捧げられし者と、円卓の決断
第五階層の崩れた大地に現れた第六階層への扉は、無機質な石の門――だがその中央に、禍々しく脈打つ“赤い刻印”が浮かび上がっていた。
「捧げよ。ひとり、ここに永劫を」
塔の声は確かにそう告げた。
この扉は、誰かが残ることでしか開かない。
「……誰かを、置いていけと?」
ボールスが顔をしかめる。
「そんな理不尽、認められるか!」
ガレスが剣の柄を強く握りしめた。
しかし――
マーリンが静かに言葉を挟んだ。
「これは、“塔の契約”だ。抗えば、全員が閉じ込められる。
どうやら次の階層は、魂の代償を必要とする……」
その瞬間、静かに前へと歩み出た者がいた。
「ならば、私が行こう」
そう口にしたのは――ケイだった。
「……兄上」
アーサーが思わず呼びかけた。
ケイは、アーサーの義兄であり、円卓創設以前から共に剣を学び、共に血を流してきた古き騎士。
決して最強ではない。
だが、誰よりも誇り高く、誰よりも仲間を想う男だった。
「私の戦いは、もう十分果たした。若い騎士たちよ、お前たちにこそ未来がある。
アーサー、お前は王として歩め。誇りを忘れるな。……そして、すまない。ガヘリスを守れなかった」
ケイの足元に赤い紋様が広がり、まるで塔が満足したように震えた。
「ケイ殿……」
ランスロットが低く呟いた。
「馬鹿な……」
モルドレッドが声を失う。
それでも、ケイは振り返らなかった。
最後にただ、振り向かずに言った。
「円卓に栄光あれ。──扉を開け」
彼が完全に紋様の中へと沈んだ瞬間、
石の門が重々しく開いた。
黄金の光が漏れ、その向こうには広がる第六階層――
「幻想宮:ミラージュ・カテドラル」
現実と幻想が交差する、精神と記憶の階層。
だが、誰も口を開かなかった。
その沈黙が、失われたものの重さを物語っていた。
エピローグ:喪失と前進
その夜、騎士たちは火を囲み、ケイの記憶を語り合った。
「彼は最初から……こうなることを覚悟していたのかもしれないな」
パーシヴァルが呟く。
「馬鹿な兄貴だった。けど……最高の騎士だった」
アーサーが拳を強く握る。
誰も泣かなかった。
だが、誰もが胸の奥に静かに涙を落としていた。
「我らは、必ず塔の最上階まで辿り着く。
そして、すべてを終わらせよう。
それが、ケイの――円卓の意思だ」
アーサーの言葉に、全員が剣を掲げた。
「円卓に、栄光あれ!」