神託の誤配《ミス・デリバリー》
空の数字が刻む無音の脅迫――
《残り 11:58:21》
時間が半分を過ぎた頃、円卓の騎士たちは手をこまねいてはいなかった。
城壁上・監視塔付近
「射てッ!」
ガウェインの号令で、弓兵が矢を放った。
火矢が赤い弧を描き、城の外で整列する異形どもへ向かって飛ぶ。
だが――
カン。
乾いた金属音と共に、矢は宙で弾かれ、地に落ちた。
「……今の音、聞こえたか?」
「風ではない……何か、見えない壁がある」
ラモラックが矢じりを拾い、冷たく光る空間を見上げる。
「ここだ」
パーシヴァルが剣を抜き、壁に見える空間を斬りつけた。
次の瞬間――
バキン。
剣が、刃元から真っ二つに折れた。
「……通らん。まるで“神域”だ。物理も魔法も通じない」
マーリンも幾つかの魔術を試すが、全てが撥ね返される。
城の周囲には、完璧な“封印結界”が張られていた。
「まるで我らを試すための……檻か」
ガラハッドが呟いた。
同時刻・カメロット城中央広場
そして、それは突然だった。
ズドォンッ!!!
雷鳴のような音と共に、空が割れる。
巨大な魔方陣が天空に再び浮かび、そこから一筋の光――否、“人型の光”が落下してきた。
地面に衝突する寸前で、ふわりと止まったそれは、浮遊しながら姿を顕す。
白銀の髪。
虹の衣。
奇妙に砕けた言葉遣い。
「……どもー! 女神です、はい! ごめんねー! ほんっと! 手違いで転移させちゃって、いやーまいっちゃった~」
騎士たちは一瞬沈黙した。
「……誰だ」
ケイが剣に手をかける。
「女神ですってば~。あ、自己紹介してなかった! 私は、管理女神《クラリス=ユグド=セブン》! この異世界転移システムの運営をやってまーす!」
「……運営……?」
「うん、でね、ホントは別のパーティーがこの世界に来る予定だったんだけど、ちょっと間違って転移先に“あなたたちの城”を指定しちゃって! いや~アハハ☆」
その軽薄な笑みに、ランスロットが低く呻いた。
「……我らは、誤って巻き込まれた、というのか?」
「そーそー! でもね、ただ巻き込まれて終わりじゃないよ!」
女神が手をパンと叩くと、頭上に眩い光球が現れる。
「お詫びとして、特別に“お得意様パック”をご提供しま~す!」
「……“お得意様パック”?」
「そ! この世界で生き残るための、テンプレートに基づくスキル群をぎゅぎゅっと詰め込んだ、便利な特典パック!」
光球が割れ、中から浮かび上がるスキル名たち。
■お得意様パック 内容
【全員共有】《リンク・シェアシステム》
└ 仲間の経験値・スキル・レベル・魔法・体力・魔力を自動シェア
【各個人にランダム】《チートスキル》
└ 一人一つ、運命に沿った特殊スキルを授与
【特別機能】《スキル・バンク》
└ 集めたスキルを“ストック・共有”できるライブラリ機能
「全員が互いの力を“シェア”するって、すごくね? フル活用できるよ!」
「……ふざけるな」
モルドレッドが唸る。「我らは貴様の玩具ではない」
「えー? じゃあ使わなければいいじゃん? でもこのままだと、次のイベント開始までに“戦闘適応”しないと、死ぬよ? えへっ☆」
彼女が手を振ると、空に再び表示が浮かぶ。
《残り時間 09:59:59》
「じゃ、説明はこんな感じで~! あ、チートの詳細は後で通知するから! がんばってねー!」
ドン、と音を立てて、女神は空へと消えた。
残された騎士たちは、魔法の光に包まれたまま、言葉もなく立ち尽くした。
「……異世界。神の試練。スキル……」
マーリンは呻きながら、空を睨んだ。
「……我らは今、神話に組み込まれたのだ」
アーサー王は目を閉じ、呟く。
「ならば我らの誓いは――この世界でも、守らねばなるまい」
城の空に、カウントは進み続けていた。