第11話:『黄金の要塞 vs 偽装の英雄』
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学園対抗魔法競技会、決勝戦。 スタジアムを埋め尽くす観客の熱気は最高潮に達していた。 対峙するのは、エリート中のエリート。イギリスの名門「ゴールドウェル家」の嫡男であり、『金帝』の有力な後継者と目されるアーサー・ゴールドウェル。
「不適格者の神代くん。……君の執念には敬意を表そう。だが、小細工は私の前では無意味だ」
アーサーが指先を鳴らすと、彼の周囲に浮かぶ無数の金属片が結晶化し、眩い黄金の鎧へと姿を変えた。 ただの鎧ではない。分子結合を「金剛石」以上に固定した、絶対防御の要塞だ。
「さあ、命を削ってかかってくるがいい。私の盾を一ミリでも動かせたなら、君の勝ちでいいよ」
アーサーの余裕に、スタジアムが湧く。 一方で、俺の肩には進化したハクが乗り、銀色の霊気を静かに漂わせていた。
(ハク。……準備はいいか。演算リソース、すべて右拳に集中させるぞ)
(キュォォン!!)
ハクの紋章が光り、俺の脳内に膨大な計算データが流れ込む。 今なら見える。アーサーの防御の「繋ぎ目」が。そして、彼が絶対だと信じている物理法則の「脆さ」が。
2
「はあああああ!」
俺は地面を蹴った。 重力加速度を三倍に設定し、さらにハクの演算で「空気抵抗」をゼロに定義する。 傍目には、命を燃やした捨て身の突進に見えるはずだ。
「無駄だと言ったはずだ!」
アーサーが黄金の盾を構える。 俺の拳が、その絶対的な硬度に激突した。
ガギィィィィィィィン!!
スタジアム全体を震わせる金属音が響く。 俺の拳は、盾を砕くどころか、反動で腕の骨が軋むような衝撃を受けた。
「……くっ、さすがに硬いな」
「はっ、当然だ。私の『金剛固定』は、物理的な質量攻撃では決して破れない!」
アーサーが盾を突き出し、俺を吹き飛ばそうとする。 だが、俺はニヤリと笑った。 本当の狙いは、今の一撃で「法則の楔」を打ち込むことだった。
「……今だ、ハク! 定義変更――『内部重力の無限加速』」
「キュォォォォォン!!」
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アーサーの表情が、驚愕に染まった。 彼が持っている黄金の盾。その「内部」にあるわずかな空気、そして分子そのものに、俺は極小範囲の重力操作を施した。
盾の重さが、一瞬にして数トン、数十トンへと跳ね上がる。
「なっ……な、なんだこの重さは!? 盾が……持ち上がらな……!?」
自らの最強の防御が、自重によって地面へとめり込んでいく。 アーサーの姿勢が大きく崩れた。 俺はその隙を逃さず、ハクと共に最後の一撃を放つ。
「これは呪いじゃない。……俺とお前の、『理』の差だ」
俺は拳を引く。 狙うは、アーサーの鎧の継ぎ目。そこにある「一点」に、全方位からの重力ベクトルを集中させた。 奥義:『重圧連激』。
ドゴォォォォォォォン!!
衝撃波がスタジアムの壁まで突き抜けた。 黄金の鎧は粉々に砕け散り、アーサーの体は錐揉み回転しながらフィールドの外まで吹き飛んだ。
静寂。 そして、割れんばかりの歓声。
「……勝者、神代晴人!!」
審判の絶叫が響く中、俺は天を仰いだ。 結衣がフィールドに駆け寄ってくるのが見える。 ルカは、最高のショーを見たと言わんばかりに、優雅に立ち上がって拍手を送っていた。
俺は「落ちこぼれ」という過去を、この黄金の盾と共に粉砕した。 成り上がりの第一歩。だが、その光景を不気味な瞳で見つめる影があった。
「……あれが『法則改変』か。面白い。土帝閣下への、良い手土産になるな」
スタジアムの影から、謎の男が消える。 真の敵が、ついに動き出そうとしていた。




