第21話:『新星ランカーと、血塗られた叙任式』
1
海上要塞「アイギス」での選抜試験から一ヶ月。 世界を震撼させた「不適格者の反乱」の結果、俺、神代晴人と白石結衣は、特例として史上最年少での「世界ランカー」入りを果たした。
俺に与えられた順位は、世界ランク999位。 皮肉にも、末席からのスタートだ。だが、その二つ名はすでに世界中のスクーラーたちに知れ渡っていた。
「――重力加速の呪われし子、神代晴人。前へ」
スイス、アルプス山脈の地下深くに作られた「聖域」。 世界を統治する八人の皇帝――八帝が一堂に会するこの場所で、俺たちの叙任式は行われていた。 玉座に座る八人の影。以前会った炎帝レオンハルト以外にも、水の女王、風の賢者、そして俺を狙った土帝ガイア・クロムウェル。彼らが放つ「法則」の重圧だけで、普通の人間なら精神が崩壊するだろう。
「……っ」
隣で結衣が、ドレス姿のまま歯を食いしばって耐えている。俺はそっと彼女の手を握り、ハクと同期した「重力中和」の波動を送った。
「面白い。八帝の威圧を前にして、一歩も引かぬか」
玉座の中央、八帝のリーダー格である「光帝」が、冷徹な声を響かせた。
2
叙任式の最中、ルカ・エヴァンズは俺たちの斜め後ろで、貴族らしい完璧な礼を見せていた。だが、彼の耳元に仕込まれた超小型通信機からは、俺だけに聞こえる声が届く。
(ハルト。準備はいいかい? 今、この瞬間から『世界の書き換え』が始まる)
ルカの合図と同時に、聖域の巨大なステンドグラスが、内側から爆発するように粉砕された。
「――なにごとだ!?」
警備のランカーたちが色めき立つ。 だが、侵入してきたのは「怪異」でも「テロリスト」でもなかった。 それは、空中に浮かぶ無数の**「数式」**。物理法則を記述するコードが、物理的な実体を持って聖域を侵食し始めたのだ。
「これは……『世界のOS』の直接干渉!? バカな、これを操れるのは初代の神だけのはずだ!」
土帝ガイアが立ち上がり、大気を震わせる。 混乱の中、ルカが俺の肩を叩いた。
「行こう、ハルト。結衣さん。……八帝の権威が通用しない場所。この世界の『バグ』が溜まる特異点、**旧・日本**が君たちの最初の任務地だ」
3
数分後、俺たちはルカが手配した超音速輸送機の中にいた。 叙任式は中止。八帝たちは突如出現した「法則の暴走」への対応に追われている。すべてはルカが仕組んだ、俺たちを八帝の監視から連れ出すための「偽装」だった。
「……ハルト、本当にいいの? 私たちは今、世界最強の八人に『喧嘩』を売ったことにならない?」
結衣が機窓から遠ざかるアルプスを見つめ、不安げに呟く。
「……ああ。でも、あそこにいても俺たちは一生、奴らの駒だ。……俺は、自分の足で立ちたい。この世界の不条理を、重力で叩き潰せる場所まで」
俺はハクを抱き上げた。ハクの瞳には、すでに日本の座標から漏れ出す、禍々しくも懐かしい「重力波」が映っていた。
目的地:旧・東京都、千代田区。 そこには、八帝すらも恐れて封印した、世界の根源に繋がる「開かずの門」があるという。
「ハルト。君の『法則改変』なら、その門を開けるかもしれない。……いや、君が『門』そのものになるんだ」
ルカの言葉と共に、輸送機は雲海を突き抜け、かつての繁栄を失った「東の最果て」へと加速した。
第二章。 それは、不適格者が世界の「王」を殺すための旅路。




