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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第二章:『八帝の崩壊と、世界のOS』

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28/39

第28話:『システムの崩壊――ハク、第三形態へ』

1

 俺が放った「無限加速」と「無限停止」。  相反する二つの定義が俺の拳の先で衝突した瞬間、世界のOSは致命的な論理エラーを引き起こした。


 黄金のコピーの動きが、目に見えて不自然に止まる。  最適解を導き出そうとする彼の演算回路は、**「止まりながら進む」**という矛盾の極致に囚われ、処理落ち(スタック)を起こしていた。


「……ア、ガ……ガガ……」


 完璧だったはずの表情が、ノイズのように歪む。  だが、その代償は俺の脳にも降り注いだ。視界が真っ赤に染まり、耳の奥で血管が弾けるような音がする。


「ハルト! やめて、これ以上は……あなたの存在が消えちゃう!」


 結衣が必死に叫びながら、俺の背中から魔力を注ぎ込む。  しかし、今の俺はもはや、人という枠組みを超えた「世界のバグ」そのものと化していた。


2

 その時だった。  俺の肩で限界を迎えていたハクが、天を突くような咆哮を上げた。


「――クゥォォォォォォォォォン!!」


 銀色の霊気が、漆黒の虚無へと染まっていく。  ハクは俺が垂れ流した「矛盾の演算」を、その身すべてで喰らい始めた。  膨大なエラーコードがハクの肉体を再構築し、三本の尾はさらに増え、九つの影となって空間を蹂躙する。


 ハク・第三形態:『虚空を喰らう銀帝ハクオウ』。


 その姿はもはや式神の域を超え、法則そのものを従える神獣へと至っていた。  ハクの九つの尾が黄金のコピーを捕らえ、その「存在の定義」を直接食いちぎる。


「……ハク、行け。……俺たちの、正解を叩き込め!」


 俺はハクの演算を借り、最後の一撃を放った。  それは加速でも停止でもない。  世界のOSから独立した、俺たちだけの新しい法則――『自由落下フリーフォール』。


3

 ドォォォォォォォォォォォン!!


 黄金のコピーは、一瞬の抵抗もできずに光の粒子となって爆散した。  彼を構成していた「完璧なデータ」は、ハクの口の中へと吸い込まれていく。    静寂が戻った。  千代田の水面は消え、元の廃墟が姿を現した。だが、空の紫色は晴れ、透き通った青空が顔を出している。


「……やった、のか」


 俺は膝から崩れ落ちた。  ハクは元の小さな子狐の姿に戻り、力尽きたように俺の胸元で丸まった。  コピーが消えた場所に、最後の一枚、三枚目の「銀のチップ」が落ちている。


「おめでとう、ハルト。君は今、自分という最大の壁を乗り越えた」


 ルカが静かに歩み寄り、三枚のチップを一つに合わせた。  三枚のチップは融合し、皇居の奥にそびえ立つ「開かずのゲート」を解錠する黄金の鍵へと形を変えた。


「さあ、この扉の向こうに、世界のOSの心臓部がある。……そして、そこには君たちの本当の敵が待ち構えているよ」


 結衣が俺の手を取り、力強く頷いた。  彼女の瞳には、かつての迷いはなかった。


 俺たちは、自分たちの手で奪い取った鍵を手に、世界の真実へと足を踏み入れる。

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