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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第二章:『八帝の崩壊と、世界のOS』

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29/39

第29話:『世界の心臓(コア)――OSとの対話』

1

 三枚のチップが融合して成った「黄金の鍵」を、皇居跡地に鎮座する虚無の空間――『開かずの門』へと差し込んだ。  刹那、視界から色が消えた。


 瓦礫の山も、淀んだ空も、隣にいたはずのルカの姿さえも。  気がつけば、俺と結衣、そして疲弊して眠るハクは、どこまでも続く真っ白な空間に立っていた。  足元には、無数の幾何学模様と、滝のように上空へと流れ去る黄金の文字列――「世界のOS」を構成するなまのコードが明滅している。


「……ここが、世界の心臓?」


 結衣が震える声で呟く。彼女の吐息さえも、この場所では白く凍りつくことはない。温度という定義すら、ここでは可変的なデータに過ぎないのだ。


「――ようこそ、不適格者の少年。そして、水帝の娘よ」


 頭上から、慈悲深くも冷徹な声が降り注いだ。  空間が歪み、巨大な黄金の椅子に座る一人の男のホログラムが顕現する。  八帝の首領、『光帝』ルミナス・ソロモン。  その姿は実体ではないはずなのに、放たれる威圧感だけで、俺の「重力改変」の演算が強制的にシャットダウンされそうになる。


2

「光帝……。あんたが、この世界のバグを掃除していた張本人か」


 俺はふらつく足で一歩前に出た。ハクがいない今、俺の脳は剥き出しのOSからのノイズに直接晒され、焼けるような痛みを上げている。


「掃除、か。……私はただ、この『苗床』が腐らぬよう手入れをしているに過ぎない」


 光帝は静かに腕を広げた。すると、真っ白な空間に、滅び去った過去の地球の映像が映し出された。  炎に包まれる都市、枯れ果てた海、そして絶滅していく人類。


「かつて、世界は物理法則の限界を迎え、崩壊しようとしていた。……先代の賢者たちは、人類を存続させるために、地球全土を一つの『演算装置ハードウェア』へと作り替えた。それがこの世界の正体……OSによって管理された仮想現実の牢獄だ」


「牢獄……? 私たちの生きてきた世界が、全部作り物だって言うの!?」


 結衣の叫びに、光帝は悲しげに首を振った。


「作り物ではない。高度にシミュレートされた『本物』だ。……だが、OSの演算能力には限界がある。だからこそ、八帝という管理者が、不要な変数――つまり『不適格者』や『異端の魔法』を排除し、世界の安定を保たねばならんのだ」


3

 光帝の視線が、俺の胸元……ハクに向けられる。


「神代晴人。君の持つ『重力加速』は、OSの基本定義を書き換える。それは世界を救う力ではない。システムそのものをクラッシュさせ、人類を真の滅びへと導く毒だ。……君は、自らが英雄だと思っているようだが、その実、世界を壊すウイルスに過ぎない」


「ウイルス……。俺が、世界を壊す……?」


 言葉を失う俺に、光帝は残酷な選択肢を突きつけた。


「今ここで、その式神を差し出し、君の権限を返上せよ。さすれば、白石結衣の安全と、君のこれまでの罪を不問に処そう。……拒めば、OSは君というエラーを消去するために、全リソースを投入して『世界の初期化リセット』を開始する」


 足元の黄金の文字が、赤く染まっていく。  世界が、俺を拒絶し始めていた。


「……ハルト……」


 結衣が俺の手を握る。その手は冷たく、そして激しく震えていた。  俺を信じてついてきてくれた彼女を、世界を道連れにしてまで、俺の我を通すべきなのか。


「――いいえ。彼はウイルスなどではありません。……彼は、この停滞した世界を『再起動』させるための、唯一の希望です」


 背後から響いたのは、この場にいるはずのない、ルカ・エヴァンズの声だった。

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