第19話:『孤高の戦場、不意の再会』
1
人工島「アイギス」の北部に位置する、廃液処理プラント跡。 ここは人工的な寒冷魔法の実験場だったのか、周囲は真夏とは思えないほどの猛吹雪に覆われていた。
「……ハク、熱量を計算しろ。凍結による筋肉の硬直を防ぐ」
「キュォ……」
ハクが俺の首筋に鼻先を寄せ、微細な振動で熱を発生させる。 俺は吹雪の中を、重力加速度を前方へわずかに偏向させることで、風を切り裂くように進んでいた。感情を捨て、孤独に戦うと決めた。そのはずなのに、この冷気を感じるたびに、ある少女の使う「氷結魔法」の冷たさを思い出してしまう。
(……雑念だ。捨てろ)
俺は頭を振り、視界の端に映る熱源を捉えた。 前方の広場。そこで、数人の受験生に囲まれ、必死に応戦する「影」があった。
2
氷の槍が空を飛び、襲いかかる炎の弾丸を相殺する。 だが、囲んでいる連中は手慣れたプロだ。連携の取れた魔術で、その「影」をじわじわと追い詰めていく。
「へへっ、いい獲物だ。特待生だか何だか知らねえが、学園のお嬢ちゃんが来る場所じゃねえんだよ!」
その声を聞いた瞬間、俺の足が勝手に動いていた。 重力を後方へ爆発させ、弾丸のように広場へ突っ込む。
「――法則改変。重力加速、前方五十倍」
ドッ!!
真空を切り裂く衝撃波。 俺は一瞬で包囲網の中心へと割り込み、敵の一人の顔面に強烈な右拳を叩き込んだ。
「がはぁっ!?」
敵が吹っ飛び、周囲の連中が慌てて距離を取る。 砂煙が舞う中、俺は背後に立つ人物を振り返った。
「……結衣。なぜ、ここにいる」
そこに立っていたのは、ボロボロになった制服を纏い、それでも折れたはずの杖を固く握りしめた白石結衣だった。
3
「ハルト……?」
結衣の瞳から、一筋の涙がこぼれ、瞬時に凍りついて地面に落ちた。
「どうして……お前、学園にいろと言ったはずだ。ここは、お前みたいな奴が来ていい戦場じゃない」
「……言ったでしょ。ハルトが壊れちゃうくらいなら、私が守るって。ハルトが、嘘をついてまで私を遠ざけようとしたのは知ってる。……でも、私だって、ずっとハルトに守られてるだけの子供じゃない!」
結衣が杖を掲げると、周囲の気温がさらに数度下がった。 彼女が纏う魔力は、学園にいた頃とは比べ物にならないほど鋭く、そして悲しいほど澄んでいた。
「……勝手についてきたのか」
「炎帝様に直談判したの。ハルトの『補助要員』として認めてもらったわ。……嫌だって言っても、もう遅いから」
彼女の決死の瞳に、俺は言葉を失った。 「――おしゃべりはそこまでだ、ガキ共!!」
残った敵たちが、一斉に奥義を構える。 その中に一人、ひときわ異質な魔力を放つ男がいた。世界ランク七六一位、毒蜂のケイン。 彼は指先から紫色の魔力針を生成し、俺たちを冷酷に見据えた。
「『不適格者』に『氷の小娘』か。まとめて土に還してやるよ!」
ケインが動くよりも早く、俺は結衣の前に立った。 結衣は俺の背中にそっと手を添え、自らの魔力を俺に流し込もうとする。
「……ハク、演算リソースを一部、結衣の魔力補正に回せ。……結衣、俺の後ろにいるな。俺の『隣』で戦え」
「……! うん、ハルト!」
決別したはずの二人が、死地で再び背中を合わせる。 成り上がりの物語は、孤独な戦いから「絆」を武器にした共闘へと、新たな加速を始めようとしていた。




