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重力加速の不適格者  作者: はっこー
第一章:『重力加速の不適格者(アウトサイダー)』

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10/39

第10話:『式神ハク、真の覚醒』

1

 準決勝の後、俺は再び保健室のベッドに沈んでいた。  今回は偽装だけではない。一条の「鉄木」にマナを吸われ、強引に重力演算を繰り返した脳は、焼け付くような熱を持っていた。


「……ハルト、もう限界なんだよ。君の脳が、法則の書き換えに耐えきれなくなっている」


 ルカが窓際に立ち、月明かりを背に冷たく告げた。  彼の指先には、俺の生命バイタルを示すホログラムが浮いている。心拍数は不安定、脳波には「法則」を扱ったことによる深刻なノイズが走っていた。


「……決勝、棄権するかい? 準Cランクにはなれたんだ。これ以上は、本当に死ぬよ」


「……棄権なんかしない。決勝の相手は、エリート選抜の筆頭……『金帝』の血族だろ」


 決勝の相手は、アーサー・ゴールドウェル。イギリス出身の天才で、あらゆる物質を「金剛石」以上の硬度に固定する能力を持つ。今の俺の「一点突破のパンチ」では、拳が砕けるのが関の山だ。


「強情だね。……でも、そんな君のために、一つだけ解決策がある。……いや、解決策はもう君のそばにいるね」


 ルカの視線が、俺の枕元で丸まっていたハクに向けられた。


2

「キュイ……」


 ハクは申し訳なさそうに鳴き、俺の頬を舐めた。  その瞬間、俺の脳内に直接、冷たい水が流れ込むような感覚が走る。


「……っ、これは?」


「ハクは『ことわりを喰らう獣』だ。君が一人で背負っている『演算の負荷』を、こいつが代わりに喰らって処理することができる。……ただし、それには君とハクの魂を完全に同調させる必要がある」


 ルカの説明によれば、今のハクはまだ「俺の漏れた法則を食べている」だけの状態。  これを「俺と一緒に法則を書き換える」パートナーへ進化させる。


「やり方は簡単だ。君の心臓の重力ベクトルを、ハクに預けるイメージを持つんだ。……ハルト、君の命をこの小さな狐に預ける覚悟はあるかい?」


 俺は迷わず、ハクの小さな前足に自分の指を重ねた。  孤独だった。  この世界で、禁忌の力を一人で抱え、誰にも言えず、結衣にすら嘘をつき続けてきた。  でも、こいつだけは最初から俺と一緒に、重力に押し潰されながら歩いてきたんだ。


「ハク。……俺の全部、お前に貸す。だから、一緒に戦ってくれ」


「――クゥォォォォォォン!!」


 ハクの咆哮と共に、保健室が眩い銀色の光に包まれた。


3

「……何、この光……?」


 飲み物を買って戻ってきた結衣が、扉の前で立ち尽くした。  光の中から現れたのは、これまでの子狐の姿ではない。  背中から銀の翼を思わせる霊気の衣を纏い、尾は三本。その額には、重力の歪みを象徴するような「螺旋の紋章」が刻まれていた。


 ハク・第二形態:『重力演算機・銀閃ぎんせん』。


「脳の熱が……引いていく」


 俺はベッドから立ち上がった。  不思議だった。全身を縛り付けていた倦怠感が消え、それどころか、世界が今まで以上に「鮮明」に見える。  ハクが俺の肩に飛び乗り、耳元で囁くように霊気を送る。重力の計算式が、俺の思考とハクの霊力の間で自動的に補完されていく。


「……すごい。これなら、隠蔽しながらでも出力の100%が出せる」


「おめでとう、ハルト。これで君は、ようやく『法则使い』としてのスタートラインに立ったわけだ」


 ルカは満足げに頷き、結衣の方を向いた。  結衣は呆然としながらも、俺の顔色を見て、少しだけ安心したように息を吐いた。


「ハルト……なんだか、すごく強そうになったね。……でも、無理だけは絶対、約束だよ?」


「ああ。……次は、勝つだけじゃない。圧倒してくる」


 俺は拳を握った。  アーサー・ゴールドウェル。  世界が認める「金」の防御を、俺とハクの「理外の重力」で粉砕してやる。


 成り上がりの物語は、ついに第一章のクライマックス、決勝戦へと突入する。

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