ハム友の本棚組み立て その1
片山さんの家で本棚組み立てが決定。
それはデート継続という事である。
うんうん。いいね。うん、いいよ。
おにーさん、張り切っちゃうぜとか心の中で言ってみる。
つまりそれだけ浮かれていたのだが、車の方から、構ってほしいと訴えるくーんというINUUの鳴き声で、ふと気が付いた。
そうだ。INUU、どうすべ。
こいつは間違いなく付いてくる気満々だ。
ああ、間違いない。
こいつはそういう犬だ。
だからINUUなのだ。
いや、自分で何思ってるかわからなくなってきたが、ともかく置いてお出かけすると拗ねる。
間違いなく拗ねる。
なんで私を置いていったの?って感じの視線と、哀れっぽいくぉぉぉんとか鳴いて同情を誘うのだ。
くそっ。まるで美人に振り回されている感が強いが、まぁ間違ってない気がしている。
性悪女に引っ掛かって、振り回される哀れな男。
それが自分というわけだ。
いや、待て待て。
そんな妄想で逃避しても仕方ない。
仕方ないから、片山さんに聞く。
「えっと……、INUU連れてきてもいいですかね?」
その言葉に、片山さんはすごくうれしそうだ。
「いいですよ。部屋の中には入れませんけど、組み立て中は玄関で私が接待してあげますから」
えっ?!接待?!
思わず邪な想像をしてしまう。
いや、僕も男だし……。
いかんいかん。
妄想終了。
で、INUUはというと、いいだろう、下僕って感じの表情をしてやがる。
代われ、役割代われっ。
そんな事を思うが、INUUに本棚組み立てなんてできるはずもなく、ここは自分が大人の対応をするしかない。
ぐっ。我慢だ。
そんな事を思っていると片山さんがくすくす笑っていた。
どうやら、顔に思考が漏れていたようだ。
その百面相が面白かったらしい。
流石に恥ずかしくなって、慌てて言う。
「じ、じゃあ、いったん戻って、また来ます」
多分、顔は真っ赤だろう。
そんな様子が面白かったのか、片山さんは笑っていた。
「ふふふっ。待ってますね」
こうして、一旦、車を戻した後、電動ドライバーを取って戻ってくる事にしたのであった。
さて、一旦家に戻る。
当たり前のように車の助手席にいるINUU。
いや、いいんだけどさ。
ついついINUUもウキウキしているように見えてしまう。
おいっ、片山さん独り占めは羨ましすぎるぞ。
そんな思考ただ漏れの顔をしていたからだろうか。
INUUがわふっと、優越感を感じさせる表情でこっちを見ていた。
くーっ。悔しい。とっても悔しい。
だが、我慢だ。
我慢するんだ。
相手は、犬。
そう犬だ。
犬なのだ。
でも悔しいのは変わらない。
複雑なのだ。
男の心境は……。
で、車を車庫に入れて、助手席のドアを開けると、うむ。ご苦労、下僕。という感じでINUUが降りる。
そして、とてとてと車庫の入り口でこっちを見ている。
さっさと行くぞ。そんな感じなんだが、行きたいのは山々なんだが、電動ドライバーを忘れちゃ駄目ですぞ。
「待ってて。道具用意するから」
そう声をかけると、INUUは仕方なさそうにその場に座って欠伸をする。
よし。今のうちにと……。
散歩の時に持っていくセット、それに電動ドライバーと予備の充電ユニットをバッグに入れると車庫の入り口を閉める。
うむ、準備できたか。
そんな感じでこっちを見た後、INUUは車の方にわんっと吠えた。
どうやら、がんばった部下である車に、激励の声をかけたのかもしれない。
もっとも、それで車もありがとうございますって返答するはずもなく、ただ沈黙していたのだが、INUUとしては返答をもらったと思ったらしく、なんかさっぱりした表情で歩き出す。
お、おいっ。リードぐらい付けさせろよっ。
慌ててリードを持つと、INUUの首輪につなげる。
仕方ないな。
そんな感じの視線を向けてきた後、気分を変える為か、INUUはわんと吠えた。
そして、片山さんのアパートに向かうのであった。
片山さんのアパートに戻ると、早速本棚を組み立て始める。
「前はどうしてたんですか?」
組み立てつつ聞いてみると、四苦八苦しながら自分で組み立てていたという。
でも、とてつもなく時間がかかるし、大変でしたと返事が返ってきた。
その表情は、全てを使い果たして灰になったような印象を受けるほど、遠くを見ている感じで、あー、大変だったんだなぁというのがよくわかる。
そんな片山さんの気持ちを察したのか、或いはハムハムしたくなっただけなのかは知らないが、INUUが片山さんの手をハムハムしている。
「うふふふっ。慰めてくれるの?」
片山さんがINUUとじゃれている。
うん、いいな。
すごくいい。
絵になる。
そんな事を思っていたら片山さんと視線が合った。
「えっと、どうかされましたか?」
「い、いえ何でもありませんよ。あはははは」
貴方とINUUがじゃれ合っている姿に見惚れていたとは言えない。
うん。言えませんとも。
そんな僕を見て、気が付いたのだろう。
「あ、お茶用意しますね」
そう言って立ち上がる。
INUUが悲しそうな顔をして、くーんと鳴く。
わかるぞ。うん、わかるぞ。
でも我慢しろ、INUU。いいな?
そんな思いのこもった視線に気が付いたのか、INUUはちらりとこっちを見て、わかっているわよと言わんばかりの表情をした。
いかん、手が止まってた。
さっさと組み立てないとな。
ざっと説明書を確認。
まぁ、この手の組み立て家具は大体手順は同じなんだが、念のために目を通す。
思った通りだ。
では、組み立てていきますか。
合板を合わせて、電動ドライバーでネジを止めていく。
いやはや、早いよなぁ、これがあるとさ。
いつの間にかINUUも興味津々という感じでこっちを見ている。
ふふっ。お前にはできまい、こういう事は……。
いや、犬と比較して勝って当たり前なんだけど、ついつい思ってしまう。
なんかさ、ここ最近は、負けている気がしてならんのだ。
だからそんな事を思ってしまうのかもしれない。
そんな感じでINUUと脳内牽制をしつつ組み立てていく。
すると「お待たせしました」と言って片山さんが、お茶とおせんべいを持って戻ってきた。
そして、恐らくこの時の為に買っていたであろう犬用のジャーキーまである。
「一息入れてください」
そう言って微笑む。
うむ。いい笑顔だ。
INUUもわふぅと喜びの声を上げた。
そして、三人でお茶をご馳走になった。
お茶をすすりつつ、何気ない話をしていく。
片山さんもINUUの頭を撫でつつ、応じて笑っている。
INUUもご機嫌だ。
ほんのり温かいお茶。
せんべいのパリパリと割れる音。
なんかいいな、こういうの……。
ほっとするというか、安心できるというか。
こういう感じの空間はいいな。
INUUがいて、片山さんがいて、そして笑いあう。
とても幸せな時間だと、しみじみ感じていた。
今日のお話はどうでしたか?
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次回もお楽しみに。
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