第20話 さっそくきた
ダンジョン攻略——ゴブリン迷宮三層。
次階層で目的のトロールと戦える僕は、この階層を焦らずじっくり攻略することに決めた。金策も兼ねて小さなガラ袋も持ってきている。
……やっぱり攻略に専念するって言っても、宝箱をスルーするのは気持ち的に辛かったよ。
何のためにダンジョン潜ってるんだって話。いや僕は強くなることが一番大事だけどね。それでもほら、少しは持って帰りたい。
「—ゴギャアアアアア!」
「ほっ、と」
ホブゴブリンの戦鎚を横に避ける。地面が揺れるほどの衝撃。
彼は間髪入れずに右に左と戦鎚を振り回す。僕はその全てを後ろに下へと避けまくった。
ホブゴブリンは大人サイズの人間。ゴブリンよりも大きい分筋肉の動きや重心の位置が明確に分かりやすい。
つまり、もう慣れた。
「せいっ!」
「ゴギッ!?」
ルーンソードでホブゴブリンの指を斬りつける。骨にまで達したのは感覚で分かった。
前は突き刺したのに全然入らなかったことを考えると、この短期間で僕も成長しているのかもしれない。いや個体差かな?
探索者はモンスターを殺すごとに少しずつ強くなる。それもあるけれどやっぱり元々のフィジカルの影響は無いよりあった方が勿論良い。やはり筋肉が欲しい。
だから、
「——お前の戦利品で、僕はお腹いっぱいご飯を食べる!」
「ゴギャアアアアアアアアアアッ!?」
スラスト。
ホブゴブリンの目玉から脳を貫き、絶命させる。
そこで僕はもう一つスキルを発動させようとした。マナ板の記録映像で見た剣神の動き——スキルからスキルへの即時連携。
「《アイスニード——!?」
一瞬の虚脱。白く染まる視界。頭に鳴り響く鈍痛。
僕は身動ぎ一つできずに固まった。
……あ、駄目だこれ。
スキル発動後の硬直……それはスキル発動時に解放したマナをまた体に巡らせる為に必要な時間なのだと、僕は文字通り身を持って理解した。
意識を飛ばしそうなほどの衝撃に耐えていると、上から影が落ちてくる。ホブゴブリン……また下敷き。
僕は死体から地面を這って抜け出すと、尻餅を付いて首をひねった。
……これ無理じゃない?
スキルは必殺。必殺は全霊を持って行使するべき。というより強制的にそうなる。
マナが一時的に解放されるのであれば、そこから新しくスキルを発動しようとしても使えないのは当然。むしろ今回みたいに空から捻出しようとするのだから、意識を飛ばしたって不思議じゃないほどの暴挙だ。不可能と言ってもいい。
……でも剣神はできている。やっぱりスキル発動中に何かしてるのかな。
「とりあえず漁るか」
ホブゴブリンのビッグな腰に手を伸ばす。中から赤いボーションが出てきた。大当たり。
それでも僕の意識は頭の中に潜ったまま、何度も何度も剣神の動きを再生し続けている。けれど常時動きが早すぎて細かい所作までは思い出せない。口惜しい。
……もっと色々試してみよう。できることは全部やらないと。
正直、モノに出来ると思っている。それは体の中を暴れるマナが証明してくれていた。ただ研鑽が足りないだけ。
だからもっと頑張ればきっと——ああ。
めんどくさいなぁ。
僕は剣を逆手に持って背後に突き出した。
……グサッ、と、確かな手応え。
「結局襲ってくるんだ。気付かない振りしてたのに」
「——ッ!?」
ローグの潜伏。僕には見え見えのスキル。
彼は驚愕の表情を浮かべながら心臓に突き刺さった剣をゆっくりと見下ろして……息絶えた。その手から短剣が滑り落ちる。
……一人。ソロのローグか。
というかこの人見たことある。いつも一人でご飯食べてる孤高の人だ。奴隷服着てるし間違いない。
潜伏ができるローグはソロ向きだけど対人は駄目だよ。一人は不意打ちで殺せても基本三人パーティーなんだから残る二人にボコボコにされちゃう。だからソロの僕を狙ったのかもしれないけどヤられてちゃ世話ないよね。慣れないことをするからこうなる。
「それとも僕を狙ってたのかな?」
彼は僕がホブゴブリンと戦っている時にこっそり入ってきた。そしてそのままずっと潜伏を解かなかった事にも当然気付いている。
ホブゴブリンがいなくなった後の部屋漁り。それだけなら戦う必要はないと思ってたのに襲ってくるとは。僕がポーション手に入れたのを見て欲が出たのかもしれない。ちょっと分かる。
……でも潜伏に頼るローグには負ける気しないし、どうでもいいか。
彼が持っていたガラ袋の中身を全部僕のに移し替える。おお、結構持ってるな。流石漁りに特化した天職、大量だ。
今日はもうこの辺りで終わりにしてもいいかもしれない。思わぬ棚ぼたも出てきたし。
……これからはローグだけは積極的に殺しにいこうかな。今回も不意打ちされたし、あいつら基本的に信用ならないからいいよね。
そうして僕がほくほく顔でポータルを探しに出ると——矢が足元に飛んできた。
「——プ、無反応かよ。怖くて動けなかったかぁ?」
……三人組。昨日会った酒場の男達。
彼らが嘲笑いながら、僕を逃さないよう道を塞いでいた。




