赤い崎と青い牧
「というわけで、青春しようぜ頼人」
放課後、ホームルームが終わるとすぐ、俺は前の席にいる赤崎頼人に声を掛けた。頼人は既にスマホを取り出して、何やらSNSを開いている。
「なに、青春って。恋? 部活? ゲームで良くない? 知ってるか? ユカイロドリームワールド」
「知らないけど、禁止されている事をやろうぜ。そんで、若者の特権で許されようぜ!」
「なに、禁止されている事って。飲酒? 売春? ゲームで良くない? 知ってるか? 現実でやると罰がある」
「そんくらい知っとるわ! ってか売春はゲームでもやんねえよ!」
サラサラヘアの頭にチョップを叩き込むと、数年来の付き合いがある幼馴染の顔が見えた。頼人は迷惑そうに頭を摩る。
「結局、何がしたいわけ?」
「青春だっつってるじゃん」
「なに、青春って。恋? 部活? ゲームで」
「良くない! ……いや、ゲームでも良いけど、それなら、なんか大会を目指すとかさ、思い出に残る目標が欲しいよな」
改めて問われると、青春ってなんなんだ。青春漫画とかって、とにかく楽しそうなのが青春って感じだけど、なんというか、具体的じゃないよな。
「要するに、数人規模のグループで、メンバーは全員若くて、高校生の間にしかできない思い出に残る事をしたいって事?」
「それが青春なのかはわからないけど、俺は多分そんな感じの事をしたい」
頼人が出した良い感じの答えに、うんうんと頷く。
ポスン! と、そこで突然、俺の机にあったペンケースが床に落ちた。
「え?」
いや、おかしくないか? 別に今、ペンケースは机からはみ出る位置にあったわけでもないぞ?
「晴斗、そのペンケース、磁石でも入ってる?」
頼人は呆気に取られた表情をしていた。
「え、いや、入ってないけど」
「そいつ、引っ張られたみたいに落ちたぞ。マジックか?」
「いやいやいやいや、怖い怖い」
俺はそんな仕込みをしてない。周りを見回しても、俺たち二人以外に変な反応をしてる奴もいなかった。
「……心霊現象か?」
「まさか。馬鹿らしいよ」
頼人は馬鹿らしいと言いながら馬鹿にした表情をしている。なんか腹が立った。
だって、今は夏だぞ。ホラーの時期だ。幽霊がいたって良いだろ!
「なら、頼人。一つ目の青春は決まりだ」
「なに、青春って。恋愛? ぶか」
「ホラーだ! 黒い家を探索しに行こう」
「……さっき、一つ目って言った?」
「言った」
「……良いよ。どうせ、明日からは夏休みだ」
高校一年の夏休み。が始まる一日前。
俺たちは近所でも有名な心霊スポットへ向かう事になった。