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ハム友とのお食事会 その2

テーブルにずらりと並ぶ料理。

別に珍しいものがある訳ではない。

だが、この家で料理がここまでテーブルに並べられたのは初めてかもしれない。

「ありがとう。すごいな。ここまでいろいろな料理がテーブルに並ぶのは、一人暮らしになって初めてかも。しかし、こんなに食べきれるかなぁ……」

もちろん、頑張って食べる気ではあるが、思わず出た言葉に片山さんはクスクスと笑った。

「余ったらタッパーに入れておきますから、また明日以降食べてくださいね」

「でもうち、タッパーあまりないんですが……」

まぁ、一人暮らしで料理をあまりしない。

その上、作ったとしてもあまりおいしいとは思わない料理なので、なるべく残らないような程度の量しか作らずにタッパーを使う機会はほとんどないのだ。

その為、タッパーの必要性を感じず、残ったとしてもさらにサランラップして冷蔵庫というパターンである。

作り置きなんて絶対にありえない。

だから、タッパーは小さいのがいくつかしかないのである。

そんな言葉に、片山さんは実に嬉しそうに笑った。

やったーというか、予想が当たったという感じで。

「じゃーーんっ。もしかしたらという事で、タッパー幾つか買ってきましたっ」

材料を入れていた袋から、大きめのタッパーを三つ取り出す。

「あ、すみませんっ」

思わず頭を下げる。

「いえいえ。大丈夫です」

そして、ぼそっと言葉を続ける。

多分、呟き程度だろう。

本人は聞こえていないと思っているはずだ。

「せっかく気合入れて作ったから全部食べて欲しいし……」

いかん。すごくかわいい。

だが、ここは聞こえていないような素振りにしておくことにする。

彼女だって聞こえていないと思って思わず出たんだろうし……。

でも自然と笑みが漏れる。

「あっ。もしかしたら好きな料理があったんですか? それならうれしいんですが」

どうやら僕の笑みを誤解したのか、恥ずかしそうにそういってうれしそうに笑う片山さん。

いや、料理もうれしいけど、そんな事を思ってくれている片山さんの普段とは違う雰囲気にドキドキさせられてしまったんですよ。

だが、下手な事を言ってこの雰囲気を壊したくない。

だから、別の事を口にした。

「あ、うん。どれも美味しそうだしね」

「そうなんですか。うれしいなぁ」

心底嬉しそうな顔。

ああ、いいなぁ……。

おっといかん。料理が冷めてしまう。

「じゃあいただきましょうか」

「はいっ」

向かい合わせに片山さんと二人でテーブルを囲む。

普段は使わない向かい側の席に誰かがいる。

そしてテーブルにはいろんな料理。

いいな。

なんか温かい感じがして……。

ふとそう思う。

両親が亡くなって友人はよく遊びに来てくれるけど、料理を作ってもらって二人で食事なんて初めてだと思う。

仲のいい友人は男ばかりで料理がうまいやつなんて皆無だったから、食べるならどうしても買ってきたやつか店屋物が多かったし、こういう事をやってくれる友人なんていなかったからなぁ。

もちろん、女友達なんてほとんどいない。

あ、仕事先の人がいるけど、あれって友人というより仕事仲間って感じだしなぁ……。

やっぱ、友人と仕事仲間は違うんだよなぁ。

あ、そう言えばINUUはメスだから、女友達になるのか?

いや、アレは家族という感じだからなぁ。

そんな事を思いつつ、手を合わせて「いただきます」と言って食べ始める。

片山さんも同じように手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。

うん。やっぱり、食事の前のイタダキマスは大事だよな。

食べ物を作ってくれた人、運んでくれた人、料理してくれた人、この料理に関わった人すべてとその食べ物となった植物や動物に感謝しないといけない。

だからこそ、「命をいただく」という意味を込めて、この言葉は大切なんだと思う。

ビーガンが動物を食べたら可哀そうとかいう連中がいるが、命を喰らっている事にはかわりない。

それにそれを他人に強要するというのは、傲慢な思想でしかないと思ってしまう。

おっと、思考がズレた。

今はともかく料理を楽しもう。

まずは味見というわけではないが、少しずつ皿にもって食べていく。

うまいな、コレ。

おうおう、濃い目の味付けだけど素材の味がわかっていいぞ。

おーっ、ご飯が進むな、コレ。

しっかり味わいつつ食事を楽しむ。

全体的に、市販の料理というより、家庭料理という味付けだがそれがいい。

なんか安心できる味付けという感じだ。

もっとも、うちの母の味付けよりも少し甘めで濃い感じだが、それは家庭ごとの味付けという感じで、それはそれで別の味で美味しいし、結構好みなので問題ない。

「すごく美味しいですよ」

そう言いつつ、食べつつ料理ごとに感想を述べていく。

いや、行儀悪いかもしれないけど、言いたくなるのだ。

その度に、片山さんはクスクスと笑って嬉しそうだ。

「よかった。口にあって」

そう言った後、苦笑を浮かべて片山さんは言葉を続ける。

「実はね、うちの味付け、少し濃い目で甘い感じなのでどうかなと思っていたんですよ。だってこの辺りって薄味が多いみたいだし」

多分、知り合いとかの手料理とか食べた時に感じたのだろう。

確かに、この辺りはどちらかというとあっさりとした味か好まれる傾向だ。

やっぱり地域地域ごとに味付けの特徴はあるし、同じ料理でも、地域によっては塩味だったり、醤油味だったり、味噌味だったりという違いがあったりもするしなぁ。

「確かに、この辺りはあっさり味が多いですね。でも、僕的には、この味好みですよ」

ついついそう言ってしまう。

片山さんは、その言葉に目を丸くした後、頬を少し染めて嬉しそうに笑った。

「ふふふっ。うれしいです」

こうして、片山さんとの夕食は楽しい時間になったのであった。

なお、食事中、多分片山さんがいる為だろうか。

INUUが普段ならこの時間帯はしない構って吠えをしていたが、ごめんよ、こっちを優先させてくれ、すまぬと心の中で侘びでスルーしたのであった。

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