第26話:『恩師の最期――受け継がれる「水帝」の真実』
1
晴人の「重力加速」を纏った結衣の「氷刃」が、セレナの胸元を正確に貫いた。 激しい衝撃波が水面を割り、千代田の空を白銀の粒子が埋め尽くす。
「……あ……っ……」
セレナの瞳から、濁った「システム・エラー」の光が消えていく。彼女を縛っていた水の鎖は霧散し、崩れ落ちるその体を、結衣が必死に抱きとめた。
「先生! セレナ先生!!」
「……結衣……。強くなりましたね。……その少年の『重力』……。世界を壊す力ではなく、あなたを支える力として……完成させていたのですね」
セレナの透き通るような手が、結衣の頬を撫でる。その指先からは、もはや殺気ではなく、温かな慈愛の魔力が伝わってきた。
「……先生、どうしてこんなところで番人なんて……」
「……私は、知ってしまったのです。現・八帝の一角、**『水帝』アクア・リシュリュ―**の真実を。……彼は、世界のOSを書き換え、全人類の『感情』という名の変数を固定しようとしています。……争いのない世界を作るために、心を殺そうとしているのです」
2
セレナが吐露した真実は、あまりにも残酷だった。 八帝たちは、世界の秩序を守る者ではなく、自分たちの理想に合わせて世界を「リセット」しようとする独裁者に成り果てていた。
「……そして、結衣。……あなたは、そのための『鍵』として生み出された存在。……水帝の、実の娘であり……彼のOSを安定させるための、スペアの演算機なのです」
「……私が、水帝の、娘……?」
結衣の顔から血の気が引く。 晴人は彼女の肩に手を置き、その震えを抑えるように力を込めた。
「……バカげてる。そんな勝手な理由で、こいつを駒扱いさせるかよ」
「……神代晴人くん。……結衣を、頼みます。……彼女の氷は、いつか父である水帝の『凍りついた野心』をも、溶かすことができるはず……」
セレナの体が、淡い青色の光となって透けていく。 彼女は最後の力を振り絞り、二枚目の「銀のチップ」を結衣の手のひらに握らせた。
「……さようなら、私の可愛い弟子。……光の射す、未来へ……」
水の聖女は、静かに水面へと溶け、消えていった。 後に残されたのは、泣きじゃくる結衣の叫びと、どこまでも静かな千代田の海だけだった。
3
「……悲劇だね。でも、これで君たちは、もう自分たちの『敵』が誰なのか、明確に理解したはずだ」
ルカが静かに歩み寄り、二人の頭上に浮かぶ三枚目の「門」のホログラムを指差した。
「ガウェインは『過去』を、セレナは『絆』を象徴していた。……そして、最後の番人は『未来』。……君たちが最も恐れる、自分たちの写し鏡だ」
水面が激しく渦巻き、皇居の奥から巨大な「黄金の光」が天を衝いた。 そこに立っていたのは、晴人と全く同じ背格好をした、だが全身を「黄金の重力」で包んだ一人の少年。
「……あれは……俺?」
「――いいえ。あれは、世界のOSが君のデータをコピーして生み出した、**『完璧な神代晴人』**だ。……感情に流されず、ただ最適に法則を改変し続ける、君の成れ果てだよ」
第三の番人。 それは、自分自身の影。 晴人は、己の「法則」が招く最悪の未来と対峙することになる。
「……ハク、準備しろ。……自分殺し(セルフ・デストラクション)の時間だ」
晴人は涙を拭った結衣の前に立ち、黄金の光を放つ「自分」を見据えた。




