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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第一章:『重力加速の不適格者(アウトサイダー)』

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17/39

第17話:『決別の雨、あるいは……』

1

 炎帝との謁見を終えた日の夜、空はどんよりとした雲に覆われ、冷たい雨が降り始めた。  学園の屋上。そこは、俺と結衣が幼い頃、将来立派なスクーラーになろうと誓い合った思い出の場所だ。


「……来ると思ってたよ、ハルト」


 雨音に混じって、震える声が聞こえた。  屋上のフェンス際、雨に打たれながら立っていた結衣がゆっくりと振り返る。その瞳には、かつての温かさはなく、氷結魔法を操る彼女の心さえも凍りつかせたような、深い絶望が宿っていた。


「……結衣。風邪を引くぞ、中に入ろう」


「もう、嘘はやめて!!」


 彼女の叫びが、雷鳴と共に響いた。  結衣の周囲でマナが暴走し、降り注ぐ雨が瞬時に鋭い氷のつぶてへと変わる。


「私にはわかるよ。今のハルトの周り、雨粒が真っ直ぐ落ちてない。……ねえ、新宿で、そしてさっきの炎帝様の前で、何をしたの? その肩に乗ってる銀色の狐は、本当にただの式神なの……?」


 俺の肩で、ハクが悲しげに「キュ……」と鳴く。  隠し通せる限界は、とうに超えていた。


2

「ハルト……お願いだから、本当のことを言って。あなたが、私の知らない誰かになっていくのが、怖いの……っ!」


 結衣は泣いていた。雨と涙が混じり合い、彼女の頬を濡らす。  本当のことを言えば、彼女の安全は保障されない。法則改変の存在を知る者は、たとえ被害者であっても監査部によって「処置」される。  俺が彼女を守る唯一の方法。それは、彼女を俺の世界から完全に切り離すことだった。


「……ああ、わかったよ。本当のことを教えてやる」


 俺は一歩、彼女に歩み寄った。  脳内の演算回路をフル稼働させ、わざと「威圧的」な重力波を周囲に放出する。


「お前の知ってる神代晴人は、もういない。……俺は、ルカと一緒に世界をひっくり返す力を手に入れたんだ。お前みたいな、ただ『属性』を与えられて喜んでる温室育ちの魔法使いとは、見てる景色が違うんだよ」


「……え?」


「結衣、お前はもう、俺の隣に立つ資格はない。……邪魔なんだよ。お前のその『心配』が、俺の成り上がりを鈍らせる」


 心を殺して、言葉の刃を突き立てる。  結衣の顔から、一気に血の気が引いていくのがわかった。


「……嘘。……嘘だよ、ハルト」


「嘘じゃない。俺は炎帝に選ばれた。次はランカーになる。……お前は、この安全な学園で、一生おままごとでもしてろ」


3

 結衣が、力なくその場に崩れ落ちた。  彼女が握っていた杖が、パランと虚しい音を立てて床を転がる。


「……さよならだ、結衣」


 俺は背を向けた。  足を踏み出すたびに、胸の奥が物理的な重力よりも強く締め付けられる。    雨脚が強まり、俺の背後で結衣の小さな嗚咽が雨音にかき消されていく。  屋上の入り口、影の中に立っていたルカが、どこか悲しげな、だが残酷なまでに美しい微笑を浮かべていた。


「……最悪の役回りだね、ハルト。でも、これで彼女は死なずに済む」


「……うるさい。黙ってろ」


 俺の頬を伝う液体が、雨なのか涙なのか、もう自分でもわからなかった。    大切なものを切り捨て、俺は孤独な「怪物」になった。  もう、後戻りはできない。  残されたのは、手の中に握られた世界ランカー選抜試験の招待状と、銀色の狐、そして止まない雨だけだった。


 成り上がりの代償は、あまりに重すぎた。  だが、その重さこそが、俺をさらなる高みへと加速させる動力源になる。

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