第20話:『逆転の号砲、そして新たな理へ』
1
「死ねぇ、ガキ共ッ!」
毒蜂のケインが放った無数の紫色の針が、吹雪を切り裂いて俺たちを襲う。 一本でも掠れば即死。ランカーの放つ「必殺」の魔圧が、プラントの空気を重く湿らせる。
「……ハク、演算リソースを俺と結衣で完全分担しろ。結衣、お前の魔力を俺の『ベクトル』に乗せろ!」
「やってみる! ――氷結奥義『零度の檻』!」
結衣が掲げた折れた杖から、極低温の魔力が奔流となって溢れ出す。 通常なら俺の周囲に壁を作るだけの魔法。だが、そこに俺の『法則』が介入する。
「――法則改変。質量付加、及び指向性加速。……行けっ、結衣!」
「キュォォォォォン!!」
ハクの紋章が激しく明滅し、結衣の放った氷の礫に、一つ一つ「一トン」の質量と「超音速」の初速を与えた。 ただの氷の礫が、物理法則を置き去りにした「重力の弾丸」へと変貌する。
2
ドガガガガガガッ!!
「なっ……バカな!? 氷の魔法が、俺の針を正面から粉砕して……!?」
ケインの叫びは、重力の轟音にかき消された。 氷の弾丸は、紫色の針を塵も残さず消し飛ばし、そのままケインの周囲の空間を「質量」で圧殺した。
「ぐ、あああああぁぁぁっ!!」
ケインは防御魔法を展開する間もなく、四方八方から押し寄せる重力の圧力に屈し、プラントの床ごと地下へと埋没していった。 沈黙。 残されたのは、粉砕されたアスファルトと、キラキラと輝く氷の結晶だけだった。
「……勝った、の?」
結衣が肩で息をしながら、俺の腕を掴んだ。 俺は黙って頷き、彼女の震える手を握り返した。 一人の「不適格者」と、一人の「落ちこぼれかけた天才」。 俺たちは、自分たちを縛っていた運命を、今この瞬間に打ち破ったのだ。
3
プラントの入り口。 逆光を背に、拍手をしながら歩み寄ってくる人影があった。
「素晴らしい。期待以上のシンクロニシティだ、ハルト。そして白石さん、君の覚悟も認めざるを得ないね」
ルカ・エヴァンズだった。 彼の懐には、すでに規定数以上のエンブレムが収められていた。
「試験の第一段階は終了だ。君たちの勝利は、すでにアイギスの最上層……そして世界中に中継されたよ」
ルカが指差す先、要塞の中央塔から一筋の光が天を突いた。 それが、次なるステージへの招待状であり、俺たちが「学生」という保護下から完全に外れたことを示す、逆転の号砲だった。
「ハルト。……私、もう迷わない。何があっても、ハルトの隣にいたいから。だから、私を置いていかないで」
結衣のまっすぐな瞳が、俺を射抜く。 俺は少しだけ視線を逸らし、それから、今までで一番確かな声で答えた。
「……ああ。お前がそのつもりなら、最後まで付き合ってもらう」
俺の肩で、三本の尾を誇らしげに振るハク。 第一章:完。 物語は、学園という箱庭を抜け出し、世界を裏から操る「八帝」との本格的な抗争へと進んでいく。 俺の名は、神代晴人。 重力加速度の不適格者。 俺の成り上がりは、ここから本当の「加速」を始めるんだ。




