ハム友とのお出かけ その3
僕と片山さん、そしてINUUの二人と一匹は、車で三十分ほど行ったところにあるホームセンターに到着した。
この辺りは市の郊外に当たる場所で、バイパスが通っているために大型店舗がいくつか並んでいる。
駐車場で車を止め、ふと後ろを向くと、片山さんとINUUが楽しそうに戯れている。
走行中もキャッキャウフフという感じの音が聞こえており、実にほのぼのした雰囲気で、それはそれで嬉しいのだが、僕の心は切なさでいっぱいだった。
くーっ。走行中、何度あの輪に入りたいと思ったことかっ!!
本当に、切なかった。
でもっ、悔しくなんかないやい。
本当に、本当に悔しくなんかないんだからねっ。
そう自分に言い聞かせる。
手を握りしめて、震える身体。
それは男としての意地だ。
でも、そんな姿も第三者からは変なものに見えたのだろう。
ふと気づいた片山さんが心配そうにこっちを見て言った。
「えっと、先にお手洗いに行かれます?」
その優しさがとてつもなく嬉しい反面、心に、プロレスで例えるならロープの反動で勢いづいた時にドロップキックを喰らったような強いダメージが入る。
いや、違うから。
本当は、片山さんを助手席に乗せてさ、楽しく会話したかっただけなんだって。
それをINUUに取られてとは言えない。
心配そうな顔の片山さんの前では、特に。
だから笑って誤魔化す。
「いや、大丈夫ですよ。ありがとう」
そう、僕は大人だ。
男なんだ。
INUUのご主人様なんだ。
そう、気にするな。
そう言い聞かせて車から降りる。
すると片山さんも名残惜しそうにINUUの頭を撫でて車のドアを開けた。
「INUUちゃん、ちゃんとお留守番しててね」
そう言って降りる片山さんに、INUUはわふっと返事を返して尻尾を振っている。
なんかふだんより聞き分けがいいのは気のせいだろうか。
なんか、二人の世界が構築されているみたいで、少し悔しい気持ちが沸き起こる。
ちょっと寂しいです。
しかーーーーーーしっ!!
ここからは違う。
そう違うのである。
ここからは二人で。そう、片山さんと二人で買い物なのだ。
ふっふっふ……。INUUよ、そこで待ってなさい。
おれはやるぜっ。
そう自分を鼓舞する。
そう。勢いは大事だ。
何事も、勢いは大事なのだ。
だからこそ、やってしまった。
イケメン風にポーズをとって片山さんに言う。
「では、まいりましょうか」
するときょとんとした顔の後、片山さんが苦笑した。
「えっと……、こういっては何ですが……」
実に言いにくそうだが、そこで言葉を止めることなく言葉を続けた。
それは信頼という重荷がそうさせたと思いたい。
「なんか今日、少し変ですよね」
少しという言葉が優しさだとはわかる。
だが、それでも変なことにはかわりないということで、心にさらにダメージが入った。
ヤバい、そろそろ、倒れそう……。
しかし、ここで倒れるわけにいかず自分を奮い立たせる。
くっ、めげないぞ。
「そ、そんなことはありませんよ。いつも通りです」
いつもの口調で笑って言うと、片山さんはニコニコして言った。
「やっぱりそういう感じの方が、私は好きです」
その何気ない言葉。
その癒しの言葉に、少し心のダメージが回復する。
片山さんは、精神攻撃と癒しが出来る万能魔術士に違いない。
いやいや、違う違う。
なんで思考が変な方向に入っているんだ。
落ち着け。
落ち着くんだ。
ふー。
息を吐き出して落ち着く。
「ありがとう」
そしてそう言いつつ、思う。
片山さんの前では、イケメンモードは、ずっと封印しておこうと。
そのまま店舗に入り、奥の組み立て家具のコーナーに向かう。
その中の本棚のコーナーで、いろんなものを見て回った。
オーソドックスな合板で構成されているもの、パイプで作られているもの、鉄の網状の板で作られているもの、プラスチックで作られているもの。
実に色々ある。
そのうえ、ちょっとした違いや色、細かなデザインまで実に多種多様だ。
うわー、これは迷うな。
こだわっている人ほど、迷いそうな気さえしてしまう。
そんなことを思いつつ、まずは買う人の意見を聞こうと思って片山さんに言う。
「どういうのにしますか?」
その問いに片山さんは落ち着きなく売り場をきょろきょろ見て、困った口調で言う。
「えっと……どれにしましょう?」
その口調は、本気で困っている感じが強いものだったが、きょろきょろと周りを見回す仕草が小動物のようで、思わず笑ってしまっていた。
実にかわいい。
だが、それをからかわれたと思ったのだろう。
「笑うなんてひどいです」
そう言って、片山さんがポンポンとリズムよく背中を叩く。
もちろん、音の軽さからわかるように、全く痛くない。
まるでじゃれ合っているみたいである。
だから、笑いながら「ごめん、ごめん」と言い返した。
そして、ふと気づいた。
周りのお客さんや売り場の担当者の視線に。
それは皆同じだった。
生温かい、なんか微笑ましいものを見ているような視線だった。
要は、あーカップルがいちゃついているな、お幸せにって感じの視線である。
間違いなくそう思われていると断言できた。
だから、慌てて片山さんに言う。
「えっとね、片山さん、うれしいんだけど、ここでは……」
そう言われて、我に返る片山さん。
そして、周りから注がれる視線に気づいた。
カーッと片山さんの顔が真っ赤になる。
なお、僕も真っ赤だと思う。
耳が熱い。
暖房の効きすぎだろう、この店舗はっ。
そう心の中で言ってみて、心を落ち着かせようとする。
すー、はー、すー、はー。
深呼吸をして、心と身体を落ち着かせる。
そして気を取り直して口を開く。
「部屋に本棚あるんですよね?」
「え、ええ。ありますけど……」
何を言っているんだろう?
片山さんの顔には、そんな感情が浮かんでおり、それはそれで可愛いと思ってしまう。
いかん。また脱線しそうだ。
慌てて思考を切り替え直す。
「じゃあ、それはどんな感じですか?」
そこまで言って、片山さんも僕が言いたい意味が分かったのだろう。
つまり、今部屋にある本棚に合うものを選んだらどうか、というアドバイスだということに。
だからすぐ答えが返ってくる。
「今、うちにある本棚は、こういうタイプですね」
一つの本棚の見本を指さす。
ほほう、結構落ち着いた感じのものを買ってるんだな。
「なら、こういうのどうです?」
そう言って、僕が一つの見本を指さす。
「あ、いいですね。でもこっちもいいと思うんですけど、どうですか?」
「おっ、そっちもいいですね」
二人して意見を言い合って、いろいろ選択していく。
いや実に楽しい。
本当に。
こういう時間の過ごし方もいいなぁと思ってしまっていた。
そして、そんな僕らの様子を見ていた売り場の店員さん同士が話している。
「ふふっ。きっと新婚さんよ。二人の新生活の家具でも買いに来たんだわ」
「ええ。本当に。初々しいわねぇ」
「本当に。ふふっ。もう少しして決まらなそうなら、少しアドバイスしましょうか」
「ええ。その方がいいですわね」
店員さんは、そんな会話をして、二人の様子を微笑ましく見ている。
そんなことは、二人は全く気づかず、楽しげに本棚選びを楽しんでいるのであった。
なお、INUUは車の中で暇そうにきょろきょろとあたりの景色を見回し、そして欠伸をして眠りに入っていたのであった。
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