表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/370

第89話、循環の加減

「驚かせた事は理解した。だが俺に今以上の気を遣うつもりは無いぞ」


 街に騒動を起こしかけた、という事に一切の罪悪感が無い訳ではない。

 だが俺はそもそも、周囲の迷惑を多少考えた上でこの場を選んだ。

 それが『俺の力が強いから気を付けろ』と言われて納得する訳がない。


「勿論解ってるわよ。様子を見に来た魔術師達もね。貴女が真面目に鍛錬をしていただけだって事は、魔術師なら見ていれば誰でも解るもの」

「そういうものか?」

「むしろアレを見てふざけてると言い出す魔術師が居たら、貴女が動く前に私が叩き出すわよ。どうせ碌な実力も無い口だけの魔術師でしょ、そんな奴」


 なら何故、態々俺にその事実を伝えに来たのか。単に言いたかっただけか?

 その可能性は高そうだな。さっきも凄まじい勢いで語っていたし。

 俺の思考が表情に出ていたのか、支部長は小さな溜め息を吐いて続ける。


「でも貴女、言っておかないと別の場所で騒動でも起こしそうでしょ。ここでやる分には構わないけど、街中でやらないでね。貴女だって見知らぬ他人に迷惑をかける気は無いんでしょ?」

「基本的にはな」


 積極的に迷惑をかける気は無く、迷惑をかけた場合は謝罪する気もある。

 だがそれはあくまで、俺の生き方を通した上での話だ。

 もし俺の生き方そのものを咎めるならば、一切の謝罪をするつもりは無い。


 俺は俺のやりたい様にやる。その一点だけは絶対に譲らない。

 悪党として、我を通す事だけは絶対に。それは今の俺が持つ数少ない矜持だ。


「貴女の、基本的に、って言葉は怖いのよねぇ。どこが爆発するか解らなくて」

「別に、俺に理不尽を押し付けさえしなければ良いだけだが」


 少なくとも、理不尽を押し付けられた時か、敵意を向けられた時以外は暴れていない。

 心底腹を立てたコイツにだって、しっかり答えを聞くまでは手を出さなかった。

 俺は別に狂戦士じゃない。話を聞くぐらいの理性は持っている。


 とはいえ、あの場にゲオルドが居なかったらこの関係は無かった、かもしれないが。


「理不尽ねぇ・・・まあ良いわ。どうせ私が何を言おうと、貴女を止めるのは無理だもの。訓練風景を見てもそう思ったし、あの魔力を感じちゃ注意する気すら失せて来るもの」

「その割には、色々と言って来るがな」

「当たり前でしょ。私支部長なんだから、言わないと示しがつかないじゃないの。本当は貴方に小言なんて、言わなくて良いなら絶対に言いたくないわよ。本気で怖いんだから」

「それは御苦労な事だ」


 怖いという割に、本当に怖がっているのか疑わしい態度も多いがな。

 先日の爆笑が良い例だ。有能なのかポンコツなのか解らなくなる。

 とはいえコイツは矜持が無いと言いながら、大きな矜持を持つのも確かだ。


 だからこそ恐怖が有っても、俺の相手などを諦めずにするのだろう。


「それじゃ、言いたい事は全部言ったし私は向こうに戻るわね。貴女が何をするつもりかは知らないけど、訓練頑張って頂戴。ああ、流石に施設破壊した場合は請求するわよ?」

「そこまで大暴れするつもりは無い」


 俺の返答に対し最後まで疑いの目を向けながら、支部長は訓練所から消えて行った。

 本当に破壊する気など無いというのに、アイツは俺を一体何だと思っているんだ。

 いや、魔術を失敗していた事を考えれば、その勢いで壊すと思われているのか。


 ・・・無くは無いな。攻撃魔術の訓練は、やりたいなら外に行くべきか。

 山の方では無く街道の方であれば、雪は有っても寒さはマシか?


「すげえな嬢ちゃん、領主に雇われてる魔術師が一目置く程って」

「ん、ああ、どうだろうな。むこうは単に魔力量の大きさに驚いただけな気もするがな」


 そこで一切口を挟まなかった男が声をかけて来たので、忘れていたと思いながら返す。

 支部長は俺の実力に目を剝いていた様だが、領主館の連中は同じかは怪しい。

 確かに魔力量だけを考えれば、彼らが驚いた可能性は低くない。


 支部長も、魔力を垂れ流して倒れないのがおかしい、と言っていたしな。

 だが制御という一点を考えると、あの治癒術を極めた様な女がいる。

 あの技術を知っている魔術師隊であれば、制御その物は余り驚かないのでは。


「それで、俺は何をしたらよかったんだ?」

「む?」

「え、いや、首を傾げられても俺が困るんだけど・・・何か協力しろって言ってたろ?」

「・・・ああ、悪い、色々予想外な事が起きて忘れていた」


 中々制御が上手くいかなかった事も、支部長が来た事も、見学が多い事も。

 色々と俺の予想の外の事が多く、立てていた予定が頭から吹き飛んでいた。


「思い出したなら何でも言ってくれ。嬢ちゃんの頼みならできる限り聞くぜ」

「なに、やる事は単純だ。お前の持つ大剣を構えて俺の攻撃を受けてくれ」

「木剣じゃないのか?」

「木じゃ直ぐ壊れそうだからな。ああ、安心しろ、大剣が壊れたら代わりの剣を買う事は約束してやる。お前の出した金が有ればそれぐらい余裕だろう」


 俺がやりたい事は、魔力を循環させた状態での運動だ。

 出来ればあの状態で加減が出来、全力も出せる様にしておきたい。

 むしろメインは加減の方だな。全力は別に何も気にしなければ良いだけだし。


 加減をする為に循環を切るのも効率が悪い。なら循環の加減に慣れたら良いだけだ。

 おあつらえ向きに、俺に付き合う気の有る男が居る。なら利用させて貰おう。


「・・・それ聞いて、一気に恐ろしくなって来たんだが。大丈夫かそれ。俺死なない?」

「安心しろ、お前に当てるつもりは無いし、当てても治してやる」

「・・・お手柔らかに」

「勿論だ。加減の練習だからな」

「待って、その言葉は尚更怖い。今は加減できねえって事だよな?」


 ええい、ぐちぐちと煩い。付き合うと言ったんだからとっとと構えろ。

 そこでふと、精霊が静かだなと今更気が付いたが、寝ていたので放置した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ