第一の試練 ―黒の闘技場と異形の王―
カウントダウン:《残り時間 07:59:00》
透明な空に浮かぶ光の文字が消失した直後、
城の大地が音もなく沈み込むように崩れた。
「ッ……全員、構えろ!」
アーサーの声と同時に、騎士たちは剣を抜いた。
だが落下ではなかった。これは転送――
次の瞬間、全員が黒曜石のような石床に立っていた。
巨大なアリーナ。天井はない。周囲は闇に包まれ、遠くには異形たちのざわめき。
観客席には、あの時見たオークやコボルト、ゴブリンたちが押し合いながら奇声を上げていた。
「……見世物にされているな」
ランスロットが、剣を握りしめる。
石床の中心に、赤黒い裂け目が現れる。
そこから現れたのは――
異形の王。
全身が岩と筋肉で覆われ、頭部には三つの角。
片腕には巨大な斧、もう片手は溶岩のような魔力で染まっている。
背にはコボルトらしき異形の死体を串刺しにした剣が何本も突き立っていた。
《試練開始》
頭上に再び文字が浮かぶと同時に、異形の王が吼えた。
「グォォォオォッ!!」
その声に連動して、地面が爆ぜる。
騎士たちの足元に“炎の罠陣”が広がった。
「散開!」
マーリンが指示を飛ばす。
全員が即座に移動――爆発が起こるよりも早く動いた。
「先制する!」
ガウェインが跳躍、剣に陽光を纏い王へと向かう――
だが。
「硬いッ……!」
太陽の力を以てしても、王の鎧はびくともしない。
「ならば、俺が斬る!」
ランスロットが後方から追撃、剣が火花を散らす。
しかし――王は剣すら受け止めずに、ただ拳を振るった。
「ッ……ぐ!」
ランスロットが初めての衝撃に吹き飛ばされる。
「モンスターではない……これは、“戦士”だ」
ガラハッドが冷静に言う。
「戦い慣れている。こちらの“型”を見切ってきている」
「どうやら……」
マーリンが苦笑しながら魔法陣を描き始めた。
「これが“試練”というなら、容赦は要らんだろう?」
――その瞬間。
全員の体が軽くなった。
《リンク・システム:共有起動》
《使用中:アーサー王の“統王因子”》
《リンク対象:全員にステータス強化+時間加速》
「これは……!」
ガレスが疾走する。
音もなく異形の王の背後に現れ、首筋を狙う――
「当たるかよッ!」
王が地を踏み鳴らし、衝撃波を放つ。
全員が軽く吹き飛ばされた。
「まだだ、まだ“速さ”が足りない!」
ラモラックが叫び、連撃の剣を抜いた。
一秒ごとに加速する連斬――王の斧と激突し、火花を撒き散らす!
だが、王は笑っていた。
異形の笑み。恐怖を喜ぶ、屍肉に飢えた者の目。
「ハァ……ハァ……まだ、やれるか……」
その時だった。
「じゃあ――行こうか、みんな」
パーシヴァルが、傷だらけの体を起こした。
「“一度死ぬ”準備は、もうできてる」
突撃。
斧が彼の体を貫いた。
瞬間――
聖なる光がパーシヴァルの身体を包み、全快・蘇生。
次の一撃は、王の肩を切り裂く必中・即死級のカウンターだった。
「決まった……!」
その一撃を皮切りに、再び連撃が走る。
ランスロットとラモラックが左右から斬り込み、
ガウェインの光が敵の視界を奪い、
トリスタンの音が王の感覚を乱す。
そして。
「リンクスキル:魔力共有、起動」
マーリンが叫び、全員の魔力を一点に集中。
「燃え尽きろ、獣の王よ――」
《大魔術:白炎球〈グラン・フランマ〉》発動!
爆音と共に、王の巨体が爆裂する。
灰が、空へと舞った。
──試練、終了。
頭上に再び文字が浮かぶ。
《試練一:合格》
《次の領域への通路が開かれます》
そして、黒のアリーナの中心に“光の門”が現れた。
アーサーは剣を収め、騎士たちを見渡す。
「……初戦にしては、上々だ」
モルドレッドが肩をすくめた。
「この調子でいけば、世界を滅ぼせるな」
「滅ぼしはせぬ。治めるのだ――円卓の名にて」
そして騎士たちは、光の門を抜けていく。
次なる舞台――**“試練の塔”**へと向かって。