残当JKと出会う
それにしても、本当に良く再現されてるよね。
ベンチの上でスマホを操作していた私は、ふと顔を上げると目に入った、回るメリーゴーランドを見てそう思った。
ユカイロドリームワールド。夜の遊園地が舞台のソシャゲで、数ヶ月くらい前からリリースされたゲーム。その舞台となる遊園地は、この街にあるものがモデルらしい。
ゲームの目的は、夜の遊園地に訪れる敵から遊園地を守るというものだけど、私の場合はほとんどSNSみたいに使っている。
今もそうだ。これから私は、プレイヤー名が「残当JK」という名前のおじさんと出会う。
おじさんなのは、ほぼ確定。周りはそう言ってたし、私もそう思う。なんか、プレイヤー名の由来が古臭いネットスラングってやつらしい。
交流はテキストチャットオンリーで、おっさんだろ、って誰かに言われるといつもキレて否定するから、よく「出た。残当/JKだ」とか言われてる。
名前にスラッシュを入れる事で、切れていると掛けているわけだ。私が今いるクランの名物キャラ的な存在ではある。
そして、待ち合わせ場所に選んだのが、メリーゴーランドの前。一対一のオフ会に誘ったのも、ゲーム内のこの場所だった。
一応見た目だけは確認したかったから、少し早めに来たものの、約束の時間はもう直ぐだ。あまりに見た目が酷かったら、私はきっと風邪をひいた事になると思う。清潔感的なモノはやっぱり重要。
「あの、桃ラミさん……ですか?」
急に目の前に現れた人が、そう訊ねてきた。
「はい。……そうですけど」
でも、その声の持ち主は、全然おじさんなんかじゃなかった。
服装は、ベースが白で袖が黒いラグランTシャツ。足はベージュのカーゴパンツ。だけど、どちらも明らかにサイズが合ってなくて緩そうだ。
カーゴパンツはベルトを最大まで締めているみたいだけど、それでも骨盤でなんとか止まってる様に見えるし、そこまで小さくない胸も……もしかして、ノーブラ?
私の答えを聞いて、明らかに高校生くらいの女子が顔を近づけてくる。その時、胸が揺れていた。
「あの、あなたが残当JKさん……なんですか?」
「あ、いや、その……正確には、違うんですけど……もしかして、桃ラミさんって、桃立愛季さん……ですか?」
「……え?」
怖っ。合ってる。私の本名だ。
「ねえ、なんで知ってんの? 誰かから聞いた?」
「いや、違くて……その、あ、じゃあ」
オドオドした態度で悩む残当JKは、急に何か画期的な事を閃いたみたいに明るい表情を浮かべる。
「この秘密をバラされたくなかったら、しばらく一緒に住まわせてください!」
「……はあ?」
そして、何故か突然、私の事を脅迫してきた。