第30話:『反逆の軍師――ルカの正体』
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真っ白な空間に、場違いなほど優雅な靴音が響いた。 光帝ソロモンが作り出した絶対的な静寂を切り裂き、ルカ・エヴァンズが俺たちの隣に並び立つ。その手には、これまで見たこともない漆黒の「コマンド・杖」が握られていた。
「ルカ……! なぜお前がここに……。ここは鍵を持つ者しか入れないはずだろ」
「忘れたのかい、ハルト。僕は君の『鍵』を作る手伝いをした。……つまり、そのプロセスの裏口を知っているのは当然のことさ」
ルカは不敵に微笑み、黄金の椅子に座る光帝を真っ向から見据えた。
「ソロモン。君の話は相変わらず退屈だ。世界を救うための牢獄? 人類を守るためのシミュレーター? ……違うね。君たちがやっているのは、ただの**『死の延命』**だ。変化を恐れ、進歩を止め、演算の檻の中で永遠に同じ今日を繰り返させているだけだ」
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「……ルカ・エヴァンズ。システムの一部に過ぎぬお前が、創造主に牙を剥くか」
光帝の声に初めて「不快感」というノイズが混じった。空間全体がルカを排除しようと赤く明滅し、高密度の情報圧が彼に襲いかかる。
「創造主? 笑わせないでくれ。……ハルト、結衣さん。教えよう。……この世界には八帝とは別に、OSの深淵にアクセスできる特別な権限を持った一族がいる。……それが、かつてこのシステムを設計し、自分たちの魂をコードへと変えた**『管理者(管理者)』**。……僕の本名は、ルカ・アステリオス。君たちの言う『神』の、末裔の一人だよ」
ルカの周囲に、黄金の文字列とは異なる「青白いコード」が螺旋を描いて展開された。 それは光帝の干渉を無効化し、空間の支配権を力ずくで奪い取っていく。
「僕は、この停滞した世界が嫌いだった。だから、ハルト、君を見つけたんだ。……既存の計算式では決して導き出せない、負の加速度を持つ『不適格者』。……君がこの世界の壁に穴を開け、OSを再起動させる。そのための『最高のエラー』としてね」
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「……ルカ、お前、最初から俺を利用するために……」
「ああ、そうだよ。否定はしない。……でも、ハルト。君はもう、ただのエラーじゃない。君は自分自身の意志で、結衣さんを守るために理を超えた。……それは、僕の計算さえも超えた『真の自由』だ」
ルカが杖を掲げると、真っ白な空間の奥底から、巨大な「黒い心臓」のような構造体が姿を現した。
「あれが世界のコアだ。……光帝ソロモンを倒し、あそこに君の『自由落下』を叩き込め。そうすれば、世界のOSは再起動され、人類はシミュレーターの外……本当の空の下へ解放される」
「……黙れ、叛逆者よ!!」
光帝ソロモンが激昂し、黄金の椅子から立ち上がった。彼のホログラムが実体化し、背後には幾千もの魔法陣が重なり合った「光の翼」が展開される。
「世界をリセットさせはせぬ! システムを汚すウイルス共々、永遠の虚無に消え去るがいい!!」
第二章、最大の激突。 俺は、俺の胸で目を覚まそうとしているハクの力を感じながら、右拳を固く握った。
「……上等だ。俺がウイルスなら、あんたというバグごと、この世界を『再起動』してやる!!」




