異界開幕《オープニング・デイ》
大地が裏返るような轟音と共に、カメロット城は光に包まれた。
時間も空間もねじ曲がる異常の中、王国の象徴たる白亜の城は――目を開けた時には、まったく知らぬ風景に囲まれていた。
だが、それは始まりにすぎなかった。
「……あれを見よ」
城の最上層に集まった騎士たちと王は、誰からともなく空を仰いだ。
空には、巨大な魔法陣と共に“浮かぶ数字”があった。
それは炎の文字で描かれた不吉なカウントダウン――
《残り 23:58:02》
刻一刻と減っていくその数字は、拒絶も抗議も許さぬ神意のように空に君臨していた。
「……カウントダウン、だと?」
「これは……“試練の開始時間”か?」とマーリンが呻く。
「何が起こるというのだ……?」とベディヴィア。
その時、城壁を走っていた斥候が戻ってきた。
「報告ッ! 周囲を囲む無数の異形ども……ゴブリン、オーク、コボルト、およそ千を超える戦力!」
「囲まれているのか?」
「いえ、……整列しています」
「何?」
斥候の言葉に騎士たちの表情が凍る。
「彼らは、あたかも――“観戦者”のように城を囲み、ただ黙ってこちらを見上げているのです!」
アーサーはその場で剣を抜き、重々しく声を上げた。
「全軍、集結せよ! 円卓の騎士は即時、広間に参集。緊急評議を開く!」
城内・大広間《円卓会議》
玉座の間に、騎士たちが集う。
ランスロット、ガウェイン、ガラハッド、パーシヴァル、ボールス、トリスタン、ガレス、ガヘリス、ラモラック、ケイ、ベディヴィア、そしてモルドレッド。
円卓は静かに彼らを受け入れた。
「我らは……異界に転移しただけでなく、“誰かの舞台”に立たされたようだ」とアーサー王。
「その空の文字……誰かの“意志”を感じる」
マーリンが手をかざし、カウントダウンを分析するが、その魔力は不明瞭。人智の及ばぬ設計であり、“始まりの神”すら連想させる。
「周囲の異形種は敵ではない。少なくとも今は。だが――観客である可能性が高い。これは“儀式”だ」
「ならば……見せ物、というわけか?」とランスロットが低く言う。
「我ら円卓の騎士が、どう立ち向かうか――その“結果”が目的だとすれば、これは試練ではない。裁きだ」
「裁かれるのは……我らの歴史か、罪か」
パーシヴァルの呟きが、広間を揺らす。
ガラハッドが剣の柄に手を置き、静かに宣言する。
「やるべきことは、ひとつです。この状況を打破し、敵を知り、この世界の法を見極める。それが、生き延びる鍵になる」
「よく言った、息子よ」とランスロットが微笑むが、その目はすでに戦場を見ていた。
マーリンが立ち上がる。
「私は“天の魔法陣”の調査を行う。誰か1名、護衛を」
「なら私が」とボールス。
アーサーは頷き、命じた。
「偵察部隊を編成せよ。ガウェイン・ガレス・ラモラック、三名で城外の偵察を。武力衝突は避けよ」
「了解」
「トリスタンとケイ、城壁の防衛と全戦力の配置を見直せ。ガラハッドとパーシヴァルは城内の異常を探れ」
「……そして、モルドレッド」
名を呼ばれた男は顔を上げる。
「お前は、私と共にこの“舞台”を見届ける」
「……なるほど。観客のひとりとして、な」
モルドレッドが薄く笑った。
その瞬間、空の数字が一つ減った――《残り 23:00:00》
何かが、確実に迫っている。
それは単なる戦ではなく、“審判”だった。
そして、円卓の騎士たちの誓いが、再び試されようとしていた。