ハム友とのお出かけ その4
楽しい時間、充実した時間というものはあっという間に過ぎていくもので、今、それを実感していた。
確かに、正確に言うと30分という短い時間。
だが、すごく充実していて、楽しい時間だった。
本当に、こんな時間がずっと続けばいいのに、と思うほどに。
久しく忘れていた感覚だ。
もうないだろうなと思っていた感覚。
だけど、やっぱりいいもんだな。
そう、つくづく思ってしまう。
でも、どんな時間もいつかは終わる。
それが楽しいことでも、悲しいことでも、そして辛いことでも。
「これに決めました。どうでしょう?」
そう聞かれて、微笑んで答える。
「いいと思いますよ。言われていた部屋のイメージに合うし、それにこの落ち着いた色合いは、結構好きです」
そう言うと、片山さんはすごくうれしそうだった。
「よしっ。お墨付きももらったし。では、買いますね。店員さん~っ」
片山さんは近くにいた店員に声をかけた。
すると、ニコニコ笑顔の店員さんがこっちにやってきた。
ちらちらと片山さんと僕を、微笑ましそうに見ている。
彼女には僕らがどう見えているのだろうか。
せめてカップルに見えているといいな、なんて思ってしまう。
もっとも、まだ付き合うって言ってないんでカップルではないんですが、それでもご飯作ってもらって、一緒にご飯食べて、散歩して、楽しくお話しできている。
もう十分すぎると思うんだけど、こういうのは世間では、友人以上恋人未満とか言うんだろうか。
うーん。
確かにそれは正しいのかもしれない。
でもさ、なんかさ、一緒にいるとほっとするんだよね。
些細なことでも楽しく笑いあえる。
そんな関係になりつつあると思う。
それは、確かに激しい恋とかとは違うものの、すごく身の丈に合っている気がする。
それは本当に身近にあって、ふと気づくとうれしくなる。楽しくなる。そんな感じだ。
片山さんと店員さんのやり取りをぼーっと見つつ、そんなことを思ってしまう。
そして、ふっと以前の記憶が浮かぶ。
あの時は、本当に同化していたんじゃないかと今でも思う。
恋すべきだと思い込み、身の丈に合っていないことを無理やりやって、それで失敗した。
今思えば、なんであんなに無理したんだろう。
なんで辛いのに無理して笑っていたんだろう。
そんなことを思っていると、会計が終わったのだろう。
店員さんが大きな段ボールに梱包された荷物を、台車に載せて持ってくる。
結構重そうだ。
「お車まで持っていきましょうか?」
そう言ってくれる。
だが、ここは、アッシー兼モッチーの僕の出番である。
かっこいいところを見せたいという見栄が出たというべきだろう。
なお、無理はしていない。
なんせ以前は、25キロの袋物とか抱えて運んでいたのだ。
この程度のモノなど……。
あ、意外と重い……。
重さ自体はそれほどでもないのだが、持ちにくいのがいかん。
くっ。しかし、ここで「やっぱり」とは言いづらい。
それにだ。
男の意地もある。
「大丈夫ですか?」
片山さんが心配そうにそばに寄って言ってくれる。
ありがとう。
その言葉だけで、百人力です。
こんなものなど軽い軽い。
そう、男は単純な生き物なのである。
今、本当にそう思った。
我ながら笑ってしまうが。
あ、もちろん、心の中で思っただけで、口にはしない。
「ああ、大丈夫ですよ」
そう答えると、片山さんは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、お願いしますね」
「ええ。任せてください」
そう言うやり取りをしていると、店員さんが生暖かい視線で、ニヤニヤした表情のままこっちを見ていた。
あー、店員さんが今どんな目でこっち見てるか知りたい。
多分、思っている通りならいいなと思う。
そんなことを思いつつ、片山さんに言う。
「では車に戻りましょうか」
「はい。行きましょう」
こうして、楽しかった時間、充実した時間が終わろうとしていた。
いいわねぇ。
熱々じゃない。
やっぱり新婚さんじゃないかしら。
本当に熱々だわ。
それにしても、羨ましいわねぇ。
うちの旦那もこれくらいやってくれたらいいのに。
本当に……。
いつも、「おい、飯」「着替えは?」とか単語みたいな会話しかないんだもの。
感謝の言葉ぐらい言ってくれたら違うのに……。
そんなことを思いつつ、出ていく二人の新婚らしきカップルを見送る。
いつまでも幸せでいてね。
うちみたいになっちゃ駄目だからね。
なぜかそんな感想まで浮かびつつ、生暖かい視線で見送ってしまうのであった。
荷物を持ちつつ、車に向かう。
この大きさなら、後部座席の半分を倒して、そこに乗せるしかないか。
そんなことを思いつつ、ふと気づいた。
後部座席を半分倒すということは、片山さんが助手席に座るということだ。
いいぞ。いいぞっ。
行きは駄目だったが、帰りは隣に片山さんを乗せてドライブできる。
くーーーっ。いいっ。
それいいな。
ふふふっ。神は我を見捨ててはいなかったのだ。
ありがとう神様。
本当に感謝します。
なお、うちの家系は代々仏教徒だけど、気にしたら負けだ。
なんでも楽しければ受け入れる日本人舐めるな。
そうでなきゃ、仏教や神道を信仰していて、ハロウィンやら、クリスマスなんかを受け入れ、楽しんだりできないからね。
だから、この場合は、神様でいいのである。
まぁ、敢えて言うなら、神様、仏様、感謝しますってところか。
おっと、なんか嬉しさで思考が暴走してしまった。
車が見えてくると片山さんも気づいたのだろう。
「あ、後部座席、倒さないと載せられませんね」
そう言ってくる。
「ええ。でも、後部座席は片方だけ倒せますから、大丈夫ですよ」
「そうなんですね。よかった」
なんかほっとした顔をしている。
どうやら、後部座席を片方だけ倒せるとは思っていなかったらしい。
まぁ、昔のは、片側だけでは倒せないやつもあったからなぁ。
でも、ご安心を。
うちのは問題ないですよ。
ふふふっ。
思わず脳内でイケメンモードを発動させる。
もっとも、片山さんには不評なので、脳内だけではあるが。
で、助手席に片山さんを乗せてドライブできるのを楽しみに、車に近づいていく。
そして、そこで僕は、この世に神も仏もないことを知ることとなる。
「あ、INUUちゃん、寝てますね。かわいい」
窓から片山さんが覗き込み、そう言う。
いや、かわいいですよ。うん。それは認める。
でもさ、おい、なんで助手席に移って寝てんだよ。
お前、後部座席にいただろうが。
なんで、そっちに移ってんだよ。
片山さんを助手席に乗せてのドライブデートがぁぁぁぁぁぁぁっ。
「ふふふっ。かわいい寝顔。じゃあ、起こすのもかわいそうなんで、私が後ろに座って、荷物を支えておきますね」
片山さんはそう言って笑った。
「あ、うん。そうだね」
なんとか微笑んでそう言い返す。
もちろん、心の中では、血の涙を流しつつ。
そして気づいた。INUUの耳がぴくぴく動いていることに。
くそっ、寝たふりしてやがる。
謀ったな、INUUーーーーーーっ。
心の中で、僕は某アニメのキャラの台詞に近いことを叫んでいたのであった。
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