ハム友とのお食事会 その1
今、片山さんが台所で料理をしてくれている。
なんかご機嫌で、多分本人は気が付いていないだろうが、鼻歌なんか歌ってたりする。
その後姿を、僕はテーブルの椅子に座ってのんびりと眺めていた。
なんかいいな。
そう思いつつ。
ただ、この状況になるまでは、一波乱あった。
実は、家の中に入ってもらって、台所に案内した時にトラブルがあった。
片山さんを案内した際、台所のあまりにも度を超えた充実ぶりに驚いたのである。
なんせ、本格的料理の為の本場の多数の調味料や道具がずらりと並んでいたのだ。
「え?!」
思わずといった感じで言葉が漏れ、片山さんがこっちを向いた。
その表情に浮かぶのは、まさかという感情だ。
それを見て、悟った。
あ、勘違いしているなと。
実は、似たようなことが一度会ったのである。
よく遊びに来る友人(INUUにレインコートを作ってたりしてくれたあいつである)が、初めてこの台所を見て似たような反応をしたのだ。
「お、お前、本当はバリバリ料理できるんじゃねぇ?!」
思わずといった感じでそう言われたのである。
いや、わかるよ。
だってさ、テレビで一時期流行った料理の●人みたいな充実ぶりだからな。
それに無駄に冷蔵庫は二台あるし……。
なお、友人はその後に「見かけによらず」と付け加えたので、頭のてっぺんにチョップを喰らわしてやったが。
いや、確かにブラック企業辞めて、在宅メインの今の仕事を開始した際に、ブラック企業勤めの時に作った会社辞めたらやりたいとこの一つである料理にチャレンジする際にあまりにもやりすぎなのは認める。
だが、当時は、やっと辞めれてタガが外れまくっていたので仕方なかったんだよ。
ほら、日本人って形から入るじゃないか。
まぁ、今だったら度をこえ過ぎていたとは思うが、だってさ、その時は自分も料理ぐらいはマスターできると思っていたからさ。
もっとも、その甘い未来は呆気なく吹っ飛びましたが。
なお、名誉の為に言っておくと、簡単な料理ならできるのである。
よく漫画やドラマ、小説みたいな、ゲテモノが出来たという事はない。
味が濃すぎたり、薄すぎたりはちょくちょくあるが……。
で、その時点でもっと頑張れが違ったのかもしれないが、他にやりたいこともあったので、結局そこから進化できずそのままであった。
要は、食えないわけではないが、うまくもないという料理なのである。
そして、形として準備した多彩な調味料と道具が残ったのであった。
ああ、強者ども(?)が夢の後といったところか。
ともかく、今、間違いなく片山さんはその時の友人と同じ思考なのは間違いない。
だから苦笑して、そのことを話す。
だが、信じられないという感じでこっちを見ている片山さん。
「本当ですか?」
その言葉に、苦笑して調味料のいくつかを取り出して見せる。
それらは封がされており、未開封であった。
実は、定番の調味料以外は、ほぼ未開封なのである。
それを見た後、片山さんも苦笑し、そして慌てて頭を下げた。
「疑ってごめんなさい」
料理が得意という事を言っていた以上、もしうまくないと思われたら嫌だなとか考えたんだろう。
わかるよ。
実は相手の方が得意だった時の虚しさと敗北感は……。
それも結構得意とか相手に言って後だと特にね。
大丈夫。
僕の料理スキルは、雑魚クラスなんで。
だから、気にしてないという事を伝える為、口を開く。
「いえいえ、気にしてないよ。道具も調味料も好きに使っていいからね」
そう言うと、片山さんはうれしそうな顔になった。
「いいんですか?」
「ああ。だって、僕じゃ使わないでそのまま捨てそうだし。使ってくれた方が嬉しいよ」
「はいっ。頑張りますね」
そう返事をすると調味料と道具のチェックをした後に料理を開始して、現在に至るのである。
そして、次々と料理が出来上がっていく。
料理はそこそこ得意と言うだけあって、実に手際がいい。
動きに無駄がないのだ。
まるで初めからそう動くと計算しているかのようだ。
いや、実際、色々考えているのかもしれない。
その動きは、実に奇麗で見とれてしまうほどに。
そして、次々と料理が完成してテーブルに並んでいく。
もちろん、珍しい料理とかはない。
あくまでもよくある料理だ。
だが、それがいい。
それに実に美味しそうだ。
久方忘れていた家庭料理と言うものである。
ああ、いいなぁ……。
ブラック企業に勤め始めてからこういう料理はあまり食べていなかったからな。
もちろん、外食で食べる機会はあった。
だが、それは家庭料理っぽい別のものだ。
そう感じしまう。
そしてすべての料理が終わった後、軽く洗い物をして、片山さんがこっちを見て微笑む。
「ふふふっ。いつも一人なので久しぶりに張り切っちゃいました」
片山さんはそういうと笑いつつ可愛くてへぺろって感じで舌を出す。
その笑顔はとても魅力的で、料理以上に僕の心を揺さぶったのであった。