイルスに屈するというのか……!?」
「あんたの光は速い。……けど、俺の重力は『場所』そのものを引き寄せる。……光が届く前に、俺がそこへ行くんだよ!!」
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俺は空間を「縮めて」跳んだ。 光速を超えた、因果律を無視した一撃。
「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
真っ白な空間が、ガラスが砕けるような音と共に粉砕された。 俺の拳がソロモンの胸部――光帝のコアを貫き、そこから莫大な黄金のデータが溢れ出す。
「……バカな……私が……システムそのものが……敗北するだと……」
「あんたが守ろうとしたのは、死んだ世界だ。……俺たちは、汚くてもいいから、生きてる世界へ行く」
ソロモンのホログラムが、絶叫と共に光の塵となって霧散した。 同時に、世界の心臓が激しく脈動し、赤から青へと、そして透明へと色を変えていく。
「……ハルト、やったのね……」
結衣が崩れ落ちる俺を抱きとめた。 周囲の真っ白な空間が崩壊し、その向こう側から、嗅いだことのない「土と風の匂い」が流れ込んでくる。
「……再起動が始まったよ、ハルト。……君が、檻の鍵を壊したんだ」
ルカが満足げに空を見上げた。 そこには、ホログラムではない、本物の、どこまでも深い夜空が広がっていた。
第二章:完。 物語は、OSの支配から解き放たれ、真の自由と「残された八帝」との戦争が始まる、最終章へと加速する。




