第27話:『鏡像の独裁者――無感情な重力操作』
1
黄金の光を放つ「もう一人の俺」が、無機質な瞳でこちらを見据えていた。 姿形、構え、そして肩に乗る式神のシルエットまで俺と同じ。だが、決定的に違うのは、その周囲に漂う「音」だった。
シュン、シュン……
黄金のコピーが歩くたび、周囲の空気が計算され尽くしたかのように最短距離で割れ、一切の抵抗なく道を作る。
「……あれは、世界のOSが導き出した『神代晴人の最適解』だ。感情、躊躇、そして肉体への自愛。それらすべての『不純物』を削ぎ落とし、ただ重力を統べるためだけに純化された存在だよ」
ルカの声が冷酷に響く。 黄金のコピーが指先をわずかに動かした。瞬間、俺の足元の重力が**「ゼロ」を通り越し、凄まじい勢いで「反転」**した。
「――っ!? ハク、姿勢制御!」
俺は空中に投げ出される。だが、コピーは追撃の手を緩めない。 空中に浮いた瓦礫の一つ一つに、彼はピンポイントで**「加速度」**を付加した。 それは弾丸以上の速度で、俺の逃げ場を塞ぐように四方八方から迫る。
2
「ハルト、避けて!!」
結衣が氷の礫を放ち、瓦礫を弾こうとする。しかし、黄金のコピーは視線すら向けずに左手をかざした。 結衣の氷の弾道が、まるで目に見えない糸で操られているかのように湾曲し、逆に俺へと向けられた。
「……バカな。他人の魔法の『ベクトル』を、あんなに容易く書き換えるなんて……」
結衣が愕然とする。 俺は空中でハクを抱きしめ、脳内の演算を限界まで加速させた。
(ハク! 奴の演算速度に追いつけ! 誤差一ミリ、零・零一秒も許すな!)
俺と黄金のコピー。二つの重力が激突し、プラントの中心で「空間の歪み」が火花を散らす。 だが、戦えば戦うほど絶望が深まっていく。 俺が攻撃を考えた瞬間に、奴はすでに**「防壁」を完成させている。 俺が加速しようとすれば、奴は「摩擦」**を上書きして俺を止める。
「……がはっ……!!」
コピーの放った重力波が俺の胸を打ち抜き、俺は背後の壁まで吹き飛ばされた。 黄金のコピーは、表情一つ変えずに歩み寄ってくる。その足取りには、俺が常に感じていた「演算による脳の熱」も、「肉体の痛み」も感じられない。
3
「……完璧だ。完璧すぎて、反吐が出るな」
俺は口の端の血を拭い、ふらつきながら立ち上がった。 コピーの瞳には、俺という存在がただの「不合理なデータ」として映っているのだろう。
「ハルト、もう止めて! 演算をこれ以上続けたら、あなたの脳が……!」
「いいや、結衣。……あいつは完璧だ。だが、完璧だからこそ『想定外』には弱いはずだ」
俺はハクの首筋を優しく撫でた。ハクの瞳は、これまでの戦闘データをすべて吸収し、真っ赤に充血している。
「ハク。……今から、俺たちの『バグ』を見せてやる。演算の正解を出すんじゃない。……世界が最も嫌う、**『矛盾』**を叩き込むぞ」
俺は拳を握り、あえてコピーに向かって真っ直ぐに歩き出した。 防御も、回避の計算もしない。 ただ、自分自身の存在という「変数」を、世界のOSに叩きつけるために。
「――法則改変。定義重複:『無限加速』及び『無限停止』」
俺の周囲で、矛盾する二つの法則が激突し、空間が悲鳴を上げ始めた。




