性別裁判残当JK
「ねえ、ワケわかんないんだけど。どういう事? なんで?」
「え、えっと、その、だって、困るでしょ?」
「何が?」
「パパ活って、やつだよね。桃立さんがやってるの。それ、学校で言い触らされたら、困るよね」
「学校って、やっぱり同じ学校にいるって事? 見た事ないけど、誰? 同じ学校の友達でもいるの?」
「そう!じゃ、ないけど、色々違くて……。その、夏休みの間だけでいいから」
残当JKはモジモジし続ける。周りから見たら、トイレにでも行きたいのかなって思うだろうな。
でも、見るからに気弱そう。左目に髪が掛かってる。後ろ側は首くらいまで。こんな髪型の男子が出てくるラブコメ漫画を読んだ事がある。
服も男物だし。ちょっとワケあり感はあるか。だからって、何も知らない他人の面倒は見てあげられない。
「ねえ、その服ってどうしたの? 男物よね。それに、ブラ付けてなくない? 痛くないの?」
「え、えぇ、と、その、深いワケが、って訳でもないけど、あの、言ってもわからないと思う」
「別に、言うだけ言ってみたら? 毒親だってDVだって、過激な話なんていくらでもSNSには転がってるし、信じるかは聞いてから判断するから」
「いや、その、信じるかもそうだけど、わからないって方が」
「良いから言ってみなって!」
「は、ひゃい!」
噛んだ。なんか、申し訳なくなってくるな。そういう態度を取られると。別に、虐めたい訳じゃないし。
でも、とりあえず話してくれるみたいで、残当JKは両手の指を合わせながら、目を上の方にキョロキョロしてる。スパッと話すの苦手なんだろうな。
「えっと、信じられないかもしれないんですけど」
「うん」
「実は僕、男なんです」
「……はあ?」
いやいやいやいや。
私はベンチから立ち上がって、残当JKの肩を掴んでから撫でて、次にシャツの上から胸元に手を突っ込んで、最後にVラインに手を当てた。
「ひっ! ひゃう! ひょえっ!?」
「華奢。華奢だよ。男の身体じゃない。胸はシリコン? ホルモン注射と去勢でもしたの?」
「いや、ち、違くて……」
残当JKは自分の身体を抱きながら、身を捩らせて否定する。顔を背けた効果で、隠れた片目を前面に押し出して、ウルウルした目が奥にあると、ちょっとした美少女だ。
おじさんだと思ってたのもあって、ムカついてきた。
「違うって何? 女装じゃないよ、これ。完全に」
「……その、起きたら女の身体になってたんです」
「はあ。何それ。身体が入れ替わってましたってやつ? お前は誰だって? 先週の金曜日にやってなかったっけ?」
「いや、そうじゃなくて。……たぶん、願いが叶っちゃったんです」
願いが叶った。それは良かった。おめでたい事だと思う。祝福するかは起きないけど。
でも、続く言葉は、ちょっと聞き捨てならなかった。
「ユカイロドリームワールドのせいで」
一つだけ、思い当たる節があったから。