第24話:『氷力と重力の融合――新OS(ニュー・システム)起動』
1
ガウェイン・ベルフォードが放つ「重力の渦」は、すでに廃墟と化した千代田の街を物理的に消滅させようとしていた。 瓦礫、鉄骨、そして大気までもが一点に吸い込まれ、超高密度に圧縮されていく。
「……ハルト、私の魔力を全部使って。……私、あなたの隣にいるって決めたから!」
結衣が俺の背中にぴたりと寄り添い、震える手で俺の腕を掴んだ。 彼女の体から、氷結の魔力が濁流のように俺の中へ流れ込んでくる。凍りつくような冷たさのはずなのに、俺の脳内では過熱していた演算回路が、みるみると「冷却」されていくのが分かった。
(熱が……引いていく。……ハク、これならいけるか?)
「――キュォォォォォォォォン!!」
ハクの三本の尾が銀色から、氷のような透き通った青白色へと輝きを変える。 俺と結衣、そしてハク。三つの魂が、世界のOSを再定義するための「一つの数式」として重なり合った。
2
俺は迫りくる重力の渦を見据え、静かに宣言した。
「――法則改変。定義挿入:『絶対零度の停止』」
俺の重力が、結衣の氷結魔法を「ベクトル」として利用する。 空間を動かす重力と、空間を止める氷結。相反する二つの力が、ハクの演算によって完璧な螺旋を描き、ガウェインの渦へと突き刺さった。
パリィィィィィィィン!!
世界から音が消えた。 あらゆるものを吸い込んでいたブラックホールのような渦が、その中心から「凍結」し始めたのだ。 現象そのものの運動量がゼロになる。重力という名の加速が、絶対零度の静寂によって物理的に停止させられた。
「……バカな。重力を……凍らせたというのか!?」
ガウェインが驚愕の声をもらす。 俺はその隙を逃さず、停止した空間を蹴って加速した。
「これが、俺たちの新しい理だ!!」
3
俺の拳が、ガウェインの漆黒の甲冑を貫いた。 ただの打撃ではない。接触した瞬間、相手の体内の重力加速度を一気にゼロにし、慣性を奪った状態での衝撃波。 甲冑がガラス細工のように砕け散り、伝説の剣士が膝をついた。
「……見事だ、少年。……いや、神代晴人」
砕けた仮面の奥から現れたのは、穏やかに微笑む初老の男の顔だった。 彼は満足げに俺と結衣を見つめ、静かに光の粒子となって霧散していく。
「……合格だ。理の外を歩む者たちよ。……門の奥で、世界の真実が……待っている……」
第一の番人が消滅した場所には、巨大な「鍵」を模した銀色のチップが落ちていた。 「お疲れ様。……まさか本当に重力を『定義』で上書きするとはね。僕の計算をも超えてきたよ」
ルカが歩み寄り、俺と、魔力を使い果たして倒れそうになった結衣を支えた。 「……まだ、一人目だろ」
俺はチップを拾い上げた。 ガウェインを倒したことで、千代田を覆っていた重力異常がわずかに和らいでいる。だが、皇居の奥から放たれる「第二の圧」は、先ほどよりも鋭く、冷徹に俺たちの命を狙い始めていた。
「……次は、誰だ」
「第二の番人。……かつての水の皇帝候補にして、結衣さんの魔法の『師』にあたる人物だよ」
ルカの言葉に、結衣の肩が小さく震えた。




