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第87話、自己鍛錬(治癒術)

 男の息が整うまでと、俺もまた昨日と同じく魔力循環の訓練に移る。

 昨日試した事で、どうも俺は魔力循環に消耗が無い事が解った。

 それは魔力が膨大過ぎるせいなのか、それとも制御の高さ故なのか。


 どちらが理由かは解らないが、とりあえず普通に循環させる分には消耗が無い。

 ただそれは、感覚で自然と出来る範囲の循環は、という言葉が追加される。


 魔術師連中の循環を見た限り、この技術には強弱が付けられるはずだ。

 だが俺が感覚で行う分には強弱は無く、常に一定の循環が続けられている。

 これは他人に治癒術を使った時も同じ事だった。あの時も一定だった。


「ふぅ・・・」


 安定した状態を意識して、軽く息を吐いてから心を内に向ける。

 そして感覚で扱っている魔力を、意識して強く流す様に切り替えて行く。

 途端に若干の制御のブレが見え、だが無視して流れを強め続ける。


「ぐっ・・・!?」


 魔力がガンガン抜けて行く。循環に乗らずに外へ放出されていく。

 今までまるで消耗を感じなかった魔力が、凄まじい勢いで消耗されはじめる。

 このままではな不味いと本能が警鐘を鳴らすが、それでも循環を止めはしない。


「ちぃ・・・!」


 成程、消耗が無かったのは、きっと俺の魔獣としての自然な戦闘形態だったのだろう。

 つまり本来であれば、俺はあれだけの魔力を纏う事が前提の生物だったのだ。

 だがその力を強め、本来の性能以上の力を求め、強化を上げれば消耗を感じ始めて当然。


 それ所か体の各所に痛みも感じ始め、これ以上は無理だと訴えられている様にも感じた。

 俺は魔術師共が唸るような制御を見せていた訳だが、何の事は無い理由だったな。

 結局の所、生まれつきの才能のみで力を使い、技術を持っていた訳ではなかった。


「だが、出来ないはずは、ない・・・!」


 確かに俺は才能に頼っていたのだろう。感覚で使える魔術に頼っていたのだろう。

 男に対し、才能に頼るな、力に頼るなと言いながら、自分も同じだったと言うしかない。


 だが無理なはずがない。魔術師共は、本来人には自然と纏えない魔力を技術で纏っていた。

 その見本を見せて貰った。未熟な者も、熟達した者も、両方を見せて貰ったんだ。

 ならばこれも同じ様に、未熟な者達の真似をする様に、魔力を整えるだけだ。


「ぶうぅ・・・!」


 全身の血が沸騰するかの様に熱く感じ、呼吸が少し荒くなる。

 力が張る感覚があるが、同時にだるい感覚も襲って来る。

 相反した感覚を抱えながらも、諦めずに循環の強化を安定させようと続ける。


 解っている。結局の所これも感覚だ。才能に頼った感覚の繋ぎ合わせだ。

 元々魔力を操る才能が有り、その感覚を使って流れを強化したに過ぎない。

 だが、だからこそ出来るはずなんだ。反復練習の先に技術の向上が有る様に。


 元々が出来るからこそ、その次の階層に進む事は、そう難しくないはず・・・!


「はぁ・・・はぁ・・・!」


 汗が流れる。寒い中暖かい服を着ているが、暑いと感じた事は無かった。

 だが今は全身がやけに熱く、それは気のせいではなかったらしい。

 まるで真夏日の中に居るかの様に、体の熱さで呼吸が更に荒くなる。


 冷たい空気を体の中に入れようと。燃えるような暑さを抑えようと。

 そうして荒い呼吸で続ける事暫くして、何とか安定をさせる事は出来た。


「・・・ほんの少し強めただけでこれか」


 だがそれは、元々の循環を10とするとすれば、今は13か14ぐらいだろうか。

 しかも気を抜けば制御がぶれる辺り、安定というのは間違っているのかもしれない。

 この辺りはやはり、元々の俺という凡人性能が足を引っ張っているな。


 とはいえ安定してきた証拠とでも言うべきか、先程の様な苦痛は感じていない。

 少々内から何かか溢れそうな感覚は在るが、それ以外は最初の循環と同じ状態だ。

 ただ感覚的に解る事は、この循環をずっとは続けていられないという事か。


「消耗は小さいが・・・小さいと感じるという事は、そういう事だろうな」


 昨日は消耗を一切感じず、一生でも続けていられそうだと思った。

 だが今はそんな気がしない。軽くだが消耗し続けている感覚がある。

 元の魔力が多いせいか、そこまでの消耗は感じない。だが確実に消耗はしている。


 とはいえ先程の苦痛を感じていた状態だと、それ所の消耗では無かったが。


「これが、治癒術師共の感じている世界だろうな」


 治癒術を主にする部隊の隊長は、恐らくこの状態を保っているのだろう。

 そしてそこに至るまでに、どれだけの苦痛を感じて技術を磨いていたのか。

 勿論彼女にも才能は有ったのだろう。魔術師になり、魔力を操る才能が。


 だが才能だけでは片づけられない努力が、そこにはきっとあったはずだ。

 本当に狡いなこの体は。血の滲むような努力の果てが基準値なのだから。


「・・・せめて倍にしても安定する様にはしたいな」


 だからこそ、この程度で甘えていられない。今の俺は出来る側なのだから。

 生きる為に努力をすると決めた。悪党として生き抜くと決めた。

 ならば使える力は何でも使える様にしておくべきだ。


 そうして男の息が整うまでのはずが、結局昼過ぎ頃まで循環に費やした。

 ただその短時間でも成果があった訳だが、魔術師に話せば恨まれそうだな。


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