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第22話 懸賞金


 横穴の先——ゴブリンの巣穴を抜け、僕はダンジョンを脱出した。買取所で精算を済ませてからその足で治療を受けに教会へ向かう。ちなみに戦利品は2400Gで売れた。嬉しい。


 歩きながら少し考える。けれどやっぱり答えは出なかった。


  ……なにごと?


 その一言に尽きると言ってもいい。意味が分からない。


 昨日の酒場の男たちが僕を襲うのはまだ分かる。そんなに憎むことかなとは思うけど、そういうのは人それぞれだから仕方ない。


 だけど……と、僕は布で巻かれただけの横腹を撫でた。


 ……明らかに格上の人も僕を狙ってるし、あの場面で全員が僕だけを狙うっておかしいよね。というか酷い。


 ダンジョンは無法。それでも暗黙の了解というものはある。


 三人パーティーが限界のダンジョンだけど、実はそれ以上の人数で攻略する方法が無くもない。方法は簡単、示し合わせてダンジョン内で合流してしまえばいい。


 だけどそういうのが許されるのは攻略だけで、他パーティーを寄ってたかって潰しにかかるのはタブーのはず。それを他奴隷はともかくあのランサーやレンジャーが分かっていないとは思えない。


 しかもあそこまで強いと初心者用の『ゴブリン迷宮』ではなくもっと高難易度の迷宮に主戦場を移すのが普通だ。初心者狩りして気持ちよくなる人もいるけどそれとはちょっと違う気がする。


 ……聞いてた話、仕事か。


 つまり……つまり、何だろう。


「——いた! アサヒ!」

「……レア?」


 血相を変えて駆け寄ってくるレア。体力に秀でたウォーリアなのに肩で息までしていた。


「ランニング? 体力付けるならダンジョンの方がいいよ」

「ちげーよずっとお前を探してたんだよ! いいからこっちこい!」


 そうレアに無理矢理手を引かれて向かった先は——寝床。

 まだ昼間だから人っ子一人いない。皆それぞれの労役中。


 静かに流れる空気の中、レアはどかっとあぐらをかいて藁に座った。心なしか怒ってる気がする。


「レア、女の子がはしたないよ。下着見えてる」

「う、うううるせぇな! 丈が短いんだから仕方ねーだろ!」


 そう言いつつも女の子座り。そっちの方が似合ってる。

 レアは赤い顔のまま誤魔化すように咳をして——言った。


「アサヒ、お前狙われてるぞ」

「知ってるよ、さっき沢山襲われたし。僕は大したの持ってないのに変な話だよね」

「ソロで沢山襲われて生き延びてるのかよ。こりゃオレも腹くくらないとヤバいな……」


「いやそうじゃなくてだな」と、レアは続けて言う。


「狙われてるのはお前自身だ。お前——懸賞金かけられてる」

「……懸賞金?」


 なにそれ、知らない。

 僕がそう首を傾げると、レアは軽くため息を吐いた。


「簡単に言うと、お前の命に値段がついた。ダンジョン内で殺せば報酬が出る。外で襲われることはねぇけどな」

「へー」


 レアは「へーじゃねぇよ」と眉をひそめた。


「いいか、お前の懸賞金は十万G。しかも無制限だ。地上の連中なら十万丸々、オレたち奴隷は差っ引かれて一万。それでも十分すぎる額だ」

「ふーん」

「……おい、本当に意味分かってんのか?」

「分かってるよ。というかレアはどうやってそんなこと知ったの? そういうのってあまり公にならないよね、マナ板持ってるならともかく」

「う゛!? オ、オレのことは今どうでもいいだろ!?」


 質問をはぐらかされた。どうでもよくないけど言いたくないなら仕方ない。

 レアは話題を変えるように大きく咳払いをしてから続けた。


「あのなアサヒ、お前の懸賞金はたかがダンジョン奴隷にしちゃ破格なんだよ。地上の中堅どころも動く絶妙なラインと言ってもいい」

「ああ、だから。なるほど」


 道理であの二人組だけ飛び抜けて強いと思った。ということは倒せていたらやっぱり見返り大きかったなぁ、残念。

 怪訝に顔を歪めたレアに、僕は何でもないと苦笑した。


「それで? 中堅どころが動くから何なの?」

「何なのじゃねーだろ!? 分かってないようだから教えてやるが、こいつは特定の誰かがお前を潰そうとしてるってことなんだよ! 無制限てのはそういう意味だ、ダンジョンで殺しまくってお前の心を折ろうとしてんだよ!」

「そうなんだ。教えてくれてありがとね」


 けれどいつの間にそんな恨みをもらったんだろ、さっぱり心当たりが無い。

 しかしそれだけお金をかけられるということは、少なくとも奴隷ではないだろう。となると市民——地上の人ということになるけど、そうなるともう接点自体がダンジョンでしかない。駄目だ、本当に分からない。


 ……恨みとか個人の範囲だし、気にしても仕方ないかな。


「……おい、それだけかよ」


 僕の反応が気に入らなかったのか、レアが低い声で言った。


「懸賞金だぞ。お前潰されようとしてんだぞ。他にもっとあるだろ」

「そんなこと言われてもね。相手が分かるなら謝りにいくけど、そういうのって匿名でしょ? ならどうしようもないよ」

「もう一つあるだろ、方法が」


 そう言って、レアは目を伏せた。


「——ほとぼりが冷めるまで大人しくすること、これしかねぇ。アサヒ、お前が潜る時はオレも同行する。そんで潜ったら探索しないでさっさとダンジョンから脱出すんだよ。そうすれば、——」

「嫌だよ。それだとアストリッド様との約束が果たせない」


 一月で骸士になる。懸賞金の期間がどれだけは知らないけど、そんなことしていたら多分この約束は果たせない。


 それだけは、アストリッドから色々な支援を受けた者として、認められなかった。


「嫌だって……じゃあどうすんだ! 普通に探索して殺されるのか!? そんなの相手の思うつぼだろ! お前潰されてもいいのかよ!?」

「うーん、まずそこが間違ってるよ。なんでダンジョンで殺されたからって僕が潰れることになるの?」

「……はぁ?」

「僕はこれまで、多分千回以上ダンジョンで死んでるんだよ。それが今更百や二百増えたって大したことないでしょ」


 前提を覆すことを言って悪いけれど、これが事実。

 僕からしたら懸賞金なんて無駄金にしか思えないし、気にするだけ時間の無駄でしかなかった。


 ……でも他の人に邪魔されるのはめんどくさいけどね。


「……じゃあ、お前はこれまで通り普通に探索するってのか」

「そうなるかな。勿論警戒はするけど」

「そうか……そうかよ」


 肩を震わせていたレアが、何かを振り払うように立ち上がる。


「もういい! 勝手にしろ!」


 そう言って、走ってどこかへ出ていってしまった。


 ……怒らせちゃったかな。


 寝る前までには、謝り方を考えておかないと。



 ……ダンジョンに潜ることは、止めないけどね。




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