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ハム友との待ち合わせ

約束の日である。

そう、片山さんが前回のお礼に家に来て手料理をご馳走してくれるという約束をした日である。

もちろん、片付けたさ。

部屋も、家の周りも。

もちろん、INUUがいる車庫も。

うちは、車庫の一角がINUUの所有地である。

こそっと近づくと何かってに来てんねんといった感じで睨みつけられる。

いや、本当は違うと思うが、そんな感じみられた後、領土に入ったという事で、ハムハムを希望される。

そう通行料みたいなものなのである。

だから普段は散歩の時以外は遊んであげる以外は近づかない。

なんせ、近くにいるとINUUの「構ってちゃんスキル」が発動するためである。

だが、今日は違っていた。

散歩の帰りに合流するという約束だったから、ざっといつもの散歩時間から逆算していく。

もちろん、何度もだ。

うん。

やっぱり14時ごろ出れば問題ない。

でもさ、落ち着かないんだよね。

何度も時計を見るが、どういう訳か時間が進んでいない気がする。

そう、こういう時に限って、時間の進みがとてつもなく遅く感じてしまうのである。

不思議だよなぁ……。

で、遂に家にいるのも我慢できなくなって車庫の方に向かう。

普段は来ない時間帯に来たという事もあるのだろう。

構ってくれるのかと思ってわふわふ言って尻尾を振りまくって歓迎の意を示すINUU。

しかし、こっちにそんな気持ちは微塵もない。

車庫の前をうろうろして、少し歩いてはスマホで時間をチェックするのを繰り返していた。

流石にそんな僕に呆れたのか、或いは構ってくれないと判ったのか、INUUはつまりなさそうに寝転がってこっちを見ているモードに切り替えた。

その目には可哀そうなものを見るような感じがあった。

多分、こいつおかしいぞ、大丈夫か?とか思っていたのだろう。

自分がINUUの立場なら多分そう思っただろうが、その時の僕はそこまで頭が回っていない。

そんな事を繰り返し、やっと時間になる。

ふーと何回か深呼吸をして車庫のなかにある散歩用のリードに手を伸ばす。

すると今まで寝そべって見ていただけのINUUが立ち上がって尻尾を振り始める。

そして、さっさとつれて行けとばかりにじーっとこっちを見て身体を摺り寄せてきた。

その態度は、さっきのは何だったんだという非難じみたものに見えた。

いや、もしかしたら違うのかもしれないが、その時の自分にはそう見えた。

だから思わず謝ってしまう。

「ごめんな……」

思わず頭を撫でてやろうと手を下ろすと、パクと手を咥えてハムハムし始める。

要は、これで許してやろうという事らしい。

仕方ない。

そう思いつつ暫くハムハムに手を任せる。

そして満足したのだろう。

口から手を出すとわふっと吠えた。

さっさとつれて行けと言う事らしい。

まぁ、僕もその方がありがたいので頷くと散歩に出発した。

いつものコースを回っていく。

だが、その間も心ここにあらずという感じの僕の様子がわかるのだろう。

時折吠えては、引っ張っていこうとする。

要は、私との散歩はそんなにつまらねぇかって言われていると思っていい。

いや、わかるよ、

そんな態度とりたいのも。

でもね、でもね、こっちの気持ちもわかってくれ。

だってさ、片山さんが手料理作ってくれるんだぞ。

それもうちで……。

わかってくれよ。

そんな事を思いつつ、INUUをなだめつつ折り返し地点まで着くといつもの後半戦に入る。

ドキドキが止まらない。

だってさ、もし誰もいなかったらって思うとさ、落ち着かないんだよ。

INUUがわふわふ言って気を引こうとしている。

でもさ、そんな事より、僕は先を見ていた。

まだ、いつものベンチは見えない。

益々ドキドキが激しくなる。

そして、遂にベンチが見える場所に入った。

いつものベンチが見えてほっとする。

別にベンチが見えたからではない。

そう、ベンチの所には、なにやらビニール袋を持った片山さんの姿が見えたのだ。

よしっ。よしーーーーーーっ。

思わずガッツポーズを取りたい心境になった。

いや待て、こっちから見れるという事は、相手からも見えるという事で……。

落ち着け、落ち着け。

深呼吸を数回して気を落ち着かせる。

そして何気ない風を装ってベンチの方に歩き出す。

INUUは片山さんがいるのがわかったのか、ちらりとこっちを見てわふっと吠えた。

それは、なんだそう言う事かと言いだけだ。

そんなINUUに思わず言う。

「べ、別に疚しいことは思ってないからな」

そんな僕の言葉に、INUUはどうでもいいと言わんばかりに先行して進んでいく。

それは、まるで言い訳は必要ないという風に見えたのだった。

向こうもこっちに気が付いたのだろう。

片山さんがこっちを向くと微笑んで手を振っている。

気が付くと僕は駆け出していた。

もちろん、INUUも。

そして、彼女の側までたどり着く。

「はあはあ、お待たせしちゃいましたか?」

「いいえ。さっき来たばかりです」

片山さんはそう言って手をINUUに差し出した。

待ってましたとばかりにINUUは片山さんの手をさっさとハムハムし出す。

そんなINUUを微笑みつつ見たあと、片山さんはこっちを見た。

少し頬が紅い。

「えっと、今日はよろしくお願いします」

「い、いえ。こっちこそ……」

そのまま二人して見つめ合ったまま固まっていたが、ハムハムおわったINUUが吠える。

わふっ。

それがきっかけで呪縛が解けたようだった。

「あ、す、すみませんっ。案内しますね」

「い、いえ。こっちこそ……」

慌てて動き出す片山さんと僕を見て、INUUはつまらなさそうにまた吠えた。

それはまるで、おい、大丈夫?と言われているかのように心配そうな吠え方だった。

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