表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力加速の不適格者  作者: はっこー
第一章:『重力加速の不適格者(アウトサイダー)』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/39

第2話:『氷の少女と鉄の教室』

1

 国立第一対怪異育成学園の教室は、文字通り「鉄」の規律で支配されていた。  黒板の代わりに浮かぶホログラム・スクリーンには、世界各地で観測された「怪異ベクター」の被害状況と、それを鎮圧したランカーたちの武勲が流れている。


「いいか、諸君。世界ランク1000位以内の『ランカー』になれるのは、卒業生の一割にも満たない。残りは名もなきスクーラーとして使い潰される。それが現実だ」


 教官の言葉が、冷たいナイフのように教室を撫でる。  このSAクラス(特別能力クラス)において、能力の優劣はそのまま人間としての価値に直結していた。


 視界の端で、ルカ・エヴァンズが窓の外を眺めているのが見える。彼のように「エンペラー候補」として最初から約束された者にとって、こんな講義は退屈でしかないのだろう。  一方で、俺――神代晴人の机の上には、100点満点で『12点』と刻印された小テストの用紙が置かれていた。


(……魔力出力が低すぎるんだよな、やっぱり)


 溜息をつきながらペンを回す。  俺が使っている「重力加速」は、外部のマナを燃焼させて現象を起こす「魔法」とは根本的に回路が違う。脳内の演算リソースの九割を「法則の書き換え」の秘匿と維持に割いているため、一般的な魔法のテストでは欠陥品同然の数値しか出せないのだ。


2

「ハルト、またお昼、学食のパンだけ?」


 昼休み。結衣が俺の机を囲むように椅子を引いた。  彼女が広げた弁当箱には、彩り豊かなおかずが詰まっている。


「いいだろ、これで十分足りてる」


「ダメだよ! 身体強化の魔法を使うなら、もっとタンパク質摂らないと。ほら、これあげる。私の力作なんだから」


 結衣はそう言って、箸で厚焼き玉子を俺の口元へ運んできた。周囲の男子生徒からの殺意に近い視線を感じる。結衣は学園でも屈指の美少女だ。氷結魔法の適性も高く、将来は「水帝」の派閥に入ると噂されている。  俺のようなFランクが彼女と親しくしていること自体、この学園の秩序に反しているのだ。


「……おい、結衣。ここ教室だぞ」


「いいじゃん、幼馴染なんだし。はい、あーん!」


 俺が顔を背けると、結衣は少し寂しそうに頬を膨らませた。


「ハルトは、昔からそう。私を頼ってくれない。……隠し事、してるでしょ?」


 心臓がドクン、と鳴った。  彼女の氷のように澄んだ瞳が、俺の心の奥を見透かそうとしている。


「隠し事なんて、あるわけないだろ。……ただ、俺はお前みたいにキラキラした世界には行けないって、分かってるだけだ」


「そんなこと、私が決めさせない。ハルトは私が守るって、あの時から決めてるんだから」


 あの時――俺たちがまだ幼かった頃、暴走した怪異から彼女を救うために、俺が初めて「重力」を捻じ曲げた日のことを言っているのだろうか。彼女はあの時の光景を、ただの「奇跡的な身体強化」だと思い込んでいるはずだが。


3

「よお、欠陥品。今日も女に守られてか?」


 嫌な声が響いた。茶髪を派手に遊ばせた男子生徒、佐々木が取り巻きを連れて歩み寄ってくる。彼は下級貴族の出で、木属性の魔法を得意としていた。


「佐々木くん、やめてよ」


 結衣が冷たい声で制すが、佐々木はニヤニヤと笑いながら俺の机を叩いた。


「おい神代。お前の式神、貸してみろよ。掃除のモップくらいには役に立ちそうだ」


 佐々木の手が、俺の足元にいたハクに伸びる。その指先には、威嚇のための微弱な魔力が込められていた。


(……やめろ)


 俺の意識が瞬時に「数式」を構築する。  ハクの周囲、半径5センチの重力ベクトルを「水平方向」へ15度傾斜。


「おわっ!?」


 ハクに触れる直前、佐々木の手が滑るように横へ流れた。勢い余って、彼は自分の弁当箱を机から叩き落としてしまう。


「て、てめえ、何しやがった!」


「……何も。お前が勝手に滑ったんだろ」


 俺は無表情に答えた。周囲からはただの失態に見えたはずだ。だが、教室の入り口付近にいたルカだけは、確信に満ちた笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「――そこまでだ、佐々木」


 ルカが静かに歩み寄るだけで、教室の空気が凍りつく。


「エ、エヴァンズ様……!」


「くだらない私闘はよしなよ。それとも、僕が相手になろうか? 僕の空間魔法で、君の座標をこの学園から『消去』してもいいけど」


 ルカの碧眼に宿る冷徹な光に、佐々木は顔を青くして逃げ出した。  ルカは俺の横を通り過ぎる際、耳元で小さく囁いた。


「上手い偽装だね、ハルト。でも、次はもう少し自然にやらないと、僕以外の『鋭い目』にも気づかれるよ」


 ルカが去った後、俺は拳を強く握りしめた。  隠し通すことの難しさと、ルカという存在への警戒心。そして、自分の力を試したいという、抑えきれない渇望。


 鉄の教室内で、俺の「成り上がり」への導火線は、静かに、だが確実に燃え始めていた。

ルカに呼び出された夜の演習場。そこで晴人は、ルカが抱える「孤独な野心」を知ることになる。そして、二人の間で交わされる「禁断の契約」とは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ