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第92話、続、視線

 今回買った武具の類を運ぶ為に、店主が台車を貸してくれた。

 重量自体は全部抱えても問題無いんだが、いかんせん数が多い。

 力があっても体の小さい俺では、全てを抱える事は不可能だった。


 だが台車が有るのであれば、必要なのは引く力のみだ。

 後はこの荷物を組合に持って行き、訓練に使う為に何処かに置かせて貰う。

 あれだけ広いんだ。何処かに荷物置き場の空きぐらいはあるだろう。


 勿論場所代は払う。無料で使わせろ何て言うつもりは無い。


「なあ、嬢ちゃん、台車引くの変わろうか?」

「うん? 別にこの程度、何て事は無いから別にこのままで構わんぞ」

「いや、俺が構うんだって・・・流石にこの目は痛い」


 そうして組合へと向かう道すがら、俺の後ろを歩く男の言葉で周囲を見る。

 すると台車を一人で引く俺を見る目と、その後ろを歩く男への視線が多い事が解る。

 当然だろう。台車を使っているとはいえ、小柄な小娘が重そうな荷物を運んでいる訳だし。


 だが俺にしてみればだかどうしたとしか思わない。周囲の視線など知った事か。

 知らない人間が何をどう思おうが、俺にとっては一切興味がない。


「俺はどうでも良いが、引きたいなら好きにしろ」

「助かるよ・・・」


 とはいえ別にどうしても引きたい訳でも無し、やりたいなら勝手にやれば良い。

 そう思い男に台車を預け、その前をスタスタと歩く。

 余りのんびり歩いているつもりは無いが、それでも小柄な人間の速足だ。


 恵まれた体躯の大男からすれば、台車を引きながらでも余裕―――――。


「うお、ど、どうした嬢ちゃん、突然止まって、何かあったのか?」

「・・・いや、何も無い」


 今の所は、何も無い。何も起こっていない。仕掛けてくる気配は無い。

 だが明らかに俺を見つめている奴がいる。俺を観察している奴がいる。

 組合で感じた得体のしれない何かを、今感じ続けている。


 だがあの時と違い視線を向けないせいか、気配が消える感覚が無い。


「試してみるか」


 とりあえず足を再度動かし、何でもない様に見せて組合へと向かう。

 暫くそうやって歩き続けても、こちらへ向けられる気配は消えない。

 この感覚は何と言えば良いのか。敵意、でもある様な、だが違う気もする。


 あえて言葉にするのであれば、気持ち悪いというのが相応しいか。

 この視線に晒され続けるのはどうにも気分が悪い。

 何よりも俺の体が全力で警戒をしている。その事実が一番気持ち悪い。


 さて、さっきは視線を向けると同時に気配が消えたが、今回はどうなるか。


「・・・消えた、か。一体どうやっているのやら」


 視線を気配を感じた方向に向けると、ほぼ同時に気持ち悪い感覚も消えた。

 どうやら組合で感じたものは、確実に俺へと向けられている者の様だ。

 しかもどうやっているのか解らないが、俺にそれ以外を察知させない。


 見られているという事は解るが、それ以上が解らない。

 視線を向けると同時に消えるなら、普通なら逃げている姿は見せるはず。

 だが実際には、視界の先に怪しい物は無く、逃げる気配も感じない。


「魔術か、魔道具か、それとも俺が知らない他の技術か・・・何にせよ気持ち悪いな」


 離れた位置から他者を観測する魔術や魔道具、という物は存在しそうではある。

 もしそうなら、観測相手に気が付かれると消える、という条件でも有るのかもしれないな。

 となると俺が見つけるのは困難で、相手は好き勝手に観測できるという事になる。


 ・・・様に思えるが、それならそれで少しおかしい。

 何せ俺を見つめる目を感じたのは、今の所二回だけだ。

 しかもどちらも短時間で、特に何をする訳でもない所での出来事。


 もし俺の事を自由に観測できるなら、もっと頻繁に気配を感じて良いはず。

 ならこの技術の為の制限がある、と考えるのが妥当じゃないだろうか。

 勿論この考えが間違ってる可能性も大いにあり得るがな。


 流石に、俺の事を見たいだけ、なんて落ちは無いと思いたいが。


「・・・まあ、その内向こうから接触して来るか」


 気にしていても仕方ない。どうせ今の所は見て来るだけの事。

 しかも視線を向ければ消えるとなれば、殆ど害は無いに等しい。

 なら俺の答えは一つ。無視だ無視。関わるのも面倒くさい。




 ・・・そう、思っていた。翌日、視線を感じる回数が増えるまでは。


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