表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力加速の不適格者  作者: はっこー
第二章:『八帝の崩壊と、世界のOS』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/39

第25話:『水面の断罪者――師弟の氷刃』

1

 ガウェインが消滅した後に残された「銀のチップ」を拾い上げると、周囲の景色が急激に変貌を始めた。  廃墟のビル群が、まるで蜃気楼のように揺らめき、地面からは無数の水が湧き出す。それは一瞬にして、千代田の街を底の見えない「巨大な水面」へと変えてしまった。


「……ここからは、彼女の領域フィールドだ。足元に気をつけなよ。油断すれば、魂ごと底に引きずり込まれる」


 ルカの警告通り、水面は鏡のように静止しているが、そこからは圧倒的な密度の魔力が立ち上っていた。  結衣が、震える足取りで一歩前に出る。彼女の瞳は、水面の中央に立つ一人の女性に向けられていた。


「……セ、セレナ……先生……?」


 そこにいたのは、かつて結衣がスクーラーとしての基礎を学んだ恩師であり、数年前の紛争で行方不明となったはずの「水の聖女」、セレナ・マクガイルだった。  彼女は透き通るような青いドレスを纏い、感情を失った瞳で結衣を見つめていた。その額には、ガウェインと同じく「世界のOS」のノイズが刻まれている。


2

「――久しぶりですね、結衣。立派なスクーラーになったようです。……ですが、不適格者に魂を売ったというのなら、ここで私が『浄化』せねばなりません」


 セレナが静かに腕を掲げる。  瞬間、周囲の水面から無数の「水の鎖」が噴き出し、俺と結衣の四方を囲んだ。


「待ってください、先生! どうして……どうしてこんなところに!?」


「……ここは、ことわりから外れた者の掃き溜め。そして、新しい世界を拒む者の墓場です。……来なさい、結衣。あなたの氷が、私の水を止めてみせなさい」


 セレナの合図と共に、水の鎖が一斉に襲いかかる。  結衣は反射的に氷の盾を張るが、セレナの水は「液体」でありながら、氷をすり抜けるようにして結衣の四肢を拘束した。


「が……っ!? あ……あぁ……!」


「結衣!!」


 俺が助けに入ろうとした瞬間、足元の水が牙を剥いた。


「――神代晴人。不適格者の君には、相応の『重圧』を与えましょう。……重力加速度、適用無視。重さのない水に、溺れてみなさい」


3

「(……っ!? 体が浮く……!?)」


 セレナが指を鳴らすと、俺の周囲だけ「重力加速度 9.81m/s2」という定義が消失した。  無重力状態。踏みしめる地面を失い、俺は空中に投げ出される。さらに、重さを失った水が球体となって俺を包み込み、肺から酸素を奪おうとする。


(ハク……演算しろ! 重力を、再定義……)


「キュ……キュォォ……!」


 ハクが苦しげに鳴く。セレナの「流体」による演算妨害は、ガウェインの真っ直ぐな重圧よりも遥かに複雑だった。   「……ハルト、待ってて。……私が、やらなきゃ」


 水の鎖に縛られながらも、結衣の瞳に強い光が戻った。  彼女は、恩師から教わった「流動」の教えを、今この瞬間に否定しようとしていた。


「先生……私はもう、守られるだけの子供じゃない。ハルトが見せてくれた『新しい理』を、私は信じます! ――氷結再定義:『絶対零度の断罪』!!」


 結衣の体から、白銀の衝撃波が放たれた。  それはセレナの水を凍らせるのではない。水の「分子の運動エネルギー」を、重力を媒介にして物理的に静止させる、晴人との共闘で掴んだあの力だ。


 パリィィィィィィィン!!


 結衣を縛っていた鎖が、そして俺を包んでいた水の球体が、一斉に砕け散った。  空中で体勢を立て直した俺は、ハクの演算を全開にする。


「――法則改変! 加速の定義を結衣の氷に乗せる!!」


 俺と結衣の視線が交差する。  恩師を超えるための、最初で最後の一撃。  結衣の放つ巨大な氷の刃が、俺の重力加速を纏って、セレナの胸元へと突き進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ