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第93話、不明瞭

「・・・ちっ、またか」


 気持ちの悪い視線を感じ、思わず舌打ちをしてしまう。

 それと言うのもこの視線を、今日は既に10回以上感じているからだ。

 昨日はたった二回だった事を考えればかなり多い。


 しかも現時点では昼過ぎて、この時間でこの数という事はまだまだあるだろう。

 そして視線を向ければ気配が消えるのも相変わらずで、何も掴めていないままだ。


「流石に苛ついて来たな」

『妹は怒りんぼだねぇ』

「・・・むしろ何で今回は怒ってないんだ貴様は」


 支部長の時は即座に切れて、その場で殺そうとした精霊はのんびりしている。

 もう訓練も飽きたのか、訓練場でゴロゴロと転がっている始末だ。

 偶に見えていない誰かに踏まれるが、踏んだ方は困惑した表情で足元を確認する。


 中には足を滑らせて倒れた奴も居て、何も無い所でこけたと笑われていた。

 ただ今日は訓練場のあちこちで発生するので、何かおかしいと思い始めてる奴は居るが。

 そんな中でも精霊はマイペースにゴロゴロと転がり、踏まれた事など気にしていない。


『だって妹が虐められてないし、良いかなーって』

「支部長に虐められた覚えはない」

『うっそだー』


 相変らず話の通じない奴だ。あの時どこをどう見たら虐められてたんだ。

 むしろ俺の方が攻撃する気満々で、支部長の方が泣きじゃくっていただろうに。

 本当に判断基準が解らん。とはいえこの調子だと、こいつは動く気が無さそうだな。


「はぁ・・・はぁ・・・な、なあ、嬢ちゃん、聞きたい事が、あるんだけど・・・」

「どうした」

『どしたー?』


 因みに俺の隣では、今日も今日とて訓練に付き合ってやった男が倒れている。

 いや、今日に限っては、俺も訓練をしていたと言って良いか。

 昨日の様に男がくたばってからではなく、最初から循環を使っている。


 ただしできる限り攻撃せず、受けに回る方向でやっていたが。

 自分としては受け流しをしようとしていたが、どうにも上手くいっていない。

 思ったより力が入り、打ち込まれた剣を何度も弾きあげている。


 ちゃんと合わせているつもりなんだがな。なかなか難しい。

 男は首を傾げる俺を見てから、もう少し息を整えて口を開く。


「ふぅ・・・嬢ちゃん、良く一人でぶつぶつ言ってるけど・・・その、何か居るのか?」

「ん? ああ、そこに居るぞ。精霊が」

『いるよ! 兄です!』

「・・・嬢ちゃん精霊付きだったのか」

「言ってなかったか?」

『なかった?』

「初めて聞いた」


 そうだったか。領主に精霊付きと知られてから、他に人間にも言っていた気になっていた。

 特に隠している訳でも無いしな。こいつが面倒を起こした時は見ないふりしているが。

 むしろ何で俺が気にしなきゃいけないんだ、と思う事も多い。


 いや、本当に何でだろうな。俺は何も悪くないよな。


「しかし、その強さで精霊付きか。向かうところ敵無しなんじゃないか?」

「コイツは戦う基準が良く解らんから、基本的には役に立たんぞ」

『そんな事無いよ! 兄は役に立つよ!』


 お前が役に立ったのは一回だけだろうが。


「そうなのか?」

「そもそも会話が通じた事が無い。今も通じていない」

『ちゃんと通じてるもーん』

「え、でも今何か話してたよな?」

「言葉が通じる事と、話が通じる事は違う。お前にも身に覚えはないか?」

「・・・まってくれ、それかなり危なくないか?」

『なんで?』


 男の言葉に精霊が首を傾げるが、俺はそうだろうなとは思っている。

 この精霊は、やはり精霊であるだけの力を持っていた。

 ならこの会話の通じない状況は、突然暴れ出す可能性を示唆している。


 実際支部長を殺しかけたからな。俺の意思など関係ない行動をするだろう。


「だとしても、俺には関係ない。これは勝手について来てるだけだからな」

『どこまでも付いて行くよ!』

「えぇ・・・」


 男は何か言いたげな顔をするが、むしろ俺が不満を言いたいぐらいだ。

 煩いし、勝手に俺の肉を食うし、言う事聞かないし、役に立たないし。

 何で俺がこんな不愉快な存在の為に、周囲に気を割かなきゃいけないんだ。


「何度投げ捨てても付いて来るんだぞ。俺にどうしろって言うんだ」

『妹と兄は一心同体!』


 ほらもう話が通じていない。俺は一緒に居たくないんだ!

 最近は傍に居る事を諦めているが、それでも完全に諦めてはいない。

 何時かはコイツを引きはがす手段を手に入れて見せる。


「じゃあ今日やけに苛ついてるのは、精霊と言い合いしてるせいなのか」

「・・・精霊が要因に無いとは言わないが、それは別件だな」

『僕が妹に酷い事する訳ないもん』


 酷い事はしないが、苛つかせてはいるからな。頼むから自覚しろ。


「何かあったのか? ああいや、わりぃ。聞かない方が良い話かな、これは」

「別に隠す事でも無い。ただ昨日から気持ちの悪い視線を感じるだけだ」

『じっと見られてる!』

「視線・・・」


 男は視線と聞き、すっと訓練場の端へと目を向ける。

 そこには魔術師の集団が居て、俺の事を観察していた。


「アレはアレでまあ、ちょっと気持ち悪いが、あれじゃない」

「気持ち悪いのか・・・なら追い出さねえのか?」

「訓練場で訓練しているを見ているだけの連中を、追い出せる訳が無いだろう」

『いっぱい居る方が騒がしくて楽しいよ?』

「そりゃそうか」


 魔術師連中は俺の訓練の何が面白いのか、今日もまじまじと俺を見ている。

 そして何やらぶつぶつと呟きながら、本人達も制御訓練をしている様だ。

 ならあれは真面目な行動だろうし、場所を借りている俺が何か言えるはずも無い。


「じゃあ一体誰の視線なんだ?」

「解らないから苛ついている。恐らく肉眼で見ている訳ではない。それなら俺もすぐ気が付くし見逃さない。恐らくは魔術か、魔道具の類を使って見られている」

「・・・嬢ちゃんを監視・・・いや、観察してるって事か」

「おそらくはな。ここまで来ると、俺の隙か弱みでも探っている気がするな。俺は恨まれる覚えなら幾つもある。誰かが何かを仕掛ける為に、と考えるのが妥当だろう」

「あー・・・まあ、それは、否定しにくいな」

『いっぱい殴り飛ばしてるもんねー』


 男が否定できないという通り、俺は結構な恨みを買っている自覚が有る。

 精霊の言う通り何人も殴り飛ばしているし、加減しているとはいえ大怪我をさせている。

 そしてその中で一番可能性が高いのは、つい最近殴り飛ばした馬鹿共だ。


 ・・・だがあの馬鹿共が、こんなに慎重な手段を取るとは思えん。一体何者か。

 昨日は放置捨ておこうかと思ったが、流石にこっちから動くか。


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