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ハム友からのお誘い

INUUの導きでコンビニからの帰り道でインフルで精も根も尽き果て力尽きて座り込んでいる片山さんを発見し、背負って彼女のアパートに送ってから5日が過ぎた。

あの時、結構買いこんでいたから、食糧は大丈夫だろうけど結構きつそうだったからなぁ。

アパートによって様子見た方がよかったかな。

でもなぁ。

散歩の途中で会って話をする程度の仲だもんな。

ズケズケといっていいものだろうか。

それに一人暮らしらしいので、そんなところに男が出入りしたりすると変な噂になってしまうかもしれない。

そんな事を思いつつ、よく考えたら彼女のことはまだよく知らない事に気が付いた。

大体、女性の一人暮らしだろうと思ったのだって、インフルの真っ最中に食べ物会に出ていたという事からの推測だしなぁ。

結局、彼女と自分の関係って何なんだろうか。

確かに散歩の途中で会って話はする。

あと、INUUのハム友でもある。

だが、それだけだ。

なんて思っていたらIMUUがわふわふ吠え始めた。

要はこっちに集中しないかという事らしい。

どうもINUUは、種族は違えど別の女のことを思っていることがあまり許せないらしい。

ふむ。

でもさ、君も彼女のことは気に入っているよね。

言葉が喋れたら「ハムハムの味がね」と言うかもしれないけど、それでも気に入っているのは間違いないわけで。

そんなことをINUUを見つつ思う。

あれから四日。

そろそろ治ってもいい頃合いだと思う。

でも、結構きつそうだったから、まだこっちに出てくるまでは厳しいかもしれないな。

そんな事を思いつつ、いつもの散歩コースを回る。

時々、彼女事を考えているのがわかるらしく、INUUがわふわふ吠えてくる。

くっ。女の勘は鋭いな。

種族は違えど。

そんな事を考えていた帰り道。

いつもの癖でベンチの方に視線を向ける。

するとそこにはマスクをした片山さんがいた。

いつのようにベンチに座ってはいるが本を読んでいるわけではない。

ちらちらと周りを見ている。

そして彼女もこっちに気が付いたのだろう。

嬉しそうにこっちに向かって手を振っている。

「あー、こんにちわっ。いつもこの時間帯だから会えるかなって思って来ちゃいましたっ」

元気そうにそう言って笑っている。

その姿に、気が付けば駆け足で彼女の側に行く。

もちろん、INUUもだ。

尻尾を振り、一直線である。

その視線には、彼女の手があった。

おいっ。そこかっ。

思わずそう思ったが、まぁいいかと思う。

嬉しいのは自分もなのだから。

「もう大丈夫なんですか?」

近くに行くとそう聞く。

その言葉に、彼女は笑って言った。

「ご心配をかけました。もう大丈夫です。明日から仕事の方にも行く予定ですし」

「そうなんですか。よかった」

「ふふっ。ありがとうございます。お陰様で元気元気です」

そう言うとガッツポーズをして見せる彼女。

その様子からも元気そうなのがわかる。

「よかっだですよ。あの後、様子見に言った方がいいのか迷ってしまって……」

ついそんな余計な事を言ってしまう。

しまった。口が滑った。

そう思ったがもう遅かった。

ヘンな風に思われたらどうしょう……。

そんな事を思ってしまったが、彼女はそうは取らなかったらしい。

「あら、見舞いに来てくれてもよかったのに」

彼女はそう言って楽しげに笑う。

「いや、女性の一人暮らしの所に男が通うというのはご迷惑になるかもしれないと思ったので……」

その言葉に、彼女はクスクスと笑った。

「そうなんですか?ふふっ。大丈夫ですよ。今の所、あなたか来ても腹を立てるような男性はいませんから」

そう言って悪戯っぽく笑った。

「あ、そうなんですか……」

思わず困ったような表情で苦笑すると、それが面白かったのだろう。

彼女は益々楽しげに笑った。

「ふふっ。次は見舞いに来てくださいね」

「あ、はいっ」

そんなやり取りをしているとINUUがわふっと吠える。

ハムハムさせろという事らしい。

彼女は益々楽し気に笑ってINUUの頭を撫でた後、右手をINUUの前に差し出す。

くんくんと匂った後、いつもの限定品だと安心したのだろう。

ハムハムし出す。

目を細め、夢中でハムハムしている。

その表情は実に幸せそうだ。

本当に、彼女の手の味が好きなんだなと思わせるのに十分なものであった。

彼女も限定の味を楽しむINUUの幸せそうな様子を見て微笑んでいる。

そして、INUUを見つつ口を開く。

「本当に、あの時は助かりました。ありがとうございます」

そう言った後、視線をこっちに向けて言葉を続けた。

「それで、お礼をしたいと思うんですよ」

その言葉に、慌てて言う。

「いや、お礼なんてとんでもない。僕はただ手助けしたかっただけなんですから」

その言葉に、彼女は微笑んだ。

「でも、すごくうれしかったんです」

しみじみとそう言う彼女の言葉は感謝の気持ちに溢れていた。

そして、少し考えた後、上目遣いでこっちを見て言う。

「えっと、一人暮らしなんですよね?」

いきなりの言葉に驚き、「ええ。まぁ……」と返事を返す。

その返事に満足そうな表情をした後、彼女は言う。

「私、料理には自信あるんです。だから、ご飯を作りに行ってもいいですか?」

その予想外の言葉に思考が止まる。

「え?!それって……」

その言葉に、彼女は少し悲しそうな顔になる。

「ご迷惑ですか?」

その問いに反射的に答える。

「いえ、迷惑だなんてとんでもないっ」

そう言ってしまって慌てている様子を見て、彼女は安心したような表情を浮かべるとくすくすと笑った。

「なら、明日の夕食なんてどうでしょう?」

「あ、はいっ。問題ないですっ」

「では、明日の三時に散歩の時に合流しましようか」

「はい。それでいいです」

「えっと嫌いな食べ物とか食材とかありますか?」

「えっと、そうですね。レバーが駄目です」

「そっか。なら他には……」

こんな感じで彼女主導で話がどんどん進んでいく。

そして、INUUがハムハムに満足して口から彼女の手を離す頃には、彼女が僕の家で手料理をご馳走する話ががっちりと決められてしまっていたのであった。

そして、そのいきなりの展開に唖然としつつも、今日帰ってから家の中を掃除しなきゃと思うのであった。

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