試練の塔《Tower of Judgment》と魔神たち
光の門を抜けた先、そこはまるで――天へと突き刺す塔だった。
雲をも突き抜けるその高さ。眼下には、黒く歪んだ大地と、今しがた戦った黒のアリーナ。
塔の外壁は古代のルーンで覆われ、脈動する魔力を放っている。
「どうやら……次は“登れ”ということらしいな」
アーサーが塔を見上げる。塔の内部には螺旋状の階段、そして無数の扉が連なっていた。
その前に現れたのは、銀の仮面をつけた案内人。
「おめでとうございます、円卓の皆さま。次なる試練は“階層制”です。
各層には異なる試練、異なる敵、異なるルールが存在します。
目指すは最上階――第十三層、《審判の間》」
「……十三という数字、嫌な予感しかしないな」
ケイがぼやく。
「ルールって何だ。試練ってのは“戦えば勝てる”だけじゃねぇのか?」
モルドレッドが眉をひそめる。
「残念ながら――“戦う前に負ける”こともあります」
銀仮面の案内人が肩をすくめる。
「例えばこの第一階層、《裏切りの間》は、こうです」
彼が指を鳴らすと、塔の床が輝き始めた。
第一階層《裏切りの間》
部屋の中央に宝箱。
壁には一文が浮かぶ。
「この宝箱には“全員のスキルを倍化する”薬が入っている。
ただし――開けた者が“裏切り者”と認定され、他の全員から攻撃対象とされる。」
「…………は?」
全員が沈黙する。
「つまり、誰かが開ければ力は得られる。しかし裏切り者とされ、全員の敵になる。
開けなければ次の階層へは進めません。さて、どうされますか?」
銀仮面の案内人は楽しげに見守る。
だが――
「くだらん」
ランスロットが一歩進み、宝箱を――踏み潰した。
「おい待てッ!」
ケイが叫ぶが遅い。木箱が粉々に砕ける。
「俺たちは“仲間”だ。“裏切り”の選択肢など、最初から存在しない」
「まったく……そういうとこだけは騎士道一直線だな、あんた」
モルドレッドが苦笑する。
《試練突破条件:判定改変により突破》
《階層クリア。次層への扉が開きます》
銀仮面が少しだけ驚いた顔を見せた(ように見えた)。
「……素晴らしい。なるほど、あなたたちに“絆”があるのは本当のようですね」
扉が開かれる。次の階層へと向かう彼らを、銀仮面は見送った。
「だが“絆”ほど脆く、破壊しやすいものもありませんよ――円卓の諸君」
第二階層《模倣の間》
部屋の中央に六体の“騎士の幻影”が現れた。
どれも円卓の騎士たちを模した姿――ただし、**“最悪の未来の自分”**である。
「……これは、過去ではない。未来の可能性か」
アーサーの前に立ったのは、玉座に座る**“暴君王”アーサー**。
ベディヴィアの前には、戦場で死体を踏み越え笑う狂戦士ベディヴィア。
ランスロットの前には――
「……見たくなかったな、これは」
彼の幻影は、グィネヴィアを手にかけた“裏切りの騎士”。
そして胸元に深く突き立てられたアーサーの剣があった。
「これが“俺たち”なのか……?」
トリスタンが震える声でつぶやいた。
「違う。これは――“なりうる可能性”だ」
マーリンが杖を握り、言った。
「だが、選ばなければ未来は変えられる。ならば斬れ。“もう一人の自分”を」
戦闘開始。
戦いは熾烈だった。相手は“自分自身の動き”を完璧に再現する影。
手の内も、技の癖もすべて知っている。
「ガハッ……!」
ベディヴィアが斬られ、膝をつく。
だがその背に、ガレスの手が触れた瞬間――
《リンク:スキル・記憶・感覚共有》
「俺がやる……お前の“違う選択”を、俺が証明してみせる」
そして、兄弟たちは影を斬った。
一人では勝てなかった影も、“仲間”となら打ち破れる。
《試練突破:リンクによる未来選択の修正》
《階層クリア。次層への扉が開きます》
「……これが俺たちの、“選ばなかった未来”か」
ランスロットがぼそりと呟いた。
「ならば、誓いを新たにしよう」
アーサーが剣を掲げる。
「円卓の名にかけて。どれほど困難な試練でも、共に越えると」
仲間たちが、応えるように剣を掲げた。
「円卓万歳!」
「王と共に!」
「我らは一なる騎士!」
その声が、塔に響き渡った。
そして彼らは、**第三階層《死の書庫》**へと足を踏み入れる――