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第98話、強者

「・・・そろそろ良いか」


 声が全く聞こえなくなった事を確認して、吹雪を解除して周囲を見回す。

 すると室内だというのに雪が積もり、恐らく何人もが雪の中に埋もれているだろう。

 このまま放置すればおそらく全員凍死するだろうな。とはいえ助ける気は欠片も無いが。


「ふん」


 連中は俺達を殺そうとした。なら殺される覚悟が無ければ話にならん。

 俺は自分が自由に、悪党として振舞っている自覚がある。

 だからこそ同じ様に力に潰される可能性は、当然ながら理解している。


 その結果が辺境での魔獣狩りで、安穏と構えているつもりは無い。

 何時だって死の可能性は隣に立っている。だからこそ覚悟が常に要る。

 少なくともこいつらの様に、戦う事を生業にしているなら猶更だ。


 こんな所で死ぬつもりは無かった、等という言葉は甘えでしかない。

 誰だって死ぬつもりは無い。だが死は向こうから突然やって来るのが常。

 何度も殺され続けた俺は、その事実を良く知っている。


 当然俺だって死ぬつもりは無い。つもりは無いが、死ぬときは死ぬだろう。

 どこまでも汚く足掻いて生きるつもりだが、それでも避けられない死はある。

 力を振るうという事は、同じ様に力を振るう存在を認識するべきだ。


「行くぞ」

「コイツ等は、放置するのか?」

「助けてやる義理は無い。殺しにかかってきた相手を助ける優しさも俺には無い」

「・・・そうか、そうだな」


 男は何を考えたのかは知らないが、静かに目を閉じて頷き返した。

 ただそこで、精霊が少し静かな事に気が付く。

 ふと視線を頭の上に向けると、何処か一点を見つめる精霊の姿が在った。


「・・・ちっ」


 精霊が向いていた方向に視線を向けると、今更ながら人の気配を感じた。

 俺が気が付く前に精霊が気がついていたという、その事実が少し悔しい。

 気を付けて見ないと解らない気配に、セムラを少し思い出すな。


 ただアイツと違うのは、殺気を抑え込んでいるという事だろうか。

 物陰に隠れて隙を伺い、不意打ちを入れる算段だったのだろう。


 何時から潜んで居たのか。吹雪を使う前からだろうか。

 だとすれば、あの中でも潜み続けたのは中々に感服する。

 とはいえ敵には違いないので、やる事は変わらないが


「――――っ!」


 踏み込んで接近した所で、物陰に隠れていた何かが焦せる様に動いた。

 同時に俺の拳が振り抜かれ、隠れ場所になっていた壁を粉砕する。

 ただし逃げる方が早かったらしく、今回は壁ごと撃破とはいかなかった。


「・・・ほう?」


 躱した敵に目を向けると、人とは少々見た目の違う存在が居た。

 獣人、とでも言うべきか。犬・・・いや、狐顔だな。


「初めて見るな」


 今まで普通に人間しか見て来なかったから、てっきり居ないのかと思っていた。

 獣寄りの顔だが全体像は人型。ただ足は獣の様に関節が逆を向いている。

 手は人型なのか。ただ肉球らしき物は有るな。足は靴を履いているから解らん。


 髪は有るが、それとは別毛並みの毛を全身に纏っており、そして――――――。


「・・・魔獣に近い魔力を感じるな。俺とご同類といった所か」


 魔力を纏い出した毛皮に、魔獣の気配を彷彿とさせる。

 同時に目の前の存在が危険だと、鳥肌が立つ程に全身が警戒を始めた。

 危険だと思った吹雪の魔獣の時ですら、ここまでの危機感は感じていない。


 いや、あの魔獣は『強さ』という一点で考えれば、余り強くは無かった。

 アレは搦め手も含めた強さだ。戦闘能力では俺に数段以上劣っている。

 つまり眼の前に居る獣人は、純粋に恐怖を感じる程に強いという事だ。


「グルルルゥ・・・!」

「人語は解せないのか、それとも喋る気が無いのか・・・まあ、どっちでも良いか」


 獣人は殺意を俺に向け、相手が殺す気なら俺も殺すだけだ。

 やる事はさっきと何も変わらない。ただ敵は殺す。

 とはいえ先程とは違い、気を抜くと俺が殺されそうだがな。


「おい、下がってろ。巻き込まれたら今度こそ本当に死ぬぞ」

「――――あ、ああ、わかった」


 呆けていた男へ下がる様に伝え、頭に居る精霊は特に反応する様子が無い。

 さっきからじっと、ただただじっと、獣人の事を見ている。

 何時もの様な陽気な表情は無く、かといって怒っている訳でもない。


 無表情で見続けているその様に、どうにも違和感しか感じない。

 だがそれを観察する余裕も無く、視線を外した俺に獣人が飛び掛かって来た。


「ふんっ!」

「ギャンッ!?」


 前足というべきか手というべきか、隙を見て爪で切り裂くつもりだったのだろう。

 だが視線を外したのはわざとだ。飛び掛かる予測をしての反撃を腹にぶち込んだ。

 躱し損ねて頬に傷がついたが、ダメージは向こうの方が大きいはずだ。


 とはいえ、さほど効いてはいない様だがな。


「初めて一撃で倒せない相手と会ったな」

「グゥ・・・!!」


 獣人は殴られる直前に無理やりにでも身を捻り、その上で地面を蹴って衝撃をずらした。

 そのせいで体を痛めてはいそうだが、俺の打撃は1割も伝わっていないだろう。

 全力で、一切の容赦なく、殺す気で殴ってこの結果だ。やはり、この世界は危険だな。


 生物兵器の俺に傷をつけ、俺の攻撃をいなし、戦闘続行が可能な相手。

 これが一人存在するという事は、まだ他にも居るという事だろう。

 そして一対一ならば何とかなるだろうが、複数人相手ならどうなるか。


 やはり辺境に来て正解だった。強くなろうと考えて正解だった。


「さて、ならばこちらも、同じ技を使わせて貰おうか」


 魔力を纏い、それだけで済ませずに循環させ、頬に付いた傷が一瞬で治る。

 正確にはアレとコレは違う技だが、殆ど似た様なものだ。

 そして向こうは最初から使い、こっちは今から強化をかけた。


 このままであれば負ける気はしない。奴があれで全力であれば、だが。


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