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ハムハムするINUUは好きですか?  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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ハム友とのお食事会 その3

二人で会話しつつ食事が進む。

何気ない日常話や少しプライベートな話をしながらの楽しい食事。

なんかいいな、こういうの……。

ボッチ飯が当たり前という身としては、じつにほのぼのしてしまう。

こう、心がジーンとくると言うか、心があったまる感じだ。

あ、もちろん、友人達とのワイワイ話しながらの食事も楽しい。

だが、片山さんとの食事はそれとは大きく違っている気がする。

そして、あっという間に食事は終わった。

余ったおかずを手際よくタッパーに入れて片づけをしてくれる片山さん。

本当に手際がいい。

「冷蔵庫に入れておきますけど、早めに食べてくださいね」

「ああ。ありがとう。明日のご飯が楽しみになって来たよ」

そう言うと真面目な顔で片山さんが返す。

「そう言っていただけると作った甲斐がありました」

そして二人で笑う。

で、落ち着くと二人でお茶をすする。

のんびりとした時間が過ぎていく。

そして、会話が途切れる。

気が付くとお互いの顔を見つめ合っていた。

なんか雰囲気がおかしい気がする。

テーブルを挟んでいるとはいえ、片山さんの顔がすぐそばにあるような感覚。

いや、気が付くとお互いに腰を浮かして顔を近づけていた。

片山さんが目を瞑った。

あ、これって……。

このまま……。

だが、それを見透かしたかのようなINUUの激しい鳴き声。

がうがうという感じの声で。

普段の鳴き声とは違う。

今までない鳴き声だ。

目を瞑っていた片山さんもびっくりして鳴き声の方を向いている。

もちろん、僕もだ。

「えっ!? なんだ?」

ぼそりと言葉が漏れる。

「なんか吠え方が……」

多分、片山さんも異変を感じたのだろう。

気が付けば、二人とも立ち上がって車庫の方に駆け出していた。

「どうしたっ、INUUーっ」

片山さんと二人で外に出て車庫に向かうと、そこにはなんか不機嫌なINUUの姿があった。

うろうろと落ち着かなく歩き回り、尻尾を振りつつもこっちをにらみつけるように見ている。

それはまるで、なんで私だけ仲間はずれなの?と言っているかのようだった。

どうやら、さっきのいつもの構って吠えでは反応がなかったため、普段には出さないような吠え方をしたようだ。

そんなINUUを見て、二人してほっとする。

そして互いの顔を見つめ合って笑っていた。

「ごめんよ。ほらお詫びだ」

そう言って手を差し出す。

すると同じ気持ちだったのか、片山さんの手を差し出した。

わふっ。

さっきまでの機嫌悪そうな眼差しと態度は消え失せ、嬉しそうに目を細めて近づいてくるINUU。

だが、すぐに迷う。

さて、どっちから味わうべきか……。

定番の味が、限定品か……。

そんな感じだ。

その様子が実に楽しい。

で、結局、交互にハムハムし出すINUU。

その様子は、味比べをしている職人のようだ。

いい雰囲気を壊されてしまったが、これはこれでよかったような気がする。

ハムハムしてくるINUUを見つつ、片山さんが言う。

「えっと……、また作りに来てもいいですか?」

そう言いつつ、耳が赤い。

「も、もちろんです。うれしいな」

「本当ですか?」

「本当です」

そう答えると、それに同意するかのようにINUUが吠える。

はふっ。

そして、こっちを見ていた。

片山さんが嬉しそうに笑う。

「ふふふっ。じゃあ、また来た時もハムハムさせてあげるね」

わふっ。

尻尾をちぎれんばかりに振る。

そして、しばらくハムハムして満足したのか、INUUは寝床の小屋の中に入っていく。

その態度は、『うむ。ご苦労であった。下がって良いぞ』と言わんばかりの感じである。

その様子に二人して笑った後、外の景色を見て片山さんが言う。

すでに周りは暗くなっていた。

「じゃあ、そろそろお暇しますね」

「あ、はい」

だが、もう少し一緒にいたい。

そんな気持ちが湧き上がる。

だから自然と言葉が出た。

「夜道の一人歩きは危ないですから、家まで送りますよ」

「いいんですか?」

そう聞いてくる片山さん。

「ええ。大丈夫ですよ。それにINUUも付き合ってくれますし……」

そう言って散歩用のリードを握る。

すると小屋に入ったはずのINUUがそれを見て、仕方ないのうといった感じで小屋から出てくる。

その様子は、小生意気な妹が、不甲斐ない兄のために一肌脱いでやるかという感じに見えた。

いや、お前が雰囲気壊さなかったら……。

だがすぐにその考えを捨てた。

止めとこう。

タイミングが悪かったんだ。

それに告白もしていないし……。

どうせなら……。

そんな事を思っていると、「じゃあ、バッグ取ってきます」と言って片山さんが一旦家に戻る。

そして、すぐに出てきた。

「じゃあ、行きましょうか」

家の戸締まりをして、二人と一匹の夜の散歩にしゃれ込む。

今日は空気が澄んでいて、雲がないから夜空が綺麗だ。

黒と濃紺の空に、星の光がキラキラと光っている。

気が付けば二人して足を止めて見入りそうになっていた。

だが、足が止まるとINUUがくーんと鳴く。

どうして足を止めるのかという抗議らしい。

ふむ。お前は花より団子派なんだな、INUUよ。

まぁ、そう思ったけどな。

そんな事を思いつつ、会話しつつ歩いていく。

綺麗な夜空を見上げつつ、女性と会話を楽しむ。

今までの人生で、初めての体験だ。

心がドキドキしている。

時々ちらりと盗み見る片山さんの横顔。

すごく綺麗だと思う。

こんな時間が続けばいいな。

そう思ってしまうが、何事にも終わりはある。

片山さんのアパートの前に着いたのだ。

玄関の前で二人して無言で立ち止まる。

しばしの沈黙。

珍しくINUUはじっとこっちを見ているだけだ。

ちらりと下を見た時、INUUと視線が合う。

まるで『ほれ、頑張って』と応援しているかのように見えた。

ぐっ。

ここは僕から言わなきゃいかん。

頑張れ、自分っ。

ぐっと拳を握って下を向いたまま口を開く。

だが口から出たのは、言おうと思っていた言葉ではなかった。

「つ、次はいつ作ってくれますか?」

違うーーーっ。これじゃないっ。

これじゃないんだーっ。

くーん。

INUUがそう鳴くと、不甲斐ないなとでも言わんばかりにこっちを見ている。

そういう目で見るな。これでも勇気を振り絞ったんだぞ。

するとくすりと笑って片山さんが返事をくれた。

「えっと……、私のご飯、気に入ってくれたんですか?」

「は、はいっ。とてもおいしかったです」

慌てて顔を引き起こしてそう言う。

その目に入ったのは、頬を染めて嬉しそうな片山さんの顔だ。

「うれしいなぁ……」

そう言うと、片山さんは頬を朱に染めて言葉を続ける。

「じゃあ、週末にまた作りに来てもいいですか?」

「勿論ですっ」

即答する。

そして、その言葉に、INUUがわんっと吠える。

それはまるで『よく言った。今回はそれで許してやろう』といった感じに聞こえた。

そして、名残惜しいが、玄関前でずっと話をしているわけにもいかず、詳しいことは電話でということで話をまとめる。

こうして、また食事を作ってもらう約束を取り付け、嬉しいような残念なような気持ちでINUUと帰途に就いた。

なお、帰る間際、お別れハムハムをするのをINUUは忘れずしっかりとやっている。

相変わらずのINUUであった。

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