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戦利品とハム友

INUUは機嫌よく先に立って小刻みに歩いていく。

普段なら周りをきょろきょろとか、気になった場所をクンクンとか寄り道大好きなんですが、今日は違います。

たったった……。

漫画だったらこんな擬音が付いてもおかしくない歩みです。

それはINUUがご機嫌という証でもあり、一心不乱に前方を見て進んでいる事からもそれがわかる。

まさに、欲しかったものを買って、家にかえって早く開けたい、早く見たいという心境に近いのかもしれないなと思う。

なんでそんな事を思うのか。

それは簡単である。

今、INUUは戦利品を咥えているからだ。

それを自分の小屋の中に持っていきたいがための行動なのである。

INUUはボールが好きなのである。

特に加えやすいサイズのボールが大好きだ。

一度、サッカーボールとかバレーボールをなんとか咥えようとして頑張ったのだが無理だったこともあり、今は無難に野球やテニス、ゴルフ当たりのボールのみにしているようだ。

まぁ、偶にペットボトルを咥えたりしているが、それは遊ぶ気は余りないらしく、手を差し出すと素直に渡していくれる。

まさに、ゴミ拾いワンちゃんといったところだ。

ふむ。

ゴミ拾いしてる時の今度写真撮ってみょうかな。

意外と絵になるかもしれん。

そんな事を思う。

ともかくだ。

INUUはボールがどれだけ大好き化というと、海岸に落ちているボールを咥えて持ち帰ってしまうほどなのである。

以外かと思うが、意外と海岸に落ちていたりするのだ。

勿論いつでもではない。

大雨とか、風が強い日に流れ着いているのである。

一番多いのがゴルフボール。

次に多いのが野球の軟球である。

軟球とは、公式の試合に使われている硬いものではなく、表面がゴムになっているものだ。

で、それらのボールは、川や海の中で丁寧に洗われたかのように奇麗な状態で流れ着いているのだ。

まぁ、結構な波と流れによって水洗いされているようなものだからなぁ。

もっとも、中にはそんな状態ではないものもあるがそれはINUUは見向きもしない。

奇麗でピカピカのやつだけをINUUは選んで咥えるのである。

いや、ほんと、中には新品?!って思ってしまうほどのものがあったりするので侮れないなと思ったりする。

そして、今日は久方ぶりの戦利品を引いウキウキワクワクで帰途についているという状態なのである。

勿論、散歩中のハムハムはない。

口にボールを咥えているのだから出来るはずもない。

そして、家に帰りつくと素早く小屋の中に入って粉の奥に戦利品を置いて出てくるとハムハムを希望してくる。

『我はハムハムを希望するぞ』

餌箱にカリカリくんを入れている僕にそう言う感じの表情ですり寄ってくるのである。

ご飯とハムハムは別腹なのである。

今日も本当ならそうなるはずであった。

もう一人のハム友、片山真鳥さんと出会うまでは。

INUUのそのことを失念していた、忘れていたのだろう。

いつものベンチの近くを通ると、片山さんが読んでいた本から視線をこっちに向けて手を振っている。

INUUもそれに気が付いたのか、わふっと言いかけて慌てて口を締め直す。

そう、INUUは久方ぶりの戦利品を咥えこんでいるのだ。

しかないと思ったのか、それでも尻尾をちぎれんばかりに振って移動先を家から彼女の方に向ける。

なんせ、彼女の手は期間限定品なのである。

いつもハムハム出来る僕の手よりも貴重なのだろう。

なんか釈然としないけどさ。

しかし、INUUの思考に関与できない以上、こっちが受け入れるしかない。

うー、なんか悲しい。

ともかくだ。

行き先を変更して彼女の方に向かう。

「こんにちわ」

片山さんが微笑んで言う。

「こんにちわ。今日も読書ですか?」

「ええ。潮風が気持ちいいので」

「何読んでます?」

そう言うと彼女は読んでいる本にしおりを挟むと背表紙を見せてくれる。

ああ、最近話題になっている奴だな。

どうも図書館で借り打らしい。

市役所の中にある住民向けの図書館の印鑑と番号札だが張られている。

「へぇ。あの図書館、結構いろいろ入れているんですね」

「ええ。結構いろいろあって最近よく使っています」

「今度久しぶりに行ってみょうかな」

「ええ。いいと思いますよ」

そう言った後、彼女はニコニコしている。

そんな感じで話をしていたが、普段ならハムハムを所望するという表情でじっと彼女を見てすり寄ってわふっと吠えるINUUが動かないのでおや?という感じでINUUを見る。

僕のつられてINUUを見ると、INUUは困ったように彼女の手を見ては口を開きかけそうになって慌てて落ちそうになるボールを咥え直すという事を繰り返していた。

要は、戦利品は手放したくないが、ハムハムもしたいと迷っているのである。

この欲張りめ。

そんなINUUの様子がおかしかったのか、くすくすと彼女が笑う。

「かわいいっ」

そして、ニコリと笑うとINUUの頭に手を伸ばす。

普段は速攻にハムハムされるため、なかなかなでなでできない頭を撫でようとしたのだろう。

くっ。悔しいっ。ハムハムしたいのに……。

恐らくそう思っているのか、なんか嬉しい反面、悔しいという感じの雰囲気を醸し出して頭を撫でられるINUU。

そんな様子も可愛いのか彼女はニコニコと笑って頭を撫で続けている。

「うふふふっ。かわいい、かわいいっ」

彼女はご機嫌である。

もっとも、INUUkの不満は増量中であるがw

なお、それを見ている僕はその様子が面白くて、笑ってしまっていた。

なお、さすがに可哀そうになってボールを渡すように手を出したが、INUUにはスルーされてしまっていた。

ちゃんと返すのに……。

どうも信用されていないようだ。

なんか悔しいのう。

あんなにかわいがっているのに。

ともかくだ、そんな感じの場面が続き、暫く頭をなでなでしていた彼女の手の動きが止まった。

十分なでなでを堪能したのだろう。

「INUUちゃん成分は補充完了」

笑ってそんな事を言いつつ手を引っ込めようとした。

その時である。

遂に我慢できなくなったのか、INUUが吠えた。

わふっ。

それはハムハム希望をするときに吠える声だ。

恐らく今日はハムハム出来ないのは嫌だ、せっかく出会えた限定品なのにという思いがそんな行動をさせたのだろう。

(なお、捕捉。毎日散歩の度に合う訳ではない。二~三日に一回程度の遭遇率である)

そして、そんな行動をした代価をINUUは払う事となる。

ぽんっ、ぽんっ……。

口から落ちたボールが跳ねて転がっていく。

しまったという様な表情をするINUU。

唖然とした感じの表情で落ちて転がっていくボールを見ているINUU。

なんか固まってしまっているという感じだ。

そして、慌てて再度咥えようとしたものの、もう遅い。

ボールは転がって溝の中に落ちてしまった。

INUUがこっちを見る。

要は取れという事なのだろうか。

でもさ、その溝、細いんだぞ。

手が入らない。

どう考えても無理である。

というか、まさにビリヤードの球がすぽんと穴に入るかのように見事に入ったなぁ。

そんな事を思いつつ、出来ないというゼスチャーをしたがそれがわかったのか、INUUは視線を彼女の方に向けた。

彼女もINUUが何を望んているのかわかったのか、困ったように首を振る。

それもわかったのだろう。

INUUは悲しそうに吠え、ボールの落ちた穴の周りをクンクンするしかやれることはなかった。

そして、諦めたのか、開き直ったのか視線を穴から彼女の方に向ける。

わふっ。

それはハムハムを希望する吠え方だ。

彼女は楽しげに笑うと手を差し出す。

そうして、戦利品を失った悲しみを癒すかのようにINUUは普段より熱心にハムハムをしたのであった。

こんにちわ。

今回のネタ晴らしw

作中のINUUの行動は、実際に似たようなことがあった事を参考にしました。

もっとも、ハムハムしょうとしてではなく、見知らぬ犬に吠えようとしてぽろりとボールが落ちて、海の中に転がってしまったというオチでしたが……。

本当にうちのINUUはそそっかしいんですよね。

気になるとすぐにポロリをやってしまうんですよ。

まぁ、傍から見ていると可愛いんですが。

そんなINUUの可愛さが表現できていればいいんですがw



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