黒い家と明るい気
それから十分くらい経った頃、部屋の中はすっかり様変わりしていた。
ポータブル電源に繋がれたDJの機器一式と、LEDランプが部屋を明るく照らす。箱状のスピーカーからは、ズンチャ、ズンチャとBPM120くらいの音楽も流れ出していた。
テーブルの上にはお酒の缶と、お菓子や珍味が置かれていて、これから酒盛りでもするのかって感じだ。
「あの、クロカヤさん。これ、すっごく不謹慎じゃないすか?」
身体を上下させて、既にノッてるDJブラック・ブラウンを横目に聞いてみる。
除霊って、もっとこう、厳かな感じだと思ってたから、なんか違う。
「この世界にはさぁ、陽の気と陰の気があぁるんだよ。んでぇ、幽霊は陽の気、言い換えたらぁ、明るい気には弱いわけよぉ」
「って事は、もしかして、本気で酒盛りするんですか?」
「当ったりぃ。DJも揃って、フロア熱狂! 霊は絶叫! ってぇわけよぉ」
「そ、そんな方法で成仏させるんですか?」
思ってたのと違うどころじゃない! というか、幽霊は怒るんじゃないのか? 静かに探しているところに良い迷惑だ。
「SNSで聞いた事ないかぁ? 何かがいる気配を感じた後に、裸になったら気配が消えたって話とかよぉ。こぉれも開放的になって、陽気を放ったから逃げてんだわぁ。俺らは酒の力を借りんだけどなぁ」
茶園さん、頼む相手を間違えたんじゃないだろう。まさか、専門家に頼んだと思ったら酒盛りされるだけなんて、予想はしてないよな。まだ短い付き合いだけど、止めそうだもん。
「これ、茶園さんは知ってるんですか?」
「いやぁ、知らないんじゃね? 企業秘密だから。一応、俺って社長なのよ。本職は大学生だけど」
「大学生で社長って、凄いですね」
「まぁ、社員は俺とDJの二人だけなんだけどぉ。あの女の子二人は大学の後輩」
なんというか、もう、好き勝手に生きてそうだなって思った。俺の思い描く青春とは違うけど、青春っぽい感じはする。
ただ、憧れはしない。
「へい、クロカヤ! 準備は出来たぜ!」
「おぉう、ナイスだDJ。じゃあ、酒を構えてぇ」
クロカヤさんと女の人達がテーブルを囲んで座る。右手に缶を持って、目の高さに掲げた。
「なんかを祝して、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
カンっとアルミをぶつけ合う音がした後に、カシュッと炭酸の吹き出す音がこだまする。
未成年として飲酒は出来ないので、頼人の近くに寄ることにした。
「頼人、どうだ? 椅子は動きそうか?」
「いや、全然。そろそろ、自分で脱出する方法を見つけないといけないかなって思い始めてる」
「悪いけど同感」
流れ出したBGMにラッパ音が挟まる。それが合図になったかの様に、俺は椅子や頼人を動かし始めた。が、どうにも抜け出させる事ができない。
「頼人。これな、ぜんっぜんダメだ」
「おい。まだ二分も経ってないんだけど」
背後から聞こえる民謡的で夏らしいBGMのリミックスは、焦らせる気が全くなかった。