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第21話 援軍


「——聞いてねぇ、聞いてねぇぞ! このガキがこんな強いなんてっ!」


 絶え間ない剣戟の音。乱れた荒い息遣い。

 こちらの出方を伺うということを知らない散漫な上段斬り。

 僕はそれが振り下ろされるのを待たず——手首を斬り落とした。


「——ガァッ、ァァ゛!?」


 男は蹲まって手を抑える。そんなことしても痛みは和らがない。

 僕は彼の頭を蹴り飛ばして仰向けに倒すと、無事な方の腕に剣を食い込ませた。


 ……ルーンソードは切れ味良くて楽だよね。


「なんでいきなり襲ってきたの?」

「——イィぅっ」


 男——昨日酒場で絡んできた三人組の奴隷。

 その内二人は、もう物言わぬ死体になっている。


 ……あそこで僕に矢を当てようとしてれば、結果は違ったかもしれないのにね。


 馬鹿だなぁ、と僕はため息を吐いた。


「ダンジョンだから別にいいけど、でも理由くらいは気になるんだ。そんなにこの剣が欲しかった?」

「いでぇ、いでぇ、もう、やめ、やめでぐれっ」

「理由を教えてくれたら止めてあげる」


 剣をぐりぐりと動かしてみる。男は泣き叫んだ。


 ……大袈裟だなぁ。まるで僕が酷いことしてるみたいじゃん。残す人選失敗したかも。


「僕言ったよね、戦利品を分けて上げるって。それすら聞かずに君ら襲ってきたよね。どうして?」

「——ひ、ひ、う、ぅぅ」

「もういいや」


 剣を引き抜いて頭を貫く。痛いのが嫌みたいだから即死させてあげた。死んだら治るから開き直ればいいのに、まだダンジョンに慣れてないのかな。


「うーん、わかんないなぁ」


 今は昼間。ダンジョンアタックがもっとも活発になる時間帯と言ってもいい。

 この時間に潜ればリーパーの一人や二人と遭遇しても全くおかしくないけれど……ちょっと今回のは気色が違った。


 ……まるで僕を殺す事が目的みたいだったんだよね。


 普通は相手の持ち物を物色するような視線を向けられる。それで良いものがなさそうならスルーか、探索の邪魔になりそうだからって殺したりする。

 

 でも彼らはそういった目を僕に一切向けてこなかった。というか戦利品を分けるとまで言ったのに襲ってきた時点で意味不明。高値が確実に付くルーンソードだって壊れてもいい斬り方してきたし。


「そんなに昨日の事がムカついたのかな?」


 絡んできたのは向こうからなのに。僕はちょっと腕を引いただけなのに。意味がよく分からない。


 ……まぁいいや、とりあえず全裸に剥いとこ。


 この人達は奴隷用の服じゃない、つまり売ればちょっとは足しになる。このまま消えていくのは勿体ないから再利用してあげよう。掘り出し物でも隠してるかもしれないし。


 あ、この人ちょっと漏らしてる。これは汚いからいいや。


「おいこっちだ、こっちからガキの声が——て、なんで全裸!?」

「またぁ?」


 新たに慌ただしくパーティーがやってくる。珍しい、2人組みだ。

 彼らは僕が殺した三人の死体を見て、なぜか戦々恐々と顔を強張らせた。


「なんてやつだ、装備はともかく下着まで剥くかよ。普通は報復を恐れてそんなことできないぞ」

「こいつは本気でいかないとやべぇな、負けたら俺達も全裸だ」

「ああ、負けられねぇ!」

「いやまずなんで僕を殺そうとしてるの?」


 話を聞かずに近接職——恐らくランサーが槍を繰り出してきた。


 ……うん、強いかも。


 槍は点の動きだから距離感が分かりにくい。こればっかりは武器じゃなくて相手の動きを見ている僕でも変わらなかったりする。向こうも槍の持つ位置を変えて常に間合いを変えている。上手い。


「《クイックドロー》!」


 ランサーの背後から弓矢の四連射。僕の知らないスキル。

 威力は上々狙いも正確。ただタイミングだけは上手くなかったから、僕は難なく弾いて躱した。それだって放つ前から動いていなければ一発くらいはもらっている。


 ……この人達奴隷じゃないなぁ。骸士? いや地上の探索者かも。


 この時点で僕より格上だと分かったから、正直もう逃げたいけれど——と、僕は彼らの装備を見積もった。


 鋭く研がれた穂先。軽量化された槍身。戦場での機動を前提とした軽装槍兵の装い。

 迷彩のような色合い。革と金属を組み合わせたレンジャー特有の軽鎧。背に背負った矢筒。腰には短剣。


 …………。


 見返り大きい!


「スラスト!」

「良い度胸だガキ!」


 ランサーが急速にバック。間髪入れずにリーチに長けた槍を繰り出してくる。

 スキル硬直。スラストはコンマ数秒。でもやっぱり戦闘中においては致命的で、脇腹の辺りをザックリいかれた。幸い内臓には当たっていない。


「足を狙った方が良かったんじゃない?」

「生意気だなおい!?」


 槍による連続突き。相変わらず間合いが掴めないけれど、点だと割り切ってしまえば躱すことは簡単だ。つまり後ろではなく横に避ければいい。


 ただ横に避けたら弓がくる。そうして射線を通すのがこの人達の戦法。

 それなら——そこを狙う。


「《アイスニードル》!」

「——なんだと!?」


 弓——レンジャーに向かって魔法を放つ。それはホブゴブリン戦でやった時と同様に空中で弓矢と衝突し——押し切った。ただし結果はゴブリンとは違って横っ飛びで避けられてしまう。


 ……今ので決まらないのちょっときつい。


「どういうことだ!? 近接職じゃねぇのかよ!」

「俺が知るか!」


 相変わらず槍で突いてくるランサー。それはもう目に慣れたよ。

 僕は死体……人だと重いからゴブリンの死体を思いっきり蹴り上げた。

 

「チ——ッ、《ランスチャージ》!」


 ゴブリンの死体が槍で貫かれる。凄まじい突進技で僕ごと刺し殺すつもりだったろうけど……もうそこにはいないよ。


 正確には、匍匐全身する勢いで思いっきり地面に伏せている。


 そして、


「スラスト!」

「——っぐ!?」


 僕の剣がランサーの肩に突き刺さった。

 僕は蹴り飛ばされると同時にバックして、ダメージを最小限に抑える。


 ……心臓を狙ったのに、これも決まらないの? 強いなぁ。


 膠着状態。二人して僕を睨んでくる。

 ランサーは「はっ」と獰猛に笑うと、穂先で地面を突いた。


「……聞いてた話と違うな。ただの奴隷じゃないのかよ」

「その情報に間違いはないだろ。情報が足りてなかったことは確かだがな」

「近接スキルに魔法……まさか祖血(オリジン)か?」

「ないだろ。そんな奴が奴隷なわけないし、あったとしてもとっくの昔に買われてるさ。天職が判明した時点でな」

「そりゃそうだ。まぁいい、何だろうと割に合わない仕事なのは違いない。俺達はこの一回で終わりだ」


 そう言って再び二人は構えた。いや気になる会話過ぎて僕はそんな気になれないよ。


「聞いてた話? 仕事? 一体なんの——」


 その言葉はドタドタとした足音にかき消された。それも複数。

 その音は真っ直ぐこちらに向かってきていて……測ったように一斉に姿を現した。


「「「いたぞあのガキ——なんで全裸!?」」」


 ……なんではこっちの台詞だよ。


 凡そ三パーティー分。それらが互いに殺し合うわけでもなく全員が僕を狙っていた。

 中には奴隷ではなさそうな立派な装備に身を包んだ人もいる。地上か骸士かは分からないけどそういう人は本当に強いし、そうでなくともこの人数差で勝てる訳もない。


 ……ということは。


「よし! じゃあね!」


「「「——はぁぁぁああああああああ!?」」」


 僕は恐れと怒号が入り混じる中、ゴブリンの巣穴へと繋がる小さな横道を潜った。仕掛けが発動して即座に穴が埋まる。



 ……前に似たようなのに潜っておいて良かった。




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