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愉快彩夢世界-ユカイロドリームワールド-  作者: 天木蘭
事故物件と壊し屋さん
4/12

白い女と黒い噂

「うわぁああぁ!」

「出た!? 出ちゃったの!?」


予想外が急に来るとビックリする事がわかった。俺が最初にしたのは悲鳴を上げる事で、身体はひっくり返りそうになった。


一方で幽霊も予想外だったのか、階段を上って二階に向かっていく。


「逃げた! 逃げたよ!」


逃げた? そっか。逃げたのか。ってことは、幽霊も俺たちが怖かったって訳だ。


「頼人、追うぞ!」


俺も急いで階段に向かい駆け上がる。

幽霊を追い詰めてどうするのかって気になりつつも、とりあえずどこにいるのかもわからない状況をどうにかしたい。


そういえば、幽霊は幽霊だからか、足音がしなかった。俺の足音はちゃんと鳴ってるから、階段や床が特別製って事もない。


「バズりチャンス!」

「やる気だな頼人!」


頼人がいなかったら俺、逃げてたかも。

階段を上り切る。左右に部屋があるけど、どっちだ?


「晴斗、どっちかの扉は開いた?」

「いや、音はしなかった。けど、どの扉も閉まってるよな」


万が一も考えてたけど、やっぱり相手は人間じゃなくて幽霊ってわけだ。


「じゃあ、別れて探してみようか」

「よし。俺は右側に行くぜ」


頼人に聞かれて右側に行くって言っちゃったけど、正直ヤバくないか。急に死者の世界に連れ込まれたりしないよな?


そうやって俺の足が竦んでいる間に、頼人はスタスタと左側の廊下を進んでいく。もう、なる様になれ、ってやつだ。


右側の廊下にある部屋は二つ。まずはどっちも扉を開いて、中を見る。ぱっと見た感じでは、白い女はいない。


家具が少ないから、見逃しもないだろ「うおおおおおお!?」


一つ目の部屋で、急にベッドがこっちに向かってスライドしてきた。けど、ドシーン!と部屋の入り口にぶつかって止まる。


「晴斗! なんかあった!?」


遠くから頼人の声が響いてくる。姿は見えないから部屋の中みたいだな。


「大丈夫だ! ベッドが飛んできただけ!」


いや、言ってて気づいたけど全然大丈夫じゃなくないか? ポルターガイストって奴だよな、これ。


とにかく、一つ目の部屋にはもう入らなくて良いな。ベッドの下以外に隠れられそうな場所はないし、また何か飛んできたら危ない。


「失礼しましたー」


ガチャン!と扉を閉めて、一礼する。もしかしたら、お休み中だったのかもね。俺が邪魔したのかも。だからって、ベッドはちょっとって思うけどさ。


「ねえ、ここってどうして事故物件になったんだっけ?」


二つ目の扉に向き合おうとしたら、頼人から今更過ぎる質問が飛んで来た。そんなん、この辺に住んでたら皆が知ってる事だ。


「ホラー作家が死んだんだよ。元々、病気だったか精神を病んでたって話。引っ越した後に、壁も真っ黒にしちゃってさ」


俺が産まれる前の話らしい。けど、小学生になったら怖い話が流行り出して、そん時に先生から聞いた気がする。


「最後は自殺だったかな。けど、死ぬ前に近所の人が聞いた話だと、常に誰かに見られてるって騒いでたんだとよ。で、作家さんの自殺後も人がいる気配が消えないって話」

「それって多分さ、統合失調の症状だよね。誰かに監視されてる、盗聴されてるって思い込んじゃう辺りがね」


あんまり覚えてないけど、先生がそんな事も言ってたっけな。あなた達の家族がそうなっても、優しく接するのよって。


「だから僕さ、正直この家に幽霊なんていないと思ってたんだよ」

「いやいや、さっきも白い女を見たじゃんかよ」

「うん。……だから、信じるよ。ちょっと来てくれない?」


そういえば、しばらく頼人の姿を見てないな。ずっと部屋の中にいんのか?


廊下を戻って左側に向かってみる。手前の扉は閉まっていて、奥の扉が開いてるみたいだ。声の遠さからも、頼人がいるのは奥だな。


「おーい、来たぞー」


軽ーく声を掛けながら部屋を覗いてみる。


「えぇ……何これ」


そこには頼人がいた。いたけど、立ってはいなかった。座ってもいない。なんというか、張り付けられてるって感じ。


頼人は壁側に身体を向けたまま、脇の下と胴体が木製の四つ脚椅子で固定されていた。


「隠し部屋でもないかなって壁を叩いてたら、こうなってたんだよね。しかも、椅子が全然動かなくてさ、困ってる」

「見たら困ってるのはわかんだよ。これ、助けれんのかな」


壁に突き刺さっている様で、全然そんな事はなく、やっぱり張り付いてるって感じの椅子を引っ張ってみる。


「ぜんっぜん動かねー!」


重厚な木の重みとは関係なく、固定されているんじゃないかって感じだこれ。


「じゃあ僕、このままってこと?」

「腕とか捻ったら、なんかこうヌルンって出られないか?」

「僕さ、普通の人間なんだよね」

「もっとやる気を出せよ! バズるんだろ!?」

「あー、ちょっと僕のこと録画しといて。この体勢、バズりそうじゃない?」

「そっちのやる気じゃない!」


バズるより先に抜け出さないと、動画の投稿だって出来ないだろ!


「ちょっと俺、管理人さんに電話してみる。起きてっかな」

「なんか申し訳ないね。管理人さんは幽霊を信じてるのかな」

「チケット買う時に電話したら、注意はしてくれたから、信じてそうだったけどな」


スマホを開いて着信履歴を確認。一番新しい履歴に電話を掛けてみると、三コールで繋がった。


『はい。茶園です』

「あ、こんばんは。遅くにすみません。今夜のチケットを購入した青牧なんですが、友達がポルターガイストに遭って部屋を出れなくなっちゃって」

『ああ、はいはい。ポルターガイストですね。どんな感じのでしょうか』


不動産屋でこの家を管理している茶園さんは、話がわかる人の様だ。今までも同じ電話が来てたのかもしれない。


「えっと、壁に椅子で(はりつけ)になってます。椅子を引っ張ってみたんですけど取れないんですよね」

『それはマズイですね。……やっぱり、頼んでみるかぁ』

「頼んでみるって、どういう事ですか?」

『専門家に頼むんですよ。今夜も霊障が起きたらそうしようと思ってたんです』


専門家。ということは、お坊さんとか、除霊師だとか、霊媒師だとか、いわゆるそういう系の人達か!?


「俺、会ってみたいです! すぐ来れるんですか?」

『ええ、事前に相談はしていましたから、もう一度連絡してみます。青牧さんは、すみませんが、家の外で待って頂けますか? 合流して頂きたいんですが』

「わかりました。待ってます!」

『はい。お願いしますね。他に何もなければ、どうぞ電話は切ってください』

「はい! 切ります!」


電話を切ると、テラリンと切断音がした。同時にギエェアって悲鳴みたいな声も聞こえた気がする。無視しよう。


「というわけで頼人、悪いけど俺、外に行くから」

「誰かに頼るってのはわかったよ。人が来てくれるならいいや。一応、定点カメラ代わりに、僕のスマホを録画状態で立て掛けてくれない?」

「頼人のバズりに対する執念もなかなか凄いと思うぜ」


幽霊がどんな理由でここに留まっているのかは知らないけど、頼人もこのまま死んだらバズりを求める亡霊になるんじゃないか。


「じゃあ、寂しいかもだけど、ちょい待ちな」

「うん。自分自身を見つめ直すことにするよ。進路を考えないとね」

「お、おう」


頼人、お前すげえよ。ここに来るのに、お前と一緒で良かった。ついでに、捕まったのが俺じゃなくて良かった。すまんけど。


頼人を拝む様に手を合わせてから、俺は家の前に戻る事にした。

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