表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/19

捧げられし者と、円卓の決断

 第五階層の崩れた大地に現れた第六階層への扉は、無機質な石の門――だがその中央に、禍々しく脈打つ“赤い刻印”が浮かび上がっていた。


「捧げよ。ひとり、ここに永劫を」

 塔の声は確かにそう告げた。

 この扉は、誰かが残ることでしか開かない。


「……誰かを、置いていけと?」

 ボールスが顔をしかめる。


「そんな理不尽、認められるか!」

 ガレスが剣の柄を強く握りしめた。


 しかし――

 マーリンが静かに言葉を挟んだ。


「これは、“塔の契約”だ。抗えば、全員が閉じ込められる。

 どうやら次の階層は、魂の代償を必要とする……」


 その瞬間、静かに前へと歩み出た者がいた。


「ならば、私が行こう」

 そう口にしたのは――ケイだった。


「……兄上」

 アーサーが思わず呼びかけた。


 ケイは、アーサーの義兄であり、円卓創設以前から共に剣を学び、共に血を流してきた古き騎士。

 決して最強ではない。

 だが、誰よりも誇り高く、誰よりも仲間を想う男だった。


「私の戦いは、もう十分果たした。若い騎士たちよ、お前たちにこそ未来がある。

 アーサー、お前は王として歩め。誇りを忘れるな。……そして、すまない。ガヘリスを守れなかった」


 ケイの足元に赤い紋様が広がり、まるで塔が満足したように震えた。


「ケイ殿……」

 ランスロットが低く呟いた。


「馬鹿な……」

 モルドレッドが声を失う。


 それでも、ケイは振り返らなかった。


 最後にただ、振り向かずに言った。


「円卓に栄光あれ。──扉を開け」


 彼が完全に紋様の中へと沈んだ瞬間、

 石の門が重々しく開いた。


 黄金の光が漏れ、その向こうには広がる第六階層――


「幻想宮:ミラージュ・カテドラル」

 現実と幻想が交差する、精神と記憶の階層。


 だが、誰も口を開かなかった。

 その沈黙が、失われたものの重さを物語っていた。


 エピローグ:喪失と前進

 その夜、騎士たちは火を囲み、ケイの記憶を語り合った。


「彼は最初から……こうなることを覚悟していたのかもしれないな」

 パーシヴァルが呟く。


「馬鹿な兄貴だった。けど……最高の騎士だった」

 アーサーが拳を強く握る。


 誰も泣かなかった。

 だが、誰もが胸の奥に静かに涙を落としていた。


「我らは、必ず塔の最上階まで辿り着く。

 そして、すべてを終わらせよう。

 それが、ケイの――円卓の意思だ」


 アーサーの言葉に、全員が剣を掲げた。


「円卓に、栄光あれ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ