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第95話、対処方法

「な、なあ嬢ちゃん、大丈夫なのか、あんなこと言っちまって」

「問題だろうな」

『大問題だー!』


 詰所を出た所で男が不安そうな声音で問いかけるが、俺は当然の様に返す。

 当たり前だ。俺は公共の組織に逆らうと言ったんだ。普通は問題しかない。

 だが俺にとっては、たとえ問題が有ろうが譲れない所だ。


 領主とは出来るだけ事は構えたくない。だが所詮は出来るだけだ。

 俺の生き方を通せないのであれば、協力関係が崩れても仕方ない。

 精霊は俺の言葉に追従しただけで、多分何も考えてないとは思うが。


「怖気づいたならもう帰れ」

「っ・・・」


 領主と事を構える。流石にそれは恐ろしいと思ったのだろう。

 男の表情には明らかに怯んでおり、言葉に詰まる様子を見せる。

 だが男は一度目を瞑ると、先程までと同じ平静な表情を作った。


「まあ、何とかなるだろ。嬢ちゃんだしな」

『妹だしね!』

「・・・理由になっていないぞ」


 どうやらこの馬鹿は、今の話を聞いても俺について来るつもりの様だ。

 全く呆れる。どうせ俺に恩だの何だのと考えているのだろう。

 俺はどうでも良いと言ったはずだし、その上でこいつは金を出している。


 ならもう付き合う義理は無いはずだ。とっとと逃げてしまえば良い。


「処刑されても知らんぞ」

「嬢ちゃんと一緒に辺境から逃げるって手もあるぜ?」

『兄は暖かい所が良いと思う』

「残念だが俺が逃げる時は山の方だ。お前じゃ死ぬ」

「それならそれで良いさ。雑用でも荷物持ちでもしながら、必死に逃げ惑うさ」

『僕の事も運べるね!』


 明らかな強がりだ。この男は一度山の魔獣の脅威をその身で味わっている。

 アレを知っていれば、本気でそんな軽口が出るはずがない。

 俺と精霊を分断する存在相手では、逃げる暇も無く殺されるのが落ちだ。


「勝手にしろ。お前が拾った命をどう使おうと、俺には関係ない」

「ああ、勝手にさせて貰うぜ」

『するさぁ!』


 いちいち合の手を入れる精霊が邪魔だな。やはり会話に変な間が空く。

 まあ良い。この男がどう判断しようか、俺には関係に無い話だ。

 俺は俺のやりたいようにやる。ただそれだけだ。


「それで嬢ちゃん、次はどうするんだ」

「暫くは向こうの反応待ちになるな」

「向こうって、嬢ちゃんを見てる奴のか?」

「ああ。組合を出てからはまだ一度も感じていないから、今は対応のしようがない」


 結局の所、対処するにしても手掛かりは一つだけだ。

 昨日から続く気持ち悪い視線。それ以外には何も無い。

 だから何をするにしても、視線を向けられなければ始まらない。


 ただ次に視線を向けられた時は、少し試してみたい事がある。

 今の俺なら出来る様な気がするが、出来るという確信は無い。

 だがとりあえずは試しだ。失敗しても痛手は無い。


「じゃあどうする。一旦組合に戻って訓練でもし直すか?」

「・・・どうするかな」

『兄はもう飽きたー。何か面白い事したーい』


 視線が気持ち悪くて訓練に身が入らない。そう判断したからこそ出て来た。

 勿論その程度で鈍る集中では、実戦で使えるのかという疑問もある。

 だが何となくではあるが、この視線に手の内を晒し続けるのが気に食わない。


 それに、どうにも気持ち悪い。今はもう出来るだけ手早く済ませたい。

 なら視線を感じてすぐに対処できる様に、自由に動ける状況にしておきたい。


「とりあえず訓練は無しだ。とはいえ、別段何をする訳でもないが」

「じゃあ昼食でも食わねえか。良い時間だろ?」

「昼か・・・そうだな。それも良いか」


 辺境に来てからは基本的に朝と夜しか食ってないが、偶には昼食も良いだろう。

 ただ食っている最中に視線を感じると面倒なので、手軽に食べられるものが良い。


「この街には屋台とかは有るんだろうか」

「一応在るには在るぜ。雪が降ってる間は少ないみたいだけどな。寒いから家で食う奴が多いらしくて、屋台をやっててもあんまり儲けが無いんだってよ」

「詳しいな。屋台通いでもしていたのか」

「来て最初の頃はな。仲間・・・元仲間と一緒に、美味い物でも食おうってな」

「そうか」


 元仲間と言った時に寂しい表情を見せたが、すぐに気を取り直して笑顔を見せる男。

 本当に無駄に強がりな男だ。まあ、弱音を吐き続けるよりは良いか。


「じゃあ、案内を頼ん―――――」

「どうした嬢ちゃ・・・感じたのか?」

『みてるねー』

「ああ」


 やはり今日は多いな。対処すると決めて正解だった。

 相も変わらず気持ち悪い視線を感じ、けれどそちらに視線は向けない。

 ただし全神経を集中して、視線を感じる方向の気配を探る。


 魔獣の、精霊の、人外の力を全力で行使して。


 だがやはり、視線の先に人の気配は無い。

 振り向いたとしても、やはりまた気配が消えるだけだろう。

 だが、そこには確実に何かがある。俺に感じられる力が。


 魔術、魔道具、どちらでも良い。だがどちらかなら魔力が有るはずだ。


「・・・見つけたぞ」


 ならばその魔力を辿れば良い。その先に目標が居る。後は追うだけだ。



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